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債権法の改正・補足説明(その百四十二)

2 債務者の交替による更改(民法第514条関係)

民法第514条の規律を改め,債権者,債務者及び第三者の間で,従前の債務を消滅させ,第三者が債権者に対して新たな債務を負担する契約をしたときも,従前の債務は,更改によって消滅するものとする。

(概要)

本文は,債務者の交替による更改をすることができるとする民法第514条を存置しつつ,更改によって債務が消滅するという重大な効果が生ずることを認めるには,三当事者の全員が更改を成立させる意思を有する場合に限定すべきであるという問題意識に基づき,債権者,債務者及び第三者の三者間の合意を成立要件とするものである。

また,本文は,更改の成立に更改の意思が必要であるという判例・学説を明文化することを意図する点において,前記1と同様である。

(補足説明)

1 本文及び後記3は,更改による当事者の交替の制度を存続させるものです。

この制度については,これまで廃止の当否が検討されてきました(部会資料40第1,2)。

廃止の理由は,債権譲渡や免責的債務引受と重複し得る制度であるためです。

しかし,これに対しては,国際的金融取引を中心として,更改によって当事者を交替する取引がされることがあるため,制度を廃止することによって弊害が生じないか慎重に検討する必要があるとの指摘がありました。

また,中間的な論点整理に対するパブリック・コメントにおいて,決済の場面における法律関係を当事者の交替による更改で説明することがあることを理由に,更改による当事者の交替の制度を廃止することに慎重な検討を求める意見があり,部会の審議においてもこれと同趣旨の意見がありました。

これに対して,更改による当事者の交替の制度が存在していることによって,実務上の弊害が生じているとの指
摘は現在のところ特に見当たりません。

本文及び後記3において更改による当事者の交替の制度を廃止しないこととしているのは,以上を考慮したものです。

2 本文は,債務者の交替による更改の成立について,債権者,債務者及び第三者の三者間の合意を成立要件とするものです。

民法第514条は,更改前の債務者の意思に反しないことを要件として,債権者と第三者との間の合意によって債務者の交替による更改が成立することを認めていますが,これには,免責的債務引受に対する批判と同様に,債務者が関与することなく債権債務関係から離脱することになってしまうという批判があります。

そこで,債務者の交替による更改の成立に債務者が関与することができるように要件を改める必要がありますが,効果によって債務が消滅するという重大な効果が生ずることに鑑みれば,債権者,債務者及び第三者の三者間の合意があることを要件とすることが適当であると考えられます。

また,このほか,債務者の交替による更改についても,その成立に更改の意思が必要であると考えられていることから,債務者の交替による更改とは,旧債務を消滅させた上で,第三者が債権者に対して新たに債務を負担する旨の当事者間の合意であるという趣旨を明示することによって,前記1と同様に,更改の意思が必要であることを明らかにしています。

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債権法の改正・補足説明(その百四十一)

第24 更改

1 更改の要件及び効果(民法第513条関係)

民法第513条の規律を改め,当事者が債務を消滅させ,その債務とは給付の内容が異なる新たな債務を成立させる契約をしたときは,従前の債務は,更改によって消滅するものとする。

(概要)

民法第513条第1項の「債務の要素」の内容として,債務の給付の内容(目的)が含まれるという一般的な理解を明らかにするとともに,更改の成立のために更改の意思が必要であるとする判例(大判昭和7年10月29日新聞3483号18頁)・学説を明文化するものである。

なお,「債務の要素」という要件を用いないことと,更改の意思が必要であることを明示することに伴い,同条第2項については,削除することとしている。

(補足説明)

1 民法第513条は,「債務の要素を変更する契約」をすることを更改の要件としています。

この「債務の要素を変更する」とは,更改前の債務(以下「旧債務」といいます。)が消滅して更改後の新たな債務(以下「新債務」といいます。)が成立したと言えるほど,債務内容の重要な部分を変更することで,具体的には,債権者の交替,債務者の交替及び債務の目的の変更を意味すると言われています。

このうち,債権者の交替と債務者の交替については,民法第514条から第516条までで規定されていることから,債務の目的の変更によって更改が成立することを明確化する観点から,同法第513条を改めるものです。

