司法書士法人・土地家屋調査士法人我孫子総合事務所(横浜)測量・相続・遺言

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債権法の改正・補足説明(その二百十三)

5 合意による賃貸人たる地位の移転

不動産の譲受人に対して賃貸借を対抗することができない場合であっても,その賃貸人たる地位は,譲渡人及び譲受人の合意により,賃借人の承諾を要しないで,譲渡人から譲受人に移転させることができるものとする。

この場合においては,前記4(4)及び(5)を準用するものとする。

(概要)

本文第1文は,合意による賃貸人たる地位の移転について定めるものであり,判例法理(最判昭和46年4月23日民集25巻3号388頁)を明文化するものである。

一般に,契約上の地位の移転には相手方の承諾が必要とされているが(前記第21参照),賃貸人たる地位の移転については,少なくとも目的物の所有権の移転と共に行う限りにおいては,相手方の承諾は不要とされている。

本文第2文は,本文第1文の合意承継の場面における法律関係の明確化を図るため,当然承継の場面における前記4(4)及び(5)の規律を準用するものである。

(補足説明)

本文の規律は,目的物の所有権と共に賃貸人たる地位を譲渡する場合に関するものですが,前記4の補足説明の2の第4パラグラフに記載したとおり,目的物の所有権を譲渡せずに賃貸人たる地位のみを第三者に譲渡することについての実務上のニーズがあるとの指摘があります。

本文の規律は,目的物の所有権と共に譲渡しなければ賃貸人たる地位の譲渡は認められないという趣旨のものではなく,その点については引き続き解釈に委ねられることを前提とするものです。

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債権法の改正・補足説明(その二百十二の三)

(補足説明)

1 民法第605条の「物権を取得した者に対しても,その効力を生ずる」という文言は,①物権を取得した者に対して賃借権を対抗することができること,②物権を取得した者に対して賃貸人たる地位が移転すること(賃貸借契約が承継されること)を意味するものとされています。

もっとも,①の賃借権の対抗の問題と,②の賃貸人たる地位の移転の問題とは,それぞれ異なる問題であることから,両者の規律を分けて定めるべきであるとの指摘があります。

また,②の賃貸人たる地位の移転に関する規律は,同条の「物権を取得した者」のうち,賃貸人である所有者からその有権を譲り受けた者や賃貸人である地上権者からその地上権を譲り受けた者との関係でのみ問題となる規律であり,例えば賃貸人である所有者から地上権の設定を受けた者や抵当権の設定を受けた者との関係で問題となる規律ではないことから,①「物権を取得した者」に該当する全ての者との関係で問題となる賃借権の対抗に関する規律と,②一部の者のみとの関係で問題となる賃貸人たる地位の移転に関する規律とを分けて定めるべきであるとの指摘もあります。

本文(1)(2)は以上の指摘を踏まえたものです。

2 本文(3)について,(概要)に掲げた判例(最判平成11年3月25日判時1674号61頁)は,賃貸不動産を譲り受けた新所有者が賃借権の対抗を受けるときは,特段の事情がない限り,賃貸人たる地位は新所有者に当然に承継されることを前提とした上で,旧所有者と新所有者との間に賃貸人たる地位を留保する旨の合意があるだけでは上記の特段の事情には当たらないとしています。

もっとも,実務では,例えば賃貸不動産の信託による譲渡等の場面において賃貸人たる地位を旧所有者に留保するニーズがあり,そのニーズは賃貸人たる地位を承継した新所有者の旧所有者に対する賃貸管理委託契約等がされたという構成によっては賄えないとの指摘があります。

すなわち,例えば賃貸管理のノウハウを持たない新所有者が旧所有者にそれを委託するのみであれば,賃貸人たる地位
自体は新所有者に承継させた上で,賃貸人である新所有者が旧所有者との間で賃貸管理委託契約等を締結すれば足ります。

しかし,賃貸不動産の信託による譲渡等の場面においては,新所有者(信託の受託者)が修繕義務や費用償還義務等の賃貸人としての義務を負わないことを前提とするスキームを構築するニーズがあり,上記の賃貸管理委託契約等を締結することではそのニーズに応えることができず,賃貸人たる地位自体を旧所有者に留保する必要があるとの指摘がされています。

この問題を考えるに当たっては,賃貸人たる地位を留保したまま賃貸不動産の所有権のみを移転させると,賃借人は所有権を失った旧所有者との間で転貸借等の関係に立つこととなり,その後に新所有者と旧所有者との間の法律関係が債務不履行解除等によって消滅すると,賃借人は新所有者からの明渡請求等に応じなければならないことになりますから,そのような地位に自らの意思とは無関係に立たされることとなる賃借人の不利益に配慮する必要があります。

そこで,賃貸人たる地位を留保する旨の合意に加えて,新所有者を賃貸人,旧所有者を賃借人とする賃貸借契約を締結することを要件とし(本文(3)第1文),その賃貸借契約が終了したときは改めて賃貸人たる地位が旧所有者から新所有者
又はその承継人に当然に移転するというルールを用意することとしています(本文(3)第2文)。

新所有者と旧所有者との間で賃貸借契約を締結することを要件としているのは,①賃貸人たる地位の留保合意がされる場合には,新所有者から旧所有者に何らかの利用権限が設定されることになりますが,その利用権限の内容を明確にしておくことが望ましいとの指摘,②賃貸人たる地位を留保した状態で新所有者が賃貸不動産を更に譲渡すると,その譲渡によって新所有者と旧所有者との間の利用関係及び旧所有者と賃借人との間の利用関係が全て消滅し,新所有者からの譲受人に対して賃借人が自己の賃借権を対抗することができなくなるのではないかとの疑義を生じさせないためには,新所有者と旧所有者との間の利用関係を賃貸借としておくことが望ましいとの指摘,③賃貸借に限定したとしても,それによって旧所有者と新所有者との間の合意のみで賃貸人たる地位の留保が認められることになるのですから,現在の判例法理の下で賃借人の同意を個別に得ることとしている実務の現状に比べると,旧所有者と新所有者にとって不当な不便が課されるものではないとの指摘を踏まえたものです。

また,以上とは異なる観点から,賃貸人たる地位を留保したまま賃貸不動産の所有権のみを移転させると,賃借人は所有権を失った旧所有者に対して敷金返還請求権等を行使せざるを得ないことになりますから,そのような地位に自らの意思とは無関係に立たされることとなる賃借人の不利益にも配慮する必要があるとの指摘があります。

これに対しては,悪質な事案については敷金返還請求権等を被保全債権とする詐害行為取消権を行使することによって賃貸不動産の譲渡行為を取り消すという手段が考えられることから(前記第15,1の(注3)参照),賃借人の保護に重大な支障を生ずることはないとの指摘がされています。

ところで,実務においては,賃貸人たる地位を旧所有者に留保することのニーズのほかに,新所有者がその取得した所有権を留保したまま賃貸人たる地位のみを旧所有者以外の第三者に譲渡することのニーズがあるとされ,賃貸不動産の信託による譲渡等の実務においては,むしろこの方法を用いる例が多いとの指摘があります。

一般に,賃貸不動産の所有権と共に賃貸人たる地位を譲渡する場合には,賃借人の承諾を要しないとされていますが(後記5参照),所有権の譲渡を伴わないで賃貸人たる地位のみを譲渡することについては,少なくとも従来は消極に解されてきました。

もっとも,本文(3)の新所有者が賃貸人たる地位を旧所有者に留保する行為は,新所有者がその取得した所有権を留保したまま賃貸人たる地位のみを他人に譲渡する行為と同様と捉える余地があり得ます。

仮にこの捉え方を前提として本文(3)の要件に沿って考えますと,①新所有者と第三者との間で賃貸人たる地位のみを譲渡する旨の合意をしたことに加え,②新所有者を賃貸人,第三者を賃借人とする賃貸借契約を締結したことを要件とし(本文(3)第1文参照),その賃貸借契約が終了したときは賃貸人たる地位が第三者から新所有者又はその承継人に当然に移転するというルールを用意することによって(本文(3)第2文参照),新所有者がその取得した所有権を留保したまま賃貸人たる地位のみを第三者に譲渡することを認める余地があり得ます。

前記第21の契約上の地位の移転に関する規律との関係でいえば,その規律の特則として位置づけられる本文(3)の規律を類推適用する場面であるとの理解ですが,この問題については引き続き解釈に委ねられることを前提としています。

3 本文(4)は,新所有者が自己の賃貸人たる地位を賃借人に対抗することができるかどうかに関する規律ですから,新所有者が登記を備えていない場合であっても,賃借人の側から新所有者を賃貸人と認めて賃料の支払等を行うことは可能であることを前提としています(最判昭和46年12月3日判時655号28頁)。

4 本文(5)について,有益費の償還請求は賃貸借が終了した時点の賃貸人に対して行うものと考えられますから(民法第608条第2項,第196条第2項参照),有益費償還債務の当然承継に関する規律は必要でないとも考えられます。

もっとも,(概要)に掲げた判例(最判昭和46年2月19日民集25巻1号135頁)は,有益費償還債務の当然承継
に関するもの(民法第608条第2項が準用する同法第196条第2項の「回復者」は新所有者を指す旨を判示したもの)ですから,本文(5)においても,必要費,有益費の別を問わない規律としています。

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債権法の改正・補足説明(その二百十二の二)

(概要)

本文(1)は,まず,民法第605条の「その後その不動産について物権を取得した者」という文言について,「その他の第三者」を付加するとともに,「その後」を削除するものである。

同条の規律の対象として,二重に賃借をした者,不動産を差し押さえた者等が含まれることを明確にするとともに,「その後」という文言を削除することによって賃貸借の登記をする前に現れた第三者との優劣も対抗要件の具備の先後によって決まること(最判昭和42年5月2日判時491号53頁参照)を明確にするものである。