また,債務の目的の変更とは,具体的には給付内容の変更を意味するとされていることから,この点も併せて明確化しています。

2 更改は旧債務の消滅とこれに伴う担保権や抗弁権の消滅という重大な効果を伴うものですから,「債務の要素」の変更という客観的要件のみで更改の成否を判断すると,当事者がそのような効果を発生させる意思を有していない場合にも,旧債務の消滅等の重大な効果が発生し,当事者が予想していない不利益を受けるおそれがあります。

また,「債務の要素」が変更される場合であっても,債権譲渡,債務引受又は代物弁済である可能性があり,客観的要件のみから更改の成否を判断することは困難です。

このようなことから,判例(大判昭和7年10月29日新聞3483号18頁)は,更改の意思が特に明確でない限り,更改には当たらないと解すべきであるとしています。

学説も,当事者が更改の意思を有することを要件とすることにより更改概念がより明確になるとして,判
例を支持する見解が有力です。

そこで,本文では,更改とは,旧債務を消滅させた上で,それとは「債務の要素」を異にする新債務を成立させる旨の当事者間の合意であるという趣旨を明示することによって,債務の要素の変更とともに当事者が旧債務を消滅させる意思を有することが更改の要件であることを,条文上明確にしています。

3 本文では,「債務の要素」の内容を具体化する方針を採っており,これに伴い,条件に関する変更を債務の要素の変更とみなすとする民法第513条第2項についても改正が必要となります。

しかし,同項に規定されている条件に関する変更は更改の意思を伴わないことが通常と思われ,これをあえて更改とみることの合理性には疑問があります。

同項が適用されて更改が認定された事例は公表裁判例には見いだされず,あえて存置する実務的必要性にも乏しいように思われます。

また,更改の意思が必要であることを明らかにしたことに伴い,「給付の内容」の変更を柔軟に解釈することも許容されると考えられるため,更改によって条件に関する変更をすることが必要な場合があるのであれば,「給付の内容」の変更と位置付けることも可能であると考えられます。

本文で民法第513条第2項を削除することとしているのは,以上の考慮に基づくものです。

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債権法の改正・補足説明(その百四十)

5 相殺の充当(民法第512条関係)

民法第512条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 相殺をする債権者の債権が債務者に対して負担する債務の全部を消滅させるのに足りない場合において,当事者間に充当の順序に関する合意があるときは,その順序に従い充当するものとする。

(2) 上記(1)の合意がないときは,相殺に適するようになった時期の順序に従って充当するものとする。

(3) 上記(2)の場合において,相殺に適するようになった時期を同じくする債務が複数あるときは,弁済の充当に関する規律(前記第22,7)のうち,法定充当の規律を準用するものとする。

(概要)

相殺の充当に関して,合意がある場合には合意に従って充当されることを明らかにするとともに,充当に関する合意がない場合に,複数の債務を相殺するときには,相殺適状となった時期の順序に従って相殺するとした現在の判例法理(最判昭和56年7月2日民集35巻5号881頁)を明文化するものである。

もっとも,相殺に遡及効を認める場合には,指定充当を認めることが整合的ではないとする指摘を踏まえて,指定充当を認めないこととして判例法理を修正している。

(補足説明)

民法第512条は,相殺をした場合における充当について,弁済の充当の規定(同法第488条から第491条まで)を準用するとしています。

しかし,相殺に遡及効を認めることを前提とすると,自働債権又は受働債権として複数の債権があり,当事者間に相殺の順序についての合意がない場合には,どの時点まで遡及するかが確定しないと充当の対象となる利息・遅延損害金の金額が定まらず,直ちに同法第491条を準用することができません。

そこで,複数の元本債権相互間の相殺の順序をどのように決するかが問題となりますが,この点について判例(最判昭和56年7月2日民集35巻5号881頁)は,民法第512条及び第489条の規定の趣旨にのっとり,元本債権相互間では相殺適状となった時期の順に従って相殺し,その時期を同じくする元本債権相互間及び元本債権とこれについての利息・費用債権との間では,同法第489条及び第491条を準用して相殺充当を行うとしています。

これは,相殺制度の趣旨が,相対立する債権が差引計算されるという当事者の期待を保護し,当事者間の衡平を図る点にあることからすると,相殺適状が生じた順序に従って相殺をすることが,当事者の期待に合致し,衡平の理念にもかなうことを根拠とするものです。

この判例法理を条文から読み取ることは困難であるため,本文は,これを条文上明確にするものです。

なお,判例法理を明文化するとしても,相殺に遡及効を認めることと指定充当を認めることとが整合的ではないので,これを改めるべきであるとする指摘がありました。

この指摘を踏まえて,本文は,指定充当を認めないこととして判例法理を修正しています。

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債権法の改正・補足説明(その百三十九の二)

(補足説明)

1 債権差押え等により支払の差止めを受けた第三債務者は,その後に取得した債権を自働債権とする相殺をもって差押債権者に対抗することはできないとされています(民法第511条)。

しかし,受働債権が差し押さえられた場合に,第三債務者が差押債権者に相殺を対抗するためには,差押え時に自働債権と受働債権の弁済期がいずれも到来していなければならないか,また,到来している必要がないとしても自働債権と受働債権の弁済期の先後が問題となるかという点は,必ずしも条文上明らかではありません。

この点について,最大判昭和39年12月23日民集18巻10号2217頁は,差押え時に相殺適状にある必要はないが,自働債権の弁済期が受働債権の弁済期より先に到来する場合に限り,相殺を対抗することができるという見解(制限説)を採りましたが,その後,最大判昭和45年6月24日民集24巻6号587頁(以下「昭和45年判決」という。)は,差押え前に取得した債権を自働債権とするのであれば,差押え時に相殺適状にある必要
はなく,自働債権と受働債権の弁済期の先後を問わず,相殺を対抗することができるという見解(無制限説)を採ることを明らかにしました。

最高裁は,昭和45年判決の後も無制限説を採ることを明らかにしていますが(最判昭和51年11月25日民集30巻10号939頁等),他方で,学説では,制限説を支持する見解が,なお有力に主張されています。

これは,無制限説によると,自働債権の弁済期が受働債権の弁済期より後に到来する場合に,受働債権を履行しないで,受働債権の弁済期が到来するのを待った上で相殺することが許容されることになりますが,このように自らの債務不履行を前提として相殺しようとする不誠実な第三債務者の相殺の期待は,保護に値しないということを理由とするものです。

また,無制限説に対しては,債権者平等の原則に反し,相殺の担保的機能を過大に評価するものであるとの批判もあります。

法定相殺と差押えとの関係は,以上のように見解が対立している状況ではあるものの,実務において特に重要な問題であるので,この点についていずれの見解を採るかを明文化することが検討課題となります。

本文は,この点について,無制限説の採用を前提としています。

これは,以下の理由に基づくものです。

第一に,弁済期の先後という偶然の事情によって相殺の可否が決せられるのは不当であるという無制限説からの主張は説得的であるという点です。

特に,第三債務者である金融機関が自働債権の返済期限を延長し,自働債権と受働債権の弁済期の先後が入れ替わることがあるとの指摘のように,自働債権の弁済期が後に到来するとしても,相殺の期待を保護してよいと思われる場合があり,自働債権の弁済期が受働債権の弁済期よりも後に到来するということのみで相殺を差押債権者に対抗することができないとすることは,差押債権者と第三債務者との間の利害調整の在り方として適当ではないと考えられます。

また,制限説が問題視するような不誠実な第三債務者からの相殺については,相殺権濫用の法理によって効力を否定することが可能であり,これによって,事情に応じた柔軟な解決が可能となるという利点もあります。

以上の理由については,なお賛否があり得るとしても,第二に,昭和45年判決以来,無制限説を前提として実務上の運用がされてきたという実態を指摘することができます。

すなわち,無制限説を前提とした相殺の担保的機能は,社会において広く認知されており,公示が不完全であるとはいえ,これによって差押債権者の期待が害されるとは言い難いことからすると,この実務を改めなければならない必要性は必ずしも高くないと考えられます。

2 上記の問題とは別の問題として,民法第511条については,差押え時に具体的に発生していないものの発生原因が存在する債権を自働債権とする相殺が禁止されるか否かが明らかではないと指摘されており,下級審裁判例の中には,同条により相殺が禁止されると判断したものがあります(東京地判昭和58年9月26日判時1105号63頁)。

このような相殺の可否は,例えば,委託を受けた保証人が差押え後に保証債務を履行したことにより生じた事後求償権を自働債権とする相殺や,差押え前に締結されていた銀行取引約定書に基づき差押え後に生じた手形買戻請求権を自働債権とする相殺などについて問題となります。

これに関連する問題として,判例(最判平成24年5月28日判時2156号46頁)は,委託を受けた保証人が破産手続開始の決定後に保証債務を履行したことにより生じた事後求償権を自働債権として相殺することができると判示しました。