また,本文(1)では,同条の「その効力を生ずる」という文言を「対抗することができる」に改めている。

これは,第三者に対する賃借権の対抗の問題と,第三者への賃貸人たる地位の移転の問題とを区別し,前者を本文(1),後者を本文(2)で規律することによって,同条の規律の内容をより明確にすることを意図するものである。

本文(2)は,民法第605条の規律の内容のうち賃貸人たる地位の移転について定めるものであり,賃貸人たる地位の当然承継に関する判例法理(大判大正10年5月30日民録27輯1013頁)を明文化するものである。

なお,本文(2)は,所有者が賃貸人である場合が典型例であると見て,その場合における当該所有権の譲受人に関する規律を定めたものであるが,地上権者が賃貸人である場合における当該地上権の譲受人についても同様の規律が妥当すると考えられる。

本文(3)は,賃貸人たる地位の当然承継が生ずる場面において,旧所有者と新所有者との間の合意によって賃貸人たる地位を旧所有者に留保するための要件について定めるものである。実務では,例えば賃貸不動産の信託による譲渡等の場面において賃貸人たる地位を旧所有者に留保するニーズがあり,そのニーズは賃貸人たる地位を承継した新所有者の旧所有者に対する賃貸管理委託契約等によっては賄えないとの指摘がある。

このような賃貸人たる地位の留保の要件について,判例(最判平成11年3月25日判時1674号61頁)は,留保する旨の合意があるだけでは足りないとしているので,その趣旨を踏まえ,留保する旨の合意に加えて,新所有者を賃貸人,旧所有者を賃借人とする賃貸借契約の締結を要件とし(本文(3)第1文),その賃貸借契約が終了したときは改めて賃貸人たる地位が旧所有者から新所有者又はその承継人に当然に移転するというルールを用意することとしている(本文(3)第2文)。

もっとも,賃貸人たる地位の留保に関しては,個別の事案に即した柔軟な解決を図るという観点から特段の規定を設けずに引き続き解釈に委ねるべきであるという考え方があり,これを(注)で取り上げている。

本文(4)は,賃貸人たる地位の移転(当然承継)を賃借人に対抗するための要件について定めるものであり,判例法理(最判昭和49年3月19日民集28巻2号325頁)を明文化するものである。

本文(5)は,賃貸人たる地位の移転(当然承継)の場面における敷金返還債務及び費用償還債務の移転について定めるものである。

敷金返還債務について,判例(最判昭和44年7月17日民集23巻8号1610頁)は,旧所有者の下で生じた延滞賃料等の弁済に敷金が充当された後の残額についてのみ敷金返還債務が新所有者に移転するとしているが,実務では,そのような充当をしないで全額の返還債務を新所有者に移転させるのが通例であり,当事者の通常の意思もそうであるとの指摘がある。

そこで,上記判例法理のうち敷金返還債務が新所有者に当然に移転するという点のみを明文化し,充当の関係については
解釈・運用又は個別の合意に委ねることとしている。

費用償還債務については,必要費,有益費ともに,その償還債務は新所有者に当然に移転すると解されていることから(最判昭和46年2月19日民集25巻1号135頁参照),この一般的な理解を明文化することとしている。>

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債権法の改正・補足説明(その二百十二の一)

4 不動産賃貸借の対抗力,賃貸人たる地位の移転等(民法第605条関係)

民法第605条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 不動産の賃貸借は,これを登記したときは,その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができるものとする。

(2) 不動産の譲受人に対して上記(1)により賃貸借を対抗することができる場合には,その賃貸人たる地位は,譲渡人から譲受人に移転するものとする。

(3) 上記(2)の場合において,譲渡人及び譲受人が,賃貸人たる地位を譲渡人に留保し,かつ,当該不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは,賃貸人たる地位は,譲受人に移転しないものとする。この場合において,その後に譲受人と譲渡人との間の賃貸借が終了したときは,譲渡人に留保された賃貸人たる地位は,譲受人又はその承継人に移転するものとする。

(4) 上記(2)又は(3)第2文による賃貸人たる地位の移転は,賃貸物である不動産について所有権移転の登記をしなければ,賃借人に対抗することができないものとする。

(5) 上記(2)又は(3)第2文により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは,後記7(2)の敷金の返還に係る債務及び民法第608条に規定する費用の償還に係る債務は,譲受人又はその承継人に移転するものとする。

(注)上記(3)については,規定を設けない(解釈に委ねる)という考え方がある。

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債権法の改正・補足説明(その二百十一)

3 賃貸借の存続期間(民法第604条関係)

民法第604条を削除するものとする。

(注)民法第604条を維持するという考え方がある。

(概要)

賃貸借の存続期間の上限(20年)を廃止するものである。特則の置かれている借地借家法等ではなく民法第604条の適用がある賃貸借であっても,例えばゴルフ場の敷地の賃貸借,重機やプラントのリース契約等においては20年を超える存続期間を定めるニーズがあるとの指摘を踏まえたものである。

もっとも,長期の存続期間を一般的に認めると賃借物の損傷や劣化が顧みられない状況が生じかねないこと等から同条の規定を維持(必要に応じて特別法で対処)すべきであるという考え方があり,これを(注)で取り上げている。

(補足説明)

賃貸借の存続期間の上限を20年とする民法第604条は,長期の存続期間を一般的に認めると賃借物の損傷や劣化が顧みられない状況が生じて社会経済上の不利益をもたらしかねないとの懸念や長期間にわたる利用関係の設定は地上権や永小作権を利用すればよいとの考慮に基づく規定であるとされています。

もっとも,実際には,土地の利用関係の設定に地上権や永小作権はそれほど用いられておらず,賃貸借が多く用いられています。

また,一定の類型の賃貸借については,賃借人の保護等の観点から20年を超える存続期間を定める必要性が高い場合があり,借地借家法においては,建物の所有を目的とする土地の賃借権についての存続期間を30年又はこれよりも長い期間とし(同法第3条,第9条),建物の賃貸借については民法第604条の規定の適用を除外し(借地借家法第29条第2項),いずれも賃貸借の存続期間の上限を設けないこととしています。

また,農地法においては,農地又は採草放牧地の賃貸借について,存続期間の上限を50年に修正する規定が設けられています(同法第19条)。

さらに,借地借家法や農地法が適用されない賃貸借であっても,例えばゴルフ場の敷地等の賃貸借においては20年を超える存続期間を定めるニーズがあるとの指摘や,20年を超える大型のプロジェクトにおいては現に国外で重機やプラントのリース契約が20年を超える存続期間で行われているため,日本の民法において賃貸借の存続期間の上限が20年と定められていると経済活動上の不都合を生ずるとの指摘がされています。

もっとも,賃貸借の存続期間の上限を廃止すると,法的には例えば100年を超える存続期間を定めた賃貸借も可能となりますが,そのような長期間の賃貸借を一般的に認めることにはなお慎重であるべきとの指摘や,長期の存続期間を定めるニーズがあるとしても,必要に応じて特別法等による修正を図れば足りるとの指摘もあります。

また,賃貸借の存続期間の上限を廃止すべきであるとする本文の考え方や,これを維持すべきだとする(注)の考え方のほかに,賃貸借の存続期間の上限を現在の20年から50年などに修正するとする考え方や,存続期間の上限を経過しても直ちに賃貸借が終了するのではなくその時点で当事者に任意の解除権(解約権)が付与されるとする考え方もありす。

いずれの考え方も,存続期間の上限を完全に廃止することには危惧を抱きつつも,長期の存続期間を定めるニーズに応える必要があるとの発想に基づくものです。

もっとも,存続期間の上限を50年などに修正する前者の考え方については,具体的に何年と修正するのが最も適切であるかについて引き続き検討する必要がありますし,他方,任意の解除権(解約権)を付与する後者の考え方については,存続期間の上限が経過すれば当事者の一方が自由に解除(解約)することができるというのでは,その上限を超える長期の存続期間を定めるニーズには応えられないとの指摘があります。

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債権法の改正・補足説明(その二百十)

2 短期賃貸借(民法第602条関係)

民法第602条柱書の部分の規律を次のように改めるものとする。

処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には,同条各号に掲げる賃貸借は,それぞれ当該各号に定める期間を超えることができないものとする。契約でこれより長い期間を定めたときであっても,その期間は,当該各号に定める期間とするものとする。

(概要)

本文第1文は,民法第602条の「処分につき行為能力の制限を受けた者」という文言を削除するものである。

この文言は,未成年者,成年被後見人,被保佐人及び被補助人を指すものとされているが,これらの者が短期賃貸借をすることができるかどうかは同法第5条,第9条,第13条,第17条等によって規律されており,同法第602条の存在はかえって短期賃貸借であれば未成年者や成年被後見人であっても単独ですることができる等の誤解を生むおそれがあることを理由とする。

本文第2文は,民法第602条各号に定める期間を超える賃貸借をした場合にはその超える部分のみを無効とする旨を定めるものであり,同条に関する一般的な理解を明文化するものである。

(補足説明)

民法第602条は,同条の「処分につき行為能力の制限を受けた者」が同条所定の期間を超えない賃貸借(短期賃貸借)であれば単独ですることができることを前提としているようにも読めます。