そして,部会の審議において,上記判例を踏まえて,差押え時に具体的に発生していないものの発生原因が存在する債権を自働債権とする相殺を許容すべきであるとする意見がありました。

これは,破産手続開始の決定後に相殺の認められる範囲が差押え後の相殺よりも広いとすれば,バランスを失するのではないかということを問題とするものですが,この点については,債権者平等が強く要請される破産手続開始決定後における相殺の範囲が差押え後よりも拡張されることを正当化することは困難であるとする見解が示されています。

そこで,差押え時に具体的に発生していないものの発生原因が存在する債権については,これを自働債権とする相殺を許容することが適切であると考えられます。

もっとも,破産法との規定の違いを踏まえると,このような結論を現在の民法第511条の解釈から導き出すことは困難であると考えられることから,本文(1)は,破産法の規定を参照しつつ,「差押えの前に生じた原因に基づいて取得した債権による相殺」を認めることとして,民法第511条を改めるものです。

本文(1)の考え方を採る場合であっても,差押え前に発生原因が存在する債権を差押え後に他人から譲り受けたときは,保護すべき相殺の期待が認められないため,当該債権を自働債権とする相殺を許容すべきではないという点に,異論はないと思われます(破産法第72条第1項第1号参照)。

そこで,本文(2)では,第三債務者が差押え後に他人から取得した債権によって相殺することができないこととしています。

なお,上記最判平成24年5月28日の法廷意見は,委託を受けない保証の保証人が,破産手続開始後に保証債務を履行したことにより生じた事後求償権を自働債権とする相殺について,破産法第72条第1項第1号の類推適用によって,相殺することはできないとしています。

本文の提案は,差押え後と破産手続開始の決定後とで規律内容を異にする必要はないと考えられることから,委託を受けない保証の保証人は,差押え後に保証債務を履行したことにより生じた事後求償権を自働債権として相殺することができないという理解に立つものであり,このことを示す趣旨で,現在の破産法の規定と同様の表現ぶりを用いることとしています。

例えば,上記判例の法廷意見を前提とすると,本文(2)を類推適用することによって,相殺することができないという結論を採ることが可能であると考えられます。

3 本文は,差押え前に生じた原因に基づいて取得した債権以外の債権は一切相殺の対象とはしないという点で,債権譲渡と相殺の抗弁(前記第18,3(2))について相殺が認められる範囲よりも狭いものとしています。

この点については,債権譲渡について,特に将来債権が譲渡される場合には,譲渡人と債務者との間で引き続き取引が継続することが想定され,このような場合における債務者の相殺の期待を保護する必要がある一方で,差押えがされた場合には,その後も差押え前と変わらずに取引を継続するということが想定されにくいため,差押え前に生じた原因に基づいて取得した債権以外の債権との間で相殺を認める必要性に乏しいとの意見がありました。

このように,差押えの場合には,差押え前に生じた原因に基づいて取得した債権以外の債権によって保護すべき相殺の期待があるとは言えないという考慮に基づき,債権譲渡と相殺の抗弁の要件よりも相殺が認められる範囲を狭くすることとしたものです。

4 本文の考え方によると,差押債権者に相殺を対抗することができる範囲が広いため,不当な相殺の効力を否定するために,相殺権の濫用についての規定を併せて設けるべきであるとの考え方が主張されました。

例えば,本論点について無制限説を採ることを支持する立場からも,制限説が問題視するような不誠実な第三債務者による相殺については,相殺権の濫用法理によって,一定の場合には相殺の効力を否定すべきであるとの意見が
主張されています。

本文の考え方は,本文の要件を形式的に充足する場合であっても,相殺権の濫用法理によって相殺の効力が否定される場合があり得ることを否定するものではありませんが,相殺権の濫用については,適切な要件設定が困難であるとの考慮に基づき,解釈に委ねることとしています。

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債権法の改正・補足説明(その百三十九の一)

4 支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺(民法第511条関係)

民法第511条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 債権の差押えがあった場合であっても,第三債務者は,差押えの前に生じた原因に基づいて取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができるものとする。

(2) 第三債務者が取得した上記(1)の債権が差押え後に他人から取得したものである場合には,これによる相殺は,差押債権者に対抗することができないものとする。

(概要)

差し押さえられた債権を自働債権としてする相殺については,差押え時に相殺適状にある必要はなく,自働債権と受働債権の弁済期の先後を問わず,相殺を対抗することができるという見解(無制限説)を採る判例法理(最大判昭和45年6月24日民集24巻6号587頁)を明文化するものである。

また,破産手続開始の決定前に発生原因が存在する債権であれば,これを自働債権とする相殺をすることができるとする判例(最判平成24年5月28日判時2156号46頁)を踏まえ,本文(1)では,差押え時に具体的に発生していない債権を自働債権とする相殺についても相殺の期待を保護することとしている。

受働債権が差し押さえられた場合における相殺の範囲は,債権者平等がより強く要請される破産手続開始の決定後に認められる相殺の範囲よりも狭くないという解釈を条文上明らかにするものである。

なお,差押え後に他人の債権を取得した場合には,これによって本文(1)の要件を形式的に充足するとしても,差押え時に保護すべき相殺の期待が存しないという点に異論は見られないので,この場合に相殺することができないことを本文(2)で明らかにしている。

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債権法の改正・補足説明(その百三十八)

3 不法行為債権を受働債権とする相殺の禁止(民法第509条関係)

民法第509条の規律を改め,次に掲げる債権の債務者は,相殺をもって債権者に対抗することができないものとする。

(1) 債務者が債権者に対して損害を与える意図で加えた不法行為に基づく損害賠償債権

(2) 債務者が債権者に対して損害を与える意図で債務を履行しなかったことに基づく損害賠償債権

(3) 生命又は身体の侵害があったことに基づく損害賠償債権

(概要)

民法第509条については,現実の給付を得させることによる被害者の保護と不法行為の誘発の防止にあるという規定の趣旨からしても,相殺禁止の範囲が広すぎると批判されており,簡易な決済という相殺の利点を活かす観点から,相殺禁止の対象を同条の趣旨を実現するために必要な範囲に制限するものである。

また,同条は,不法行為によって生じた債権を受働債権とする相殺のみを禁止しているが,同条の趣旨は債務不履行によって生じた債権にも妥当する場合があると指摘されている。

この指摘を踏まえて,規律の合理化を図るものである。

(補足説明)

1 民法第509条は,不法行為によって生じた債権を受働債権とする相殺を禁止しています。

この規定の趣旨は,被害者に現実の給付を得させることによる被害者の保護と不法行為の誘発の防止にあるとされています。

しかし,前者(被害者の保護)については,被害者の損害が生命や身体にかかわる重大なものである場合にはともかく,財産上の損害である場合には必ずしも妥当しませんし,後者(不法行為の誘発防止)については,故意による不法行為の場合だけを禁止すれば足りると考えられることから,同条による相殺禁止の範囲が広すぎるのではないのではないかと批判されています。

そこで,学説上,簡易な決済の実現という相殺の利点を活かす観点から,同条の趣旨に反しない場合には相殺することができるとすべきであるという見解が有力に主張されています。

また,民法第509条については,上記の他にも,債務不履行による損害賠償債権を受働債権とする相殺にも同条の規律を及ぼすべきかという点が問題とされています。

医療過誤のように債務不履行と不法行為が競合する場合に,いずれに基づく損害賠償債権であるかによって相殺の可否が異なるのは不合理であるので,このような場合には,債務不履行に基づく損害賠償債権についても相殺が禁止されるべきであるという見解が主張されています。

2 本文は,以上の問題に対応するために民法第509条の規律を改めるものです。

これは,同条の趣旨のうち,不法行為の誘発禁止という点からは,故意又はこれに準ずる不法行為に基づく損害賠償債権を受働債権とする相殺のみを禁止すればよいとし,また,被害者に現実の給付を得させることによる被害者の保護という点からは,生命又は身体に生じた損害についてのみ妥当するものであり,例えば物損については,相殺を禁止してまで現実の給付を得させる必要はないとする実質的な考慮に基づく考え方です。

その上で,債務不履行に基づく損害賠償債権についても,上記の趣旨が当てはまるものについては,これを受働債権とする相殺を禁止するものである。

3 本文のような改正をする考え方に対しては,自動車事故のように責任保険の保険給付によって損害が填補され得る場合には,相殺を認めずに,保険給付を利用してそれぞれの損害を現実に賠償させる方が,被害者の保護という民法第509条の趣旨に合致すると指摘し,懸念を示す意見があります。