もっとも,未成年者は,法定代理人の同意がない限り,短期賃貸借かどうかにかかわらず,原則として賃貸借契約を締結することができません(同法第5条,第6条)。

また,成年被後見人が締結した賃貸借契約は,短期賃貸借かどうかにかかわらず,原則として取り消すことができま(同法第9条)。

それにもかかわらず上記のような規定があると,短期賃貸借であれば未成年者や成年被後見人であっても単独ですることができるとの誤解を生みかねないとの指摘があります。

一方,被保佐人は,短期賃貸借であれば保佐人の同意なく単独ですることができます(民法第13条第1項第9号)。また,被補助人については,補助人の同意を要する行為の範囲が家庭裁判所の審判によって定められますが(同法第17条第1項本文),短期賃貸借はその審判の対象とすることができませんから(同項ただし書),被補助人も,被保佐人と同様,短期賃貸借であれば補助人の同意なく単独ですることができます。

加えて,被補助人は,被保佐人と異なり,長期賃貸借であっても補助人の同意を要する行為とされていなければ単独ですることができます。

したがって,被保佐人及び被補助人については,以上の各規定とは別に民法第602条で長期賃貸借をすることができない旨を定める必要はなく,特に被補助人については長期賃貸借をすることができる場合もあることから適当でないとの指摘があります。

本文は以上の指摘を踏まえたものです。

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債権法の改正・補足説明(その二百九)

第38 賃貸借

1 賃貸借の成立(民法第601条関係)

民法第601条の規律を次のように改めるものとする。

賃貸借は,当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了した後に返還することを約することによって,その効力を生ずるものとする。

(概要)

民法第601条の規定を基本的に維持しつつ,賃貸借の終了によって賃借人の目的物返還債務が生ずる旨を明記するものであり,賃料支払債務と並ぶ賃借人の基本的な債務(民法第616条,第597条第1項参照)を賃貸借の冒頭規定に盛り込むものである。

(補足説明)

いわゆる貸借型の契約のうち消費貸借及び使用貸借の冒頭規定(民法587条,第593条)には借主の目的物返還債務が明記されていますが,賃貸借の冒頭規定にはこれが明記されていません。

民法第616条が使用貸借に関する同法第597条第1項(借用物の返還時期)の規定を準用するのみです。

もっとも,賃貸借においても,他の貸借型の契約と同様,目的物返還債務は賃借人の基本的な債務であることから,これを冒頭規定に盛り込む必要があるとの指摘がされています。

本文はこの指摘を踏まえたものです。

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債権法の改正・補足説明(その二百八の二)

(補足説明)

1 民法第136条第2項本文は,期限の利益は放棄することができると規定し,同項ただし書は,期限の利益の放棄によって相手方の利益を害することはできないと規定しています。

同項ただし書は,期限の利益の放棄によって相手方に生じた損害を賠償する義務を負うことを規定したものであり,相手方に損害が生ずる場合であっても,期限の利益の放棄自体が否定されることはないと解されています。

したがって,消費貸借の貸主は,借主による期限前弁済(期限の利益の放棄)に対して,貸主に生ずる損害を賠償するま
ではこれを受けないという態度に出ることはできず,

期限前弁済自体は受けた上で,それによって生じた損害を主張立証して賠償請求をすることになります。

もっとも,これに対しては,借主が貸主に生ずる損害を賠償した場合に限り,借主は期限前弁済をすることができるとする考え方もあります。

そこで,本文(2)では,期限前弁済と損害賠償との関係については解釈に委ねることを前提に,貸主は借主に対して期限前弁済によって生じた損害の賠償を請求することができるという規律を設けています。

2 期限前弁済によって貸主に生じた損害の内容について,従来は,約定の返還時期までに生ずべきであった利息相当額であると説明されることが多くみられました。

もっとも,期限前弁済を受けた貸主は,その期限前弁済によって受領した金銭等を他に貸し付けるなどすることによって利益を得ることができるのですから,この場合における貸主の損害の内容は,約定の返還時期までに生ずべきであった利息相当額から上記の再運用等による利益を控除した額とすべきであるとの指摘があります。

他方,利息は実際に元本を利用している間にのみ生ずるものであり(前記4の補足説明の第2パラグラフ参照),利息付消費貸借における返還時期の定めは,通常,返還時期までに生ずべき利息を保証する趣旨のものではないことから,期限前弁済によって貸主に生じた損害の内容を考えるに当たっては,約定の返還時期までに生ずべきであった利息相当額を基礎とするのではなく,貸付金の調達コスト等のいわゆる積極損害を基礎とすべきであるとの指摘があります。

いずれにせよ,この問題は前記1(4)の借主の解除によって貸主に生じた損害の内容の問題と類似のものであり(前記1の補足説明の第3パラグラフ参照),例えば消費者金融の場面を想定すると,貸主である消費者金融業者は一般に多数の小口貸付けを行っているため,借主が期限前弁済をした金銭等を他の顧客に対する貸付けに振り向けること等によって特段の損害が生じないことも多いと考えられます。

事前に賠償額の予定がされていることもあり得ますが,その場合には民法第90条や不当条項規制の問題として処理す
べきものと思われます。

本文(2)は,以上の議論を踏まえつつ,損害の有無及びその額については,従前どおり個々の事案における解釈・認定に委ねることとしています。

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債権法の改正・補足説明(その二百八の一)

6 期限前弁済(民法第591条第2項,第136条第2項関係)

民法第591条第2項の規律を次のように改めるものとする。

(1) 当事者が返還の時期を定めなかったときは,借主は,いつでも返還をすることができるものとする。

(2) 当事者が返還の時期を定めた場合であっても,借主は,いつでも返還をすることができるものとする。この場合において,貸主に損害が生じたときは,借主は,その損害を賠償しなければならないものとする。

(概要)

本文(1)は,民法第591条第2項の規定を維持するものである。同項は,一般に同条第1項に引き続いて返還時期の定めのない消費貸借について定めた規定であると解されている。

本文(2)は,民法第136条第2項の規定について,その適用が最も問題となる消費貸借の場面に即した規律を設けることによって,消費貸借のルールの明確化を図るものである。

同項の規律の内容を変更する趣旨のものではない。前記1(4)と同様,損害の内容については個別の判断に委ねることとしている。

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債権法の改正・補足説明(その二百七)

5 貸主の担保責任(民法第590条関係)

民法第590条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 利息付きの消費貸借において,引き渡された目的物が当該消費貸借契約の趣旨に適合していない場合における貸主の担保責任については,売主の担保責任に関する規定を準用するものとする。

(2) 無利息の消費貸借において,引き渡された目的物が当該消費貸借契約の趣旨に適合していない場合における貸主の担保責任については,贈与者の担保責任に関する規定を準用するものとする。

(3) 利息の有無にかかわらず,借主は,当該消費貸借契約の趣旨に適合していない引き渡された物の価額を返還することができるものとする。

(概要)

本文(1)(2)は,民法第590条第1項及び第2項後段の規律を改め,利息付消費貸借の貸主は売主の担保責任(前記第35,4以下),無利息消費貸借の貸主は贈与者の担保責任(前記第36,2)と同様の責任を負う旨を定めるものでる。

消費貸借は貸主が借主に目的物の所有権を移転させる点において売買や贈与と共通するため,消費貸借の目的物が当該消費貸借契約の趣旨に適合しない場合における貸主の担保責任については,売主及び贈与者の担保責任の規律と整合的である必要があると考えられることによる。

なお,同条の「瑕疵」という用語については,売主の担保責任の見直しとの平仄を合わせ,契約の趣旨との適合性を問う表現を用いることとしている。

文(3)は,民法第590条第2項前段の規定を利息の有無を問わずに適用されるものに改めるものである。同項前段は無利息の消費貸借に関する規定であるが,利息の有無によって異なる取扱いをする理由はないとの指摘を踏まえたものである。

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債権法の改正・補足説明(その二百六)

4 利息

利息の定めがある場合には,借主は,貸主から金銭その他の物を受け取った日から起算して利息を支払う義務を負うものとする。

(概要)

利息の合意がある場合に限り利息の支払債務が生ずるという解釈上異論のないところを明文化するとともに,利息は元本の受領日から生ずるという判例法理(最判昭和33年6月6日民集12巻9号1373頁)を明文化するものである。
(補足説明)

現行民法においては無利息消費貸借が原則とされており(同法第587条参照),利息は消費貸借の合意とは区別される利息の合意がある場合に限り発生するものとされています。

もっとも,現行民法は利息の発生に関する規定を置いていません。現実に用いられる消費貸借のほとんどが利息付消費貸借であることからすれば,このような現状は相当でないとの指摘がされています。

要物契約としての利息付消費貸借においては,金銭その他の物の引渡しがあった日(契約の成立日)から利息が発生し,また,引渡しのあった目的物についてのみ利息が発生するとされています。

一方,諾成契約としての利息付消費貸借においても,利息は金銭その他の物の利用の対価であることから,要物契約としての利息付消費貸借と同様,金銭その他の物の引渡しがあった日から利息が発生し,また,引渡しのあった目的物についてのみ利息が発生するとされています。

本文は以上の理解を前提とするものですが,利息の発生日(起算日)を元本の受領日より後の日とする旨の合意を妨げる趣旨のものではありません。

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債権法の改正・補足説明(その二百五)

3 準消費貸借(民法第588条関係)

民法第588条の規律を次のように改めるものとする。

金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において,当事者がその物を消費貸借の目的とすることを約したときは,消費貸借は,これによって成立したものとみなすものとする。

(概要)

民法第588条の「消費貸借によらないで」という文言を削除することによって,消費貸借に基づく債務を旧債務とする準消費貸借の成立を認める判例法理(大判大正2年1月24日民録19巻11号)を明文化するものである。

なお,準消費貸借は,前記1(2)の諾成的な消費貸借とは異なり,契約に基づく目的物の引渡しを予定していないため,目的物の引渡しに代えて書面を要求することにより軽率な消費貸借の締結を防ぐという趣旨が妥当しないと考えられる。