しかし,不法行為に基づく損害賠償債権を受働債権とする相殺が認められたからといって,それによって保険会社の責任保険の保険給付義務が消滅するわけではありません。

すなわち,損害賠償債権が相殺で消滅したとしても,損害賠償債権が成立したことまで否定されるものではなく,かつ,相殺の場合には,相殺権者の出えんによって債権が消滅するのであり,保険給付によって填補されるべき損害は生じていると言えるので,相殺がされたとしても責任保険の保険給付を受ける権利は失われないとの見解が主張されています。

そして,この見解によると,不法行為に基づく損害賠償債権を受働債権とする相殺を認めたとしても,双方が責任保険に加入しているような場面では,双方が保険給付を受けられるのですから,相手方の保護に欠けることにはならないと考えられます。

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債権法の改正・補足説明(その百三十七)

2 時効消滅した債権を自働債権とする相殺(民法第508条関係)

民法第508条の規律を次のように改めるものとする。

債権者は,時効期間が満了した債権について,債務者が時効を援用するまでの間は,当該債権を自働債権として相殺をすることができるものとする。
ただし,時効期間が満了した債権を他人から取得した場合には,この限りでないものとする。

(注)民法第508条の規律を維持するという考え方がある。

(概要)

時効期間が満了した債権を自働債権とする相殺は,債務者が時効を援用するまでの間はすることができるとするものである。

時効の援用がされた後であっても相殺することができるとする同条の規律に対しては,時効の援用をした債務者を不当に不安定な地位に置くものであるとの指摘がある。

また,同条が時効期間の満了前に相殺適状にあった場合に限って相殺することができるとする点についても,時効の援用を停止条件として時効の効果が確定的に生ずるとする判例(最判昭和61年3月17日民集40巻2号420頁)と整合的でなく,合理的ではないと指摘されている。

以上の問題意識を踏まえ,規律の合理化を図るものである。

また,時効期間が満了した債権を他人から取得した場合には,これを自働債権として相殺することができないとする判例法理(最判昭和36年4月14日民集15巻4号765頁)を併せて明文化している。

もっとも,同条については現状を維持すべきであるとの意見もあり,これを(注)で取り上げている。

(補足説明)

1 民法第508条は,時効によって消滅した債権についても,消滅以前に相殺適状にあった場合に,当該債権を自働債権とする相殺を認めています。

この趣旨は,相殺適状にある債権債務は既に清算されているという当事者の期待を保護する必要があるという点に
あるとされます。

しかし,この規定については,以下の点においてその内容が合理的ではないとの批判があります。

第1に,相殺の意思表示前に債務者が時効を援用していた場合であっても,相殺することができるとされている点です。

すなわち,時効が援用されることによって債権消滅の効果が確定的に生ずると説明されていますが,民法第508条により相殺の意思表示がされた場合には,時効援用の効果は覆滅されることになります。

しかも,相殺の意思表示について特に期間制限は設けられていないため,債務者は時効を援用していたとしても,
債権者から,予期せぬ時期に相殺の主張を受けるおそれがあります。

時効制度の趣旨の一つとして,過去の事実の立証の困難からの保護という点が挙げられますが,上記のようなお
それがあるため,同条の規定はこの時効制度の趣旨にも反するとの指摘があります。

また,同条が適用されるのは,時効期間の満了前に相殺適状が生じていた場合ですから,同条により相殺をする債権者は,時効期間の満了前に相殺の意思表示をすることが可能でした。

それにもかかわらず,債務者が積極的に時効を援用した後であっても,債権者が相殺をすることができるという同条の規律内容は不公平であるという指摘もあります。

第2に,民法第508条により相殺することができるとされるのは,時効期間の満了前に相殺適状にあった場合に限られている点です。

時効の効果の発生時期について,判例(最判昭和61年3月17日民集40巻2号420頁)は,債務者の時効の援用を停止条件として時効の効果が確定的に生ずるとする不確定効果説を採用していると言われています。

すなわち,この判例を前提とすると,時効期間の満了によって債権が消滅するわけではありませんから,上記の解釈は,債権の「消滅以前に相殺に適するようになっていた場合」に相殺をすることができるとする同条の文言と整合的ではなく,時効期間満了後に相殺適状になった場合でも,時効の援用前であれば,相殺することができるとするほうが,同条の文言と整合的であるとの指摘があります。