そのため,準消費貸借については書面を要求していない。

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債権法の改正・補足説明(その二百四の二)

(補足説明)

民法第589条の消費貸借の予約は,予約義務者に本契約である消費貸借を締結する義務を負わせる類型の予約を指すものとされており,貸主を予約義務者とする予約の場合には,借主は貸主に対して消費貸借の締結の意思表示をすることを請求することができるとされています(以下この補足説明において「義務型の予約」という。)。

また,現行法においては,本契約である消費貸借は要物契約であることが想定されていますから,借主は消費貸借を締結する義務の履行請求の一環として,貸主に対して目的物の引渡しを請求することもできるとされています。

他方,売買の規定が他の有償契約に準用されていることから(民法第559条),利息付きの消費貸借(有償消費貸借)については,義務型の予約のみならず,売買の一方の予約と同様の予約もその定めがあるとされており(同法第556条),借主を予約完結権者とする予約の場合には,借主は貸主に対して予約完結の意思表示をすることによって消費貸借
を成立させることができるとされています(以下この補足説明において「完結権型の予約」といいます。)。

この完結権型の予約についても,民法第589条の適用があるとされています。

ところで,諾成的消費貸借に関する規律(前記1(2)から(5)まで)を設ける場合には,消費貸借を要物契約として規定し目的物の引渡し前の合意に法的拘束力を認めない場合に比べると,義務型の予約はその必要性が格段に低くなりますし,完結権型の予約もその必要性が低くなるとの指摘があります。

もっとも,売買その他の諾成契約においては,本契約を締結することのほかに,義務型の予約や完結権型の予約をすることは妨げられないのですから,諾成的消費貸借に関する規律を設ける場合であっても,消費貸借の予約を否定する必要はないとも考えられます。

現に,特定融資枠契約に関する法律第2条に規定する融資枠契約は,諾成的消費貸借の完結権型の予約であると説明されています。そうだとすれば,消費貸借の予約についても前記1(2)(3)の書面要件が課されることや,前記1(5)の当然失効の規律が及ぶことを確認しておくことには意味があると考えられます(なお,消費貸借の予約が書面によってされている場合には本契約は書面によってされる必要はないことを当然の前提としています。)。

もっとも,そのような確認的な規定を設ける必要はなく,前記1(2)(3)の規律や1(5)の規律が消費貸借の予約にも及ぶことは当然のことであるとの指摘もあります。

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債権法の改正・補足説明(その二百四の一)

2 消費貸借の予約(民法第589条関係)

民法第589条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 消費貸借の予約は,書面でしなければ,その効力を生じないものとする。

(2) 消費貸借の予約がその内容を記録した電磁的記録(前記1(3)参照)によってされたときは,その消費貸借の予約は,書面によってされたものとみなすものとする。

(3) 消費貸借の予約は,その後に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは,その効力を失うものとする。

(概要)

本文(1)は,消費貸借の予約について書面を要求するものである。前記1(2)の諾成的な消費貸借については目的物の引渡しに代えて書面を要求することによって軽率な消費貸借の締結を防ぐこととしているが,この趣旨は消費貸借の予約についても妥当することを理由とする。

本文(2)は,前記1(3)と同様の趣旨のものである。

本文(3)は,民法第589条の規定を維持するものである。消費貸借の予約をした後本契約が成立するまでは本文(3)が適用され,本契約が成立した後目的物が引き渡されるまでは前記1(5)が適用される。

なお,前記1(5)と同様,当事者の一方が再生手続開始又は更生手続開始の決定を受けた場合に関する規律は,民事再生法第49条又は会社更生法第61条や民法第589条の解釈に委ねることとしている。

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債権法の改正・補足説明(その二百三の三)

続(補足説明)

3 本文(4)の借主の解除権があるため,借主は,利息付きの諾成的消費貸借を締結した場合であっても,目的物の受領及び利息の支払を強制されることはありません。貸主が借主の解除によって損害が生じたことを主張立証した場合に限り,借主はその損害を賠償する義務を負います。

借主の解除によって貸主に生ずる損害の内容としては,貸付金の調達コスト等のいわゆる積極損害が考えられますが,例えば消費者金融の場面を想定すると,貸主である消費者金融業者は一般に多数の小口貸付けを行っているため,借主が受領を拒否した金銭を他の顧客に対する貸付けに振り向けること等によって特段の損害が生じないことも多いと考えられます。

事前に賠償額の予定がされていることもあり得ますが,その場合には民法第90条や不当条項規制の問題として処理すべきものと思われます。

以上の理解は,諾成的消費貸借を認めている現在の判例法理の下でも同様であるとの指摘がありますが,他方で,特に消費者金融などの場面においては借主の損害賠償義務を観念するのは相当でないとの指摘もあります。

本文(4)では,以上の議論を踏まえつつ,損害の有無及びその額については個々の事案における解釈・認定に委ねることとしている(後記6の補足説明の2も参照)。

4 民法第589条は,「消費貸借の予約は,その後に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは,その効力を失う」と規定しています。

この規定は,借主が破産手続開始の決定を受けた場合については,当事者間における信用供与の前提が崩れることを根拠
とするものとされています。また,貸主が破産手続開始の決定を受けた場合については,この規定がなければ借主が貸主に対する目的物引渡債権を破産債権として配当加入をする一方で,貸主の借主に対する目的物返還債権(借主が上記目的物引渡債権について配当を受けた額についてのみ生ずる債権)が破産財団を構成することとなりますが,そのような取扱いでは,配当を実施した後に借主に対する目的物返還債権が破産財団を構成することとなる上に,その目的物返還債権を回収して更に配当をするといった事態が続くことになりかねないなど,手続が煩雑で,消費貸借の予約の趣旨に合致するものではないことを根拠とするものとされています。

このような民法第589条の根拠は,本文(2)(3)の諾成的消費貸借における目的物引渡し前の当事者間にも妥当すると考えられる。そこで,本文(5)は,同条と同趣旨の規律を設けることとしています。

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債権法の改正・補足説明(その二百三の二)

(補足説明)

1 消費貸借は,金銭その他の物の引渡しがあって初めて成立する要物契約とされています(民法第587条)。これに対しては,融資の約束をしたにもかかわらず実際に金銭を受け取るまで融資を受けられるかどうかが分からないのでは,借主はその融資を前提とする計画等を立てることすらできないといった問題が指摘されています。

また,実務上は,諾成的な消費貸借が広く用いられており,判例(最判昭和48年3月16日金法683号25頁)も,無名契約としての諾成的消費貸借を認めています。

もっとも,要物契約と諾成契約とが併存するとすれば,当事者の合意のみがある場合に,それが要物契約の前提としての合意にとどまるのか,直ちに契約を成立させる諾成契約としての合意なのかが判然としないという問題点が指摘されています。

また,当事者の合意のみによって契約上の義務が生ずると,例えば,安易に金銭を借りる約束をしてしまった者や,逆に,安易に金銭を貸す約束をしてしまった者に酷な結果となる場合が生じかねないとの指摘もあります。

これらの指摘を踏まえ,諾成的な消費貸借は書面でしなければならないこととした上で,①消費貸借の合意に書面がある場合には目的物の引渡しを要しないで契約が成立し(本文(2)(3)),②消費貸借の合意に書面がない場合には目的物の引渡しがあったときに契約が成立する(本文(1))とする考え方を採っています(①要式契約としての諾成契約と,

②従来の要物性との組合せ)。

2 本文(2)(3)の諾成的消費貸借においては,消費貸借の成立によって借主の貸主に対する目的物引渡債権が発生し,また,貸主が借主に目的物を引き渡すことによって貸主の借主に対する目的物返還債権が発生することを前提としています。

したがって,例えば,貸主は,借主の有する目的物引渡債権を消滅させるために,その目的物引渡債権を受働債権とし,貸主の借主に対する目的物返還債権を自働債権とする相殺をすることはできません。

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債権法の改正・補足説明(その二百三の一)

第37 消費貸借

1 消費貸借の成立等(民法第587条関係)

民法第587条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 消費貸借は,当事者の一方が種類,品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって,その効力を生ずるものとする。

(2) 上記(1)にかかわらず,書面でする消費貸借は,当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し,相手方がその物を受け取った後にこれと種類,品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって,その効力を生ずるものとする。

(3) 消費貸借がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)によってされたときは,その消費貸借は,書面によってされたものとみなすものとする。

(4) 上記(2)又は(3)の消費貸借の借主は,貸主から金銭その他の物を受け取るまで,その消費貸借の解除をすることができるものとする。この場合において,貸主に損害が生じたときは,借主は,その損害を賠償しなければならないものとする。

(5) 上記(2)又は(3)の消費貸借は,借主が貸主から金銭その他の物を受け取る前に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは,その効力を失うものとする。

(注)上記(4)第2文については,規定を設けない(解釈に委ねる)という考え方がある。

(概要)

本文(1)は,目的物の引渡しによって消費貸借が成立する旨の民法第587条の規定を維持するものである。

本文(2)は,諾成的な消費貸借の成立要件について定めるものである。判例(最判昭和48年3月16日金法683号25頁)が諾成的な消費貸借の成立を認めており,実際上も融資の約束に拘束力を認めることが必要な場合は少なくないこと等を踏まえたものである。