また,実質的にも,相殺は現に相殺適状にある債権債務を,意思表示によって対当額で消滅させる決済手段として機能している以上,相殺をすることができる要件を時効期間の満了前に相殺適状にあった場合に限定することについて,合理的な理由が見当たらないとの指摘もあります。

本文第1文は,以上の指摘に対応する観点から,①相殺の意思表示をすることができる場合を,債務者が時効を援用するまでの間に限定するとともに,②時効期間の満了時までに相殺適状にあったことを相殺の意思表示の要件とはしないとして,民法第508条の規律を改めるものです。

2 判例(最判昭和36年4月14日民集15巻4号765頁)は,民法第506条及び第508条の法意に照らし,時効期間が満了した債権を他人から取得した場合には,これを自働債権として相殺することができないとしています。

民法第508条の要件を形式的に充足するとしても,このような相殺の期待は保護に値しないとの判断に基づくものと考えられますが,この判例の結論を支持する立場からは,本文第1文の改正をするとしても,この判例を明文化すべきとの考え方が示されています。

本文第2文は,この考え方を採用するものです。

3 本文の考え方に対しては,特に過払金返還請求の事案を念頭に置いて,過払金返還請求権について時効が援用された場合に,同条を根拠として債務者が相殺の意思表示をすることによって,債務者が救済されているという事例があるとして,反対する意見があります。

しかし,これに対しては,この事案における現在の結論が妥当であるとしても,過払金返還請求という特殊な事案を一般化して同条を維持するのは,適当ではなく,同条を本文のように改正した上で,過払金返還請求の事案については,過払金返還請求権の時効の完成に関する考え方を再構成するなどの別の法理によって債務者の救済を図るべきであるとの批判があります。

また,銀行実務の立場からは,民法第508条が改正されると,貸金債権と預金債務との間で相殺の期待を有していた場合において,自動継続定期預金のように判例によって時効が完成しないとされる預金債務を負担しているときは,貸金債権について時効が完成してしまうと,銀行の債権回収の方法は同条による相殺しかないとして,規定の見直しに反対する意見がありました。

以上のような反対意見があったことを踏まえ,(注)では,民法第508条の規律を維持する考え方を取り上げています。

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債権法の改正・補足説明(その百三十六)

第23 相殺

1 相殺禁止の意思表示(民法第505条第2項関係)民法第505条第2項ただし書の善意という要件を善意無重過失に改めるものとする。

(概要)

相殺禁止の特約に関する民法第505条第2項ただし書の善意という要件を善意無重過失に改めるものである。特約の効力を第三者に対抗するための要件について,債権の譲渡禁止特約に関する同法第466条第2項の見直し(前記第18,1参照)を参照しつつ,これと整合的な見直しを図るものである。

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債権法の改正・補足説明(その百三十五の二)

(補足説明)

1 本文アは,(概要)記載のとおりです。

2 民法第504条は,債権者の担保保存義務を定めるものですが,特に銀行実務の立場から,規定の内容の合理性が疑問視されています。

すなわち,銀行取引では,債務者の経営状況の変化等に伴い,債務者から担保の差替えや一部解除の要請がしばしば行われますが,担保の差替えや一部解除は,少なくとも形式的には同条が定める担保の喪失又は減少に該当するため,この要請が合理的なものであったとしても,債権者としては,法定代位者全員の個別の同意を得ない限り,債務者からの要請に応ずることができず,時宜に応じた円滑な取引を行うことができないという指摘です。

このため,金融機関等は,実務上,法定代位者である保証人や物上保証人との間で,担保保存義務を免除する旨の特約を事前に結ぶことにより,このような不都合に対応しているとされます。

この担保保存義務の免除特約は古くからその有効性が認められてきましたが(大判昭和12年5月15日新聞4133号16頁),常に有効とされるわけではありません。

判例(最判平成7年6月23日民集49巻6号1737頁)は,債権者の行為が「金融取引上の通念から見て合理性を有し,保証人等が特約の文言等にかかわらず正当に有し,又は有し得べき代位の期待を奪うものとはいえないとき」には,特約の効力の主張は,原則として信義則違反又は権利の濫用に当たらないとして,特約の効力に一定の限界があることを明らかにしています。

このように,現在は,担保保存義務を定める民法第504条の規定を前提として,その全部を排除する特約が締結された上で,特約の効力の一部が信義則によって制限されており,担保保存義務をめぐる法律関係が分かりにくくなっていると指摘されています。

また,例えば,担保不動産の第三取得者のような特約を締結することができない者との関係では,同条の適用の有無が問題になります。そこで,担保保存義務に関する規定の在り方を見直すことが検討課題となります。

3 本文イの規律は,以上のような問題意識を踏まえて,民法第504条の規定の合理化を図るものです。

本文イで「担保の喪失又は減少が代位をすることができる者の正当な代位の期待に反しないとき」に免責の効果が生じないとしているのは,民法第504条の趣旨が,代位をすることができる者の代位の期待の保護にあるとされていることを考慮したものです。

この要件を充足する場合として具体的に想定されるのは,①担保目的物を売却した上で,当該売却代金で債務の一部を弁済するために,担保を解除する場合や,②担保を解除する代わりに,同等の価値を有するものを新たに担保として差し入れる場合などであり,担保保存義務免除特約の有効性に関するこれまでの判例の判断枠組みを参照することを意図するものです。

なお,本文の規律は,引き続き担保保存義務免除特約の効力が認められるとともに,その効力の限界に関する判例(上記最判平成7年6月23日)も維持されるとの考えに基づくものです。

債権者と代位権者との間で担保保存義務違反の有無が争われる事案において,担保保存義務免除特約が締結されている場合には,担保保存義務違反があったことを主張する代位権者が,債権者の行為が「金融取引上の通念から見て合理性を有し,保証人等が特約の文言等にかかわらず正当に有し,又は有し得べき代位の期待を奪うものとはいえない」ことを主張立証する責任を負うのに対し,担保保存義務免除特約が締結されていない場合には,債権者が本文イ第2文の要件についての主張立証責任を負うことになる点で違いが生ずることになると考えられます。

もっとも,現状で不都合が生じていないという現状認識を前提として,本文イ第2文を付け加える必要がないという意見もあるため,(注)で,基本的に現在の民法第504条の規律を維持する考え方を取り上げています。

4 債権者が担保保存義務に違反して担保の喪失等をした後に,物上保証人等から抵当不動産を譲り受けた第三者が,担保保存義務違反による免責の効力を債権者に対して主張することができるかどうかについて,判例(最判平成3年9月3日民集45巻7号1121頁)は,債務者から抵当不動産を譲り受けた第三取得者は,債権者が抵当権によって把握した不動産の交換価値の限度において債権者に対する責任を負担するものに過ぎないから,債権者が故意又は懈怠により担保を喪失又は減少したときは,民法第504条の規定により,担保の喪失又は減少によって償還を受けることができなくなった金額の限度において抵当不動産によって負担すべき責任の全部又は一部が当然に消滅し,当該不動産が更に第三者に譲渡された場合においても,責任消滅の効果は影響を受けないとしています。

この判例は,合意の相対効の例外を認めたものではなく,担保保存義務違反によって生じた法律関係が,債務者からの第三取得者や物上保証人からの譲受人に承継されることを明らかにしたものだとされていますが,このような規律を条文から読み取ることはできません。

そこで,本文ウは,この判例法理を明文化することとしています。

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債権法の改正・補足説明(その百三十五の一)

(4) 担保保存義務(民法第504条関係)

民法第504条の規律を次のように改めるものとする。

ア 債権者は,民法第500条の規定により代位をすることができる者のために,担保を喪失又は減少させない義務を負うものとする。

イ 債権者が故意又は過失によって上記アの義務に違反した場合には,上記アの代位をすることができる者は,その喪失又は減少によって償還を受けることができなくなった限度において,その責任を免れるものとする。
ただし,その担保の喪失又は減少が代位をすることができる者の正当な代位の期待に反しないときは,この限りでないものとする。

ウ 上記イによって物上保証人,物上保証人から担保目的物を譲り受けた者又は第三取得者が免責されたときは,その後にその者から担保目的物を譲り受けた者も,免責の効果を主張することができるものとする。

(注)上記イ第2文については,規定を設けないという考え方がある。

(概要)

本文アは,債権者が,代位権者に対して担保保存義務を負うことを明らかにするものであり,民法第504条が含意しているルールの明確化を図るものである。

本文イは,担保保存義務違反の要件として,故意又は過失による担保の喪失又は減少と,それが正当な代位の期待に反するものであることを明らかにするとともに,その効果として,担保の喪失又は減少によって償還を受けることができなくなった限度において,代位権者が免責されるとするものである。

要件については,民法第504条によると