消費貸借の合意に書面を要求することによって,借主又は貸主が軽率に消費貸借の合意を防ぐとともに,本文(1)の消費貸借の前提としての合意との区別を図っている。

本文(3)は,電磁的記録によってされた消費貸借を書面によってされた消費貸借とみなすものであり,保証契約に関する民法第446条第3項と同様の趣旨のものである。

本文(4)第1文は,諾成的な消費貸借の借主による目的物引渡し前の解除権について定めるものである。

諾成的な消費貸借を認めるのであれば,目的物引渡し前に資金需要がなくなった借主に契約の拘束力から解放される手段を与えるべきであるからである。

本文(4)第2文は,上記解除権の行使によって貸主に損害が生じた場合における借主の損害賠償責任について定めるものである。

損害の内容については個別の判断に委ねることとしている。

もっとも,この借主の損害賠償責任については,特段の規定を設けずに解釈に委ねるべきであるという考え方があり,これを(注)で取り上げている。

本文(5)は,諾成的な消費貸借の当事者の一方が目的物引渡し前に破産手続開始の決定を受けた場合に関する規律を定めるものであり,民法第589条(後記2(3))と同様の趣旨のものである。

なお,当事者の一方が再生手続開始又は更生手続開始の決定を受けた場合に関する規律は,民事再生法第49条又は会社更生法第61条や本文(5)の解釈に委ねることとしている。

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債権法の改正・補足説明(その二百二の三)

続(補足説明)

3 解除による原状回復義務の特則(本文(3))

本文(3)は,贈与契約の解除による原状回復義務の内容(前記3)につき,本文(1)による解除の場合の特則を設けるものです。

すなわち,著しい背信行為等により贈与契約の解除の原因を自ら作出した受贈者は,その時点で存していた利益の限度で返還義務を負担することを覚悟すべきです。

そこで,解除の原因が生じた時点で現に存在した利益の限度で,返還義務を負担するものとしています。

前記3より現存利益の基準時が繰り上がりますから,返還義務の負担も重いものとなります。

なお,本文(1)のような要件では「解除の原因が生じた時」の特定が困難であるとの指摘が想定されますが,目的物の価値は時間とともに逓減し利得が消滅するのが通常ですから,考えられる最も遅い時点(それが解除の意思表示の時であることもあり得ます。)を解除の原因が生じた時点として法律関係を処理することは十分可能であるとの反論が考えられます。

4 解除権の期間制限(本文(4))

本文(4)は,本文(1)の解除権について,消滅時効とは別に,履行が終わった時を起算点とする期間制限を設けるものです。本文(1)の解除権が問題となるような人間関係の破綻を契機とする紛争については,早期に法律関係を安定化する必要があるとの指摘がされています。

また,贈与の履行から時間が経過することにより,贈与と本文(1)所定の背信行為との関連性が一般的には希薄になり,本文(1)のような要件の下で解除を認める正当性が薄れるものと考えられます。

本文(4)は,これらを踏まえたものです。その期間については,差し当たり,現行民法における債権についての原則的な時効期間(民法第167条第1項)を参照して,10年をブラケットで囲んで提示しています。

もとより,解除権につき消滅時効の一般原則も併せて適用されることを前提としています。

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債権法の改正・補足説明(その二百二の二)

(補足説明)

1 受贈者に著しい非行があった場合の贈与契約の解除に関する規定を設ける趣旨(本文

(1)贈与契約については,古くから,受贈者が贈与者に対して著しい背信行為(忘恩行為とも言われます。)を行った場合には,贈与の解除を認めるべきであるとの主張があります。

贈与を行う場合にはその前提として相応の人間関係等が存在することが通例ですから,その前提を破壊するような重大な背信行為等があったときには,贈与契約を維持するのは相当でなく,解除を認めるべきであるというのです。

裁判例にも,受贈者の背信行為等を理由に贈与契約の解除を認めたものが複数ありますが,負担付贈与における負担の不履行と捉えて解除を認めたものや,信義則による撤回を肯定するもの等,その法的構成は一定していません(具体例につき,部会資料15-2第6,7(2)の補足説明1[88頁]参照)。

もっとも,受贈者に一定の背信行為等があった場合に,贈与者が贈与の解除をすることを認める必要性については,広く承認されているものと考えられます。

以上を踏まえ,受贈者に背信行為等があったときの解除に関する法的処理のための一つの解決基準を設けるために,受贈者に,推定相続人の廃除事由(民法第892条参照)に該当し得る贈与者に対する著しい非行があった場合に,贈与者が贈与契約を解除することができるとする規律を新設するものです。

なお,この場面における贈与契約の解消のための法技術につき契約の解除(同法第540条参照)と撤回(同法第550条)
のいずれとするかが問題となりますが,本文では,これを契約の解除と構成した上で,解除権の消長に関する特則(本文(2)(4))や解除による原状回復義務に関する特則(本文(3))を設けるという整理を提示しています。

「著しい非行」の内容については,その前に例示として掲げている贈与者に対する「虐待」や「重大な侮辱」を手掛かりにした解釈論に委ねられますが,その際は推定相続人の廃除事由に関する解釈論が参照されるものと考えられます。

本文のような規律を設けることについては,ビジネス等で行われている無償行為が不安定になるとの懸念が示されていますが,本文のような要件設定による限り,企業間取引をはじめとした経済取引の一環として行われる贈与について,背信行為等による撤回・解除が問題になる余地は乏しいと考えられます。

他方で,本文のように推定相続人の廃除事由に相当する程度にまで要件を限定することについては,やや限定的に過ぎるとの指
摘がありますが,本文(1)で提示した要件に該当しないとしても,背信行為等を負担付贈与の負担の不履行と見て贈与契約の解除を認めるなどといった,裁判実務において現在採られている解決方法によることも否定されていませんから,事案の柔軟な解決が困難となるおそれはないものと考えられます。

2 解除権の一身専属性(本文(2))

本文(2)の第1文は,本文(1)の解除権が贈与者の一身に専属し,原則として相続の対象にならないとするものです(民法第896条ただし書参照)。この解除権は贈与者と受贈者の人間関係の破綻等を根拠とするものであり,贈与者において解除権をあえて行使しなかった場合にその相続人に解除権を行使させるのは相当でないと考えられるからです。

本文(2)の第2文は,受贈者が本文(1)に該当する行為により贈与者を死亡させたときは,本文(2)第1文の例外として,相続人による解除権の行使を認めるものです。このような場合には,解除するかどうかを贈与者自身が意思決定する機会が受贈者の行為により奪われたのですから,解除権を行使するかどうかの判断を贈与者の相続人に委ねるのが相当であると考えられるからです。

部会では,本文(1)に該当する虐待行為により意思能力を欠く状態に陥らせた場合についても例外に含めるべきであるとの指摘がありましたが,このような場面については事案の具体的事情を踏まえた判断の必要がありますから,本文の規律の類推適用といった解釈論に委ねるのが相当であると思われます。

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債権法の改正・補足説明(その二百二の一)

5 受贈者に著しい非行があった場合の贈与契約の解除

(1) 贈与契約の後に,受贈者が贈与者に対して虐待をし,若しくは重大な侮辱を加えたとき,又は受贈者にその他の著しい非行があったときは,贈与者は,贈与契約の解除をすることができるものとする。

(2) 上記(1)の解除権は,贈与者の一身に専属するものとする。ただし,受贈者が上記(1)に該当する行為により贈与者を死亡させたときは,この限りでないものとする。

(3) 上記(1)の解除があったときは,受贈者は,上記(1)の解除の原因が生じた時に現に存していた利益の限度で,返還の義務を負うものとする。

(4) 上記(1)の解除権は,贈与の履行が終わった時から[10年]を経過したときは,その部分については行使できないものとする。

(概要)

本文(1)は,受贈者に,推定相続人の廃除事由(民法第892条参照)に該当し得る贈与者に対する著しい非行があった場合に,贈与者が贈与契約を解除することができるとする規律を新設するものである。

学説上,受贈者が贈与契約の基礎となる人間関係を破壊し,贈与者の身体又は人格等を著しく蹂躙したような場合には,贈与者を契約に拘束するのは相当でなく,その解消を認めるべきであるとの見解は古くから唱えられており,裁判例に
も,このような場合に負担付贈与の「負担」の解釈その他の法的構成により贈与者の救済を図ったものが存在することを踏まえたものである。

本文(2)第1文は,本文(1)の解除権が贈与者の一身に専属し,原則として相続の対象にならないとするものである(民法第896条ただし書参照)。

この解除権は贈与者と受贈者の人間関係の破綻等を根拠とするものだからである。

第2文は,受贈者が本文(1)アに該当する行為により贈与者を死亡させたときは,相続人による解除権の行使を認めるものである。

このような場合には,解除するかどうかを贈与者自身が意思決定する機会が受贈者の行為により奪われたのであるから,解除権を行使するかどうかの判断を贈与者の相続人に委ねるのが相当であると考えられるからである。

本文(3)は,贈与契約の解除による原状回復義務の内容(前記3)につき,本文(1)による解除の場合の特則を設けるものである。すなわち,著しい背信行為等により贈与契約の解除の原因を自ら作出した受贈者は,その時点で存していた利益の限度で返還義務を負担することを覚悟すべきである。

そこで,解除の原因が生じた時点で現に存在した利益の限度で,返還義務を負担するものとしている。

本文(4)は,本文(1)の解除権につき,消滅時効とは別に,履行が終わった時を起算点とする期間制限を設けるものである。

本文(1)の解除権が問題となるような人間関係の破綻を契機とする紛争については,早期に法律関係を安定化する必要があるとの指摘がされている。

また,贈与の履行から時間が経過することにより,贈与と本文(1)所定の背信行為との関連性が一般的には希薄になると考えられる。本文(4)は,これらを踏まえたものである。

その期間については,差し当たり,現行民法における債権についての原則的な時効期間(民法第167条第1項)を参照して,10年をブラケットで囲んで提示している。

もとより,解除権につき消滅時効の一般原則も併せて適用されることを前提としている。

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債権法の改正・補足説明(その二百一)

4 贈与者の困窮による贈与契約の解除

贈与者が贈与契約の時に予見することのできなかった事情の変更が生じ,これにより贈与者の生活が著しく困窮したときは,贈与者は,贈与契約の解除をすることができるものとする。ただし,履行の終わった部分については,この限りでないものとする。

(概要)

贈与者が予見することのできなかった贈与契約後の事情変更により贈与者の生活が著しく困窮した場合に,贈与者に解除権を付与する規定を新設するものである。

その要件設定の具体的な在り方は更に検討する必要があるが,贈与契約の無償性に照らすと,本文に掲げるこのような場合にまで契約の拘束力を貫徹するのは相当でなく,贈与の解除を認めるべきであるとの指摘があることを踏まえたものである。

もっとも,履行が終わった部分についても返還を要するものとすると,贈与者の困窮に責めを負うべき立場にあるとは限らない受贈者に不測の損害を与えるおそれがあることから,第2文により,贈与が終わった部分については解除ができないものとしている。

(補足説明)

贈与契約後に贈与者の生活が困窮したような場面において,贈与者に贈与契約の解除権を付与する立法例は,諸外国に多く見られます(比較法については,部会資料44の別紙比較法資料参照)。

我が国においても,贈与契約の無償性に照らすと,このような場合にまで契約の拘束力を貫徹するのは相当でなく,贈与者が困窮した場合に贈与契約の解除を認めるべきであるとの解釈論が唱えられています。

部会においては,贈与契約も契約の拘束力が妥当するから,困窮という専ら贈与者側の事情で解除を認めることが正当化できるのかについて疑問を呈する意見もありましたが,贈与契約の履行前であれば受贈者の地位を不当に不安定にするおそれはないとして,後記5の受贈者による著しい非行があった場合の贈与契約の解除を規定することと併せて,贈与者の生活が著しく困窮した場合にも,贈与者の解除権を規定すべきであるとの意見がありました。

そこで,本文は、諸外国の立法例等を参考にして,贈与者が贈与契約後に著しく困窮した場合には,一定の要件の下で贈与契約の解除をすることができるとする規律を新設するものです。

本文の第1文が,困窮の原因となる「事情の変更」が「贈与契約の時に予見することのできなかった」ものであることを求めているのは,契約締結時に織り込み済みと評価できるような事情の変更により困窮したような場合にまで解除を認める必要はないと考えられることによります。

また,本文の第2文が,「履行が終わった部分について」解除ができないとしているのは,贈与者の困窮を理由に無限定に解除を認めるものとすると,贈与者の困窮に責めを負うべき立場にあるとは限らない受贈者に不測の損害を与えるおそれがあることを考慮し,書面によらない贈与の撤回ができる場面を限定する民法第550条ただし書を参考にして解除ができる場面を限定するものです。

「履行が終わった」の意義については,同条ただし書の「履行が終わった」の解釈が参照されることを想定しています。
もっとも,条文化するに当たっては,本文で提示した要件設定を出発点としつつ,適切な要件設定につき,更に検討を深める必要があると考えられます。

部会においては,本文第1文の要件につき,贈与者が扶養義務を負担する者の生活状況をも考慮できるような要件設定を検討すべきであるとの指摘がありました。

また,本文第2文の要件については,「履行が終わった」の解釈のみで解除できる場面を限定するのは不安があるとして,もう少し解除ができる場面を絞り込むほうが望ましいとの指摘があったほか,本文の解除権に一身専属的なものとするか否かについても検討する必要があるとの指摘がありました。

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債権法の改正・補足説明(その二百)

3 贈与契約の解除による返還義務の特則

贈与契約が解除されたときは,受贈者は,解除の時に現に存していた利益の限度において,返還の義務を負うものとする。

(概要)

契約の解除に伴う原状回復義務の内容(前記第11,3)につき,贈与契約に関する特則を定めるものである。贈与契約は無償契約であり,受贈者は贈与者の債務と対価関係にある債務を負担していない。

そうすると,贈与契約の当事者に,双務契約を念頭においた解除の一般原則どおりに全面的な原状回復義務(給付を返還できない場合には,価額償還義務)を負担させるのは相当でないと考えられる。そこで,贈与契約の解除による贈与者
の返還義務につき,解除の時に存していた利益を限度とするものとしている。

(補足説明)

1 本文の規律の趣旨

契約の解除による原状回復請求権の範囲については,契約の解除のパートにおいて規定を設けるものとされており,原則として,給付を受けた者はその給付を受けたもの(その給付されたものを返還することができないときは,その価額)を返還する義務を負う旨の規定を設けることとされています(前記第11,3)。

それに対し,無償契約である贈与契約が解除された場合の受贈者の原状回復義務について,双務契約を念頭に置いた前記のルールを修正すべきであるとの考え方があります。

すなわち,贈与契約が解除された場合に受贈者が双務契約と同様の原状回復義務を負うとすると,目的物につき滅失等によって返還できない場合にはその価額を返還すべきこととなります。

しかし,贈与契約において,受贈者は無償で目的物を取得できるはずだったのであり,受贈者に双務契約と同様の原状回復義務を負わせることは,実質的に受贈者が贈与者に対価を支払って目的物の取得をするのと同じ帰結に至り得ますが,これでは受贈者にその意に反して過大な負担を負わせることとなりかねず,妥当でないとします。

そこで,贈与契約については,受贈者が贈与契約の解除によって負担する返還義務の範囲を解除の時の現存利益に限定すべきであるとするのです。

以上を踏まえ,本文は,贈与契約が解除された場合の受贈者の返還義務の範囲につき,解除の時に存していた利益を限度とするものしています。

これによると,解除時までの利得の消滅に応じて返還義務が縮減されることとなり,原則として,解除前に贈与の目的
物が損傷した場合には受贈者は目的物を解除時の現状で返還すれば足りるほか,解除の前に目的物が滅失した場合には返還義務を免れます。

2 負担付贈与の解除による原状回復義務の取扱いについて

本文のルールは,負担付贈与への適用を明示には排除してませんが,第53回会議においては,負担付贈与についても,その内容によっては契約の解除による一般原則どおりの原状回復義務を肯定すべき場面があるとの指摘がありました。確かに負担付贈与の内容によっては,本文のような考え方で対処するのが適切でないと考えられる事案もあり得ますが様々な負担を想定しながら適切な特則を設けることは,必ずしも容易ではありません。

また,そのような事案については,負担付贈与に双務契約の規定を準用するとする民法第553条を根拠ないし解釈上の手がかりとして,契約の解除の一般原則(前記第11,3)を適宜参照しながら解決を図ることも可能であると考えられます。

そこで,本文のルールについて,負担付贈与に関する特則は設けないものとしています。

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債権法の改正・補足説明(その百九十の三)

続(補足説明)

3 受贈者の解除権(本文(3))

本文(3)は,本文(1)によりに贈与者が履行又は損害賠償の責任を免れる場合であっても,本文(1)に掲げる事実があることにより贈与契約をした目的を達することができないときは,受贈者は,贈与契約の解除ができるとするものです。

本文(1)に掲げる事実につき,贈与者が履行又は損害賠償の責任を負わないとしても,その事実によって贈与契約をした目的が達せられないときには,受贈者にそのような給付の保持を強いるのは相当ではなく,契約を解消する手段を受贈者に認めるのが適切であると考えられることによります。

本文(1)の第1文に該当する限りで贈与者は完全な履行をする義務を負わないものとしており,そうすると,契約の解除につき,本文(1)ア又はイに該当することを贈与者の債務不履行と見て債務不履行による契約の解除の一般原則(前記第11)に委ねるのが困難であると考えられることから,契約の解除につき,一般原則とは別に規定を設けるものです。

4 民法第551条第2項の具体化(本文(4))

民法第551条第2項は,負担付贈与における贈与者の担保責任につき,「その負担の限度において,売主と同じく担保の責任を負う」とします。

その具体的な意味としては,贈与の目的物の価値と負担の価値とを比較して前者が後者を下回る場合に,受贈者が当該下回る部分につき,負担の履行を拒み,又は既に履行した負担の返還を請求できることと解されていますが,「負担の限度」などといった簡素な文言からこのような具体的な意味を引き出すことは困難であると思われます。

以上を踏まえ,本文(4)は,負担付贈与の贈与者の担保責任について規定する民法第551条第2項につき,その規律内容に関する前記のような一般的な理解に従い,規定内容の明確化を図るものです。この規定は,贈与者が本文(1)により責任を負わないものとされる場合にも適用されます。

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債権法の改正・補足説明(その百九十の二)

(補足説明)

1 贈与者の責任(本文(1))

現行民法第551条は,贈与の目的である物又は権利の瑕疵又は不存在について,当該瑕疵等を知りながら受贈者に告げなかった場合を除き,責任を負わないとします。

これは,贈与契約の無償性を踏まえ,売買よりも贈与者の責任を軽減したものと解されており,売主の物又は権利の瑕疵についての担保責任に関する法定責任説と親和的であるとの指摘がされています。

もっとも,売買契約の売主が目的物の品質や移転する権利に関して負う義務を契約責任と整理し(今回の改正では,そのような理解を前提としています。

前記第35,3参照),その理解を贈与契約にも及ぼす場合であっても,贈与契約につきなお民法第551条のような規律を維持することは説明が可能であると考えられます。

すなわち,贈与者の責任を契約責任と理解することを前提としても,贈与契約の無償性を考慮すれば,贈与者の責任は売買のような有償契約よりも類型的に低いと見ることができます。

そして,同条第1項は,理論的には契約責任に関する一般原則を前提としつつも,贈与の無償性を踏まえて贈与者の責任を売買のような有償契約よりも軽減されたものとして具体化・明確化したものと理解することができるのです。

以上を踏まえ,本文(1)は,贈与者の責任に関する民法第551条の実質的な規律内容を維持しつつ,「瑕疵」から「契約の趣旨に適合しないものであること」に改めるなど,主に概念の用い方につき,売買契約における売主の責任に関する規定の見直し(前記第35,3)と平仄を合わせる観点からの見直しをするものです。

「その責任を負わない」とは,本文(1)のア又はイに掲げる事由がある場合でも,贈与者は完全な履行をする義務
を負わず,また債務不履行による損害賠償の責任を負わないということを意味します(契約の解除については後述する。)。

もとよりこれは任意規定であり,贈与者がこれよりも厳格な責任を負担する約定の効力を否定する趣旨ではありません。

この考え方に対しては,贈与契約についても,贈与者につき契約責任の一般原則と異なる規律を設ける合理性はないとして,物又は権利が契約の趣旨に適合しない場面における贈与者の履行義務や,債務不履行による損害賠償及び契約に解除に関する規律をそれぞれ一般原則に委ねるとの考え方があり,これを(注)で取り上げています。

この考え方は,贈与者が引き渡すべき目的物や贈与者が移転すべき権利についての義務が契約の趣旨を踏まえて確定されるとしながら,それに違反した場合の責任を民法第551条のように広範に免責するのは整合していないとします。

そして,贈与契約の無償性を「契約の趣旨」を通じて判断過程に織り込むことにより,無償契約であることを反映した結論を導くべきであるとします。

2 他人物贈与における贈与者の義務(本文(2))

本文(2)は,他人物贈与につき,贈与者が他人に属する権利を自ら取得して受贈者に移転する義務は負いませんが,その権利を相続等により取得した場合には,それを受贈者に移転する義務を負うとするものです(他人の権利を対象とする贈与が有効であることにつき,前記1参照)。

他人物売買における売主の権利取得義務(前記第35,3(4))に相応するものですが,贈与契約の無償性を考慮し,贈与者が尽くすべき義務を有償契約よりも軽減されたものとしています。もとより任意規定ですから,当事者の合意により贈与者がこれよりも厳格な義務を負担することは否定されません。

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債権法の改正・補足説明(その百九十の一)

2 贈与者の責任(民法第551条関係)

民法第551条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 贈与者は,次に掲げる事実について,その責任を負わないものとする。
ただし,贈与者がこれらの事実を知りながら受贈者に告げなかったときは,この限りでないものとする。

ア 贈与によって引き渡すべき目的物が存在せず,又は引き渡した目的物が当該贈与契約の趣旨に適合しないものであること。

イ 贈与者が贈与によって移転すべき権利を有さず,又は贈与者が移転した権利に当該贈与契約の趣旨に適合しない他人の権利による負担若しくは法令の制限があること。

(2) 他人の権利を贈与の内容とした場合(権利の一部が他人に属する場合を含む。)であっても,贈与者がその権利を取得した場合には,その権利を受贈者に移転する義務を負うものとする。

(3) 上記(1)に掲げる事実があることにより,受贈者が贈与契約をした目的を達することができないときは,受贈者は,贈与契約の解除をすることができるものとする。

(4) 負担付贈与の受贈者は,贈与者が贈与契約によって引き渡すべき目的物又は移転すべき権利に上記(1)に掲げる事実があることにより,受贈者の負担の価額がその受け取った物又は権利の価額を超えるときは,受贈者は,その超える額に相当する負担の履行を拒み,又は履行した負担の返還を請求することができるものとする。

この場合において,負担を返還することができないときは,負担の価額の償還を請求することができるものとする。

(注)上記(1)から(3)までについては,贈与者の履行義務並びにその不履行による損害賠償及び契約の解除に関する規律をそれぞれ一般原則に委ねるという考え方がある。

(概要)

本文(1)は,贈与者の責任に関する民法第551条の実質的な規律内容を維持しつつ(契約の解除については後述する。),「瑕疵」から「契約の趣旨に適合しないものであること」に改めるなど,主に概念の用い方につき,売買契約における売主の責任に関する規定の見直し(前記第35,3)と平仄を合わせる観点からの見直しをするものである。

もとよりこれは任意規定であり,贈与者がこれよりも厳格な責任を負担する約定の効力を否定する趣旨ではない。

この点については,贈与契約についても,贈与者につき契約責任の一般原則と異なる規律を設ける合理性はないとして,物又は権利が契約の趣旨に適合しない場面における贈与者の履行義務や,債務不履行による損害賠償及び契約に解除に関する規律をそれぞれ一般原則に委ねるとの考え方があり,これを(注)で取り上げている。

本文(2)は,他人物贈与につき,贈与者が他人に属する権利を自ら取得して受贈者に移転する義務は負わないが,その権利を相続等により取得した場合には,それを受贈者に移転する義務を負うものとするものである。

本文(3)は,本文(1)によりに贈与者が履行又は損害賠償の責任を免れる場合であっても,本文(1)に掲げる事実があることにより贈与契約をした目的を達することができないときは,受贈者は,贈与契約の解除ができるとするものである。

本文(1)に掲げる事実につき,贈与者が履行又は損害賠償の責任を負わないとしても,その事実によって贈与契約をした目的が達せられないときには,契約を解消する手段受贈者に認めるのが適切であると考えられることによる。

本文(4)は,負担付贈与の贈与者の担保責任について規定する民法第551条第2項につき,その規律内容に関する一般的な理解に従い,規定内容の明確化を図るものである。

この規定は,贈与者が本文(1)により責任を負わない場合にも適用される。

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債権法の改正・補足説明(その百八十九)

第36 贈与

1 贈与契約の意義(民法第549条関係)

民法第549条の規律を次のように改めるものとする。

贈与は,当事者の一方が財産権を無償で相手方に移転する意思を表示し,相手方が受諾をすることによって,その効力を生ずるものとする。

(概要)

贈与契約の意義につき,今日では,売買契約と同様に財産権の移転を内容とする契約であるとの理解が一般的であることを踏まえて,民法第549条に規定する贈与者の義務の明確化を図るものである。

具体的には,贈与の対象につき「財産」を「財産権」に改め,「与える」を「移転する」に改めるものとしている。

また,他人の財産権を贈与する契約も有効であると解されていることから,「自己の」という文言を削ることとしている。

(補足説明)

1 贈与者の義務の明確化

民法第549条は,贈与の対象物は,条文上「財産」となっており,売買の「財産権」(民法第555条)とは異なっています。この点について,贈与と売買とで対象物につき異なる文言を用いることには合理性がないとの指摘があります。

そして,今日では贈与は無償の財産権移転契約と一般的に観念されていることから,贈与の対象物を「財産」から
売買と同様に「財産権」に改めるとともに,「与える」を「移転する」に改めるべきであるとの考え方があります。

本文は,この考え方に従って,民法第549条に規定する贈与者の義務の明確化を図るものです。

その際,同条は贈与の目的物につき「自己の財産」としていますが,他人の財産を目的とする贈与契約(他人物贈与)が有効に成立するとする通説を踏まえ,他人物贈与が有効に成立することを条文上明らかにするために,同条
の「自己の」という文言を削るものとしています。

2 贈与の規定を他の無償契約に準用する旨の規定を設けることの当否

贈与契約の意義について,起草者は債務免除も贈与に該当する旨示唆していたとも言われ,学説には,無償の用益物権の設定が贈与に該当するとするものなどがあります。

本文のように贈与者の義務の明確化を図る場合,「財産権の移転」に必ずしも包摂されないと考えられる用益物権の設定,相手方に対する権利の放棄,債務免除,免責的債務引受,信託契約などについて,従来贈与に包含されるとの理解があったことを踏まえ,贈与の規定を適用ないし準用する旨の規定を設ける必要がないかを検討すべきであるとの指摘があります。

この問題意識に応えるための一つの方策として,売買の規定を有償契約一般に包括的に準用する民法第559条に倣い,贈与の規定を無償契約一般に包括的に準用する規定を設けることが考えられますが,部会においては,無償契約には多種多様なものがありますから,贈与の規定を包括的に準用するのは適切でないとして,支持を集めるには至りませんでした。

また,分科会の審議においては,本文のように贈与者の義務を明確化する際に,その周辺部分に位置付けられる無償での用益物権の設定や債務免除等については,贈与のパートに設けられる規定を手掛かりとした解釈論に委ねても実務上は支障がないとの指摘がありました。

そこで,「財産権の移転」に包摂されない無償契約について,贈与の規律を適用ないし準用する旨の規定を設けることについては,中間試案に盛り込まれませんでした。

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債権法の改正・補足説明(その百八十八の二)

(補足説明)

1 民法第579条の改正(本文(1))

民法第579条は,買戻しによる売主の返還義務の範囲を「支払った代金及び契約の費用」と定めており,これは強行規定と解されています。

しかしながら,この規定の適用を避けるために実務上再売買の予約が用いられているという実態を踏まえると,売主の返還義務の範囲を強行法的に固定する実益は乏しい上,担保以外の目的で買戻しが用いられる場面を念頭に,売主の返還義務の範囲につき柔軟な取扱いを認める実務的要請があるとして,同条の返還義務の範囲につき,別段の定めが許容されるものとすべきだとの指摘があります。

これを踏まえ,本文(1)は,同条が規定する買戻権の行使に際して売主が返還すべき金額につき,当事者の合意より定めることができる旨の規定に改めるものです。

2 民法第581条第1項の改正(本文(2))

民法第581条第1項は,買戻しの登記を売買契約と同時に登記することを求めています。

この点につき,買戻し制度を使い易くする観点から,売買契約の登記(売買を原因とする所有権移転登記)の後であっても,買戻しの特約を登記することが可能となるよう,規定を改めるべきであるとの指摘があります。

これを踏まえ,本文(2)は,民法第581条第1項の「売買契約と同時に」という文言を削り,買戻しの特約の登記が売買契約の登記(売買を原因とする所有権の移転の登記)より後にすることができるものと改めるものです。

もとより,買戻しの特約を売買契約と同時にしなければならないこと定める同法第571条は,維持することを前提としています。

3 債権担保目的の買戻しに関する判例法理について

買戻特約付の売買契約という形式が採られていたとしても,それが債権担保の目的で締結されたものである場合には,その性質は譲渡担保契約であり,民法第579条以下の買戻しの規定は適用されないとするのが判例です(最判平成18年2月7日民集60巻2号480頁等)。

本文(1)(2)は,このような判例法理に影響を与えることを意図するものではありません。

なお,このような判例法理を明文化することも考えられますが,このような考え方については,債権担保目的であっても第579条以下の全ての規定につき適用を排除することは相当でないとの指摘があり,同条以下の個別の規定につき,債権担保目的の買戻しへの適用の可否を検討することも困難であると考えられます。

そこで,この判例法理についての明文化は見合わせ,債権担保目的の場合の取扱いについては,引き続き解釈に委
ねるものとしています。

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債権法の改正・補足説明(その百八十八の一)

15 買戻し(民法第579条ほか関係)

買戻しに関する民法第579条から第585条までの規律を基本的に維持した上で,次のように改めるものとする。

(1) 民法第579条の規律に付け加えて,売主が返還すべき金額について当事者に別段の合意がある場合には,それに従うものとする。

(2) 民法第581条第1項を次のように改めるものとする。買戻しの特約を登記したときは,買戻しは,第三者に対しても,その効力を有するものとする。

(概要)

本文(1)は,民法第579条が規定する買戻権の行使に際して売主が返還すべき金額につき,当事者の合意により定めることができる旨の規定に改めるものである。

同条は,買戻権の行使に際して売主が返還すべき金額を強行的に規定しているとされるが,当事者の合意による修正を肯定すべきであるとの指摘があることを踏まえたものである。

本文(2)は,民法第581条第1項の「売買契約と同時に」という文言を削り,買戻しの特約の登記が売買契約の登記(売買を原因とする所有権の移転の登記)より後にすることができるものと改めるものである。

なお,買戻特約付の売買契約という形式が採られていたとしても,それが債権担保の目的で締結されたものである場合には,その性質は譲渡担保契約であり,民法第579条以下の買戻しの規定は適用されないとするのが判例である(最判平成18年2月7日民集60巻2号480頁等)。

本文(1)(2)は,このような判例法理に影響を与えることを意図するものではない。

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債権法の改正・補足説明(その百八十七の二)

(補足説明)

1 危険の移転に関するルールの新設と原則的な危険の移転時期(本文(1))

民法第534条は,特定物売買等において債務者の帰責事由によらない目的物の滅失又は損傷に関する危険負担の債権者主義を定めており,同条によると,契約と同時に目的物の滅失又は損傷の危険が債権者に移転しますが,その帰結は不当であるとしてかねてから批判されており,目的物が引き渡された後など,目的物の実質的な支配が債務者から債権者に移転した時以後に適用場面を制限する解釈が広い支持を得てきました。

また,債務不履行による解除の要件の見直しにより,解除の要件としての帰責事由を設けないことに伴い,解除制度と危険負担制度との重複領域が生じ得ます。

今回の改正では,この領域につき解除制度に一元化するものとしていますが(前記第12,1),その場合であっても,契約の目的物の滅失等に関するリスクが債務者から債権者に移転する時点(危険の移転時点)に関するルールを設ける必要性については,これまでの審議で特段の異論がありませんでした。

なお,現行法で危険負担制度が適用される場面について解除制度に一元化して処理することの当否と,危険の移転時期に関するルールを設けることの当否とは,解除一元化の考え方を採用している国際物品売買契約に関する国際連合条約(ウィーン売買条約)が危険の移転時期に関する詳細なルールを設けていることからも理解されるとおり,論理的には別の問題であることに留意する必要があります。

そして,このような危険の移転時期が最も典型的に問題となるのが売買契約であることは明らかであると思われますが,国内売買か国際売買かを問わず,契約実務においては,原則として,目的物の引渡しの時に目的物の滅失等のリスクが売主から買主に移転するとの考え方が定着していると考えられます。

そこで,本文(1)は,いわゆる危険の移転時期に関するルールを,最も適用場面が多いと考えられる売買のパートに新設するものとし,目的物の滅失又は損傷の危険の移転時期を目的物の引渡し時とした上で,「危険の移転」が意味するところを具体的に明記するために,買主は,目的物の引渡し時以後に生じた目的物の滅失又は損傷を理由とする債務不履行による損害賠償を請求する権利,契約の解除をする権利又は代金減額請求権を有しない旨を規定するものとしています。

登記又は登録の制度がある不動産等については,危険の移転時期として登記等の移転時期を明記することが考えられるとの指摘もあります。

もっとも,契約実務においては,不動産の売買においても引渡し時を危険移転時期とするのが通例であると思われます。

もとより,本文の規律は任意規定であるから,個別の契約において危険の移転時期に関して本文の内容と異なる特約をすることを否定するものではありません。

以上の規律の例外として,その滅失又は損傷が売主の債務不履行によって生じたとき(例えば,目的物の滅失又は損傷が引渡し後に生じたがそれが引渡し前の保存義務違反(前記第8,1)に起因する場合等)は,その滅失等が引渡し後に生じたものであっても売主にその危険を負担させるのが相当であることから,本文(1)第2文でその旨を規定しています。

この場合には,買主は,当該滅失等に関して履行の追完等を売主に求める権利を失いません。

2 買主が売買の目的物を受け取らなかった場合の危険の移転(本文(2))

本文(2)は,売主が目的物の引渡しを提供したにもかかわらず買主がそれを受け取らなかったときに,売主がその引渡しの提供をした時点を危険の移転時期として規定するものです。

受領遅滞(民法第413条)の効果として売主から買主に目的物の滅失等の危険が移転することは異論のない解釈とされています。このルールを,危険の移転に関する原則である本文(1)の規律の特則と位置付けた上で規律を設けるものです。

種類物売買については,危険の移転の効果が発生するには,引渡しの提供があったのみでは足りず,目的物が特定(民法第401条第2項)されている必要があると解されていますが,引渡しの提供時以後に生じた目的物の滅失又は損傷のリスクを買主が負担すべきと言えるためには,滅失又は損傷が生じた時点でも引き続き特定されている状態が維持されている必要があると考えられます。

そこで,「買主に引き渡すべきものとして引き続き特定されているとき」との要件を設けています。これは種類物売買を念頭に置いた要件であり,特定物売買においては実際上問題となることはないと考えられます。

本文(1)第2文の規律はここでも妥当します。

買主が目的物を受領しなかった場面では,売主が目的物の引渡しを提供したことにより目的物が特定するとともに(前記第8,2),特定された目的物の保存義務は受領遅滞の効果として軽減されますが(前記第13),売主
が目的物につき軽減された保存義務を尽くさなかったために特定された目的物につき滅失等が生じたときには,買主は,その滅失等に関して履行の追完等を売主に求める権利を失いません。

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債権法の改正・補足説明(その百八十七の一)

14 目的物の滅失又は損傷に関する危険の移転

(1) 売主が買主に目的物を引き渡したときは,買主は,その時以後に生じた目的物の滅失又は損傷を理由とする前記4又は5の権利を有しないものとする。

ただし,その滅失又は損傷が売主の債務不履行によって生じたときは,この限りでないものとする。

(2) 売主が当該売買契約の趣旨に適合した目的物の引渡しを提供したにもかかわらず買主がそれを受け取らなかった場合であって,その目的物が買主に引き渡すべきものとして引き続き特定されているときは,引渡しの提供をした時以後に生じたその目的物の滅失又は損傷についても,上記(1)と同様とする。

(概要)

本文(1)は,いわゆる危険の移転時期に関するルールを,最も適用場面が多いと考えられる売買のパートに新設するものである。

民法第534条が規定する危険負担の債権者主義については,目的物が引き渡された後に適用場面を制限する解釈が広い支持を得ていることなどを踏まえ,目的物の滅失又は損傷の危険の移転時期を目的物の引渡し時とした上で,買主は,目的物の引渡し時以後に生じた目的物の滅失又は損傷を理由とする債務不履行による損害賠償を請求する権利,契約の解除をする権利又は代金減額請求権を有しない旨を規定するものとしている。

もっとも,その滅失又は損傷が売主の債務不履行によって生じたとき(例えば,目的物の滅失又は損傷が引渡し後に生じたがそれが引渡し前の保存義務違反に起因する場合等)は,その滅失又は損傷が引渡し後に生じたものであっても売主にその危険を負担させるのが相当であることから,第2文でその旨を規定している。

本文(2)は,売主が目的物の引渡しを提供したにもかかわらず買主がそれを受け取らなかったときに,その引渡しの提供をした時点を危険の移転時期として規定するものである。

受領遅滞(民法第413条)の効果として売主から買主に危険が移転することは異論のない解釈とされており,これを踏まえたものである。

種類物売買については,危険の移転の効果が発生するには,引渡しの提供があったのみでは足りず,目的物が特定(同法第401条第2項)されている必要があると解されているが,引渡しの提供時以後に生じた目的物の滅失又は損傷のリスクを買主が負担すべきと言えるためには,滅失又は損傷が生じた時点でも引き続き特定されている状態が維持されている必要があると考えられる。

そこで,「買主に引き渡すべきものとして引き続き特定されているとき」との要件を設けている。

これは種類物売買を念頭に置いた要件であり,特定物売買においては実際上問題となることはないと考えられる。

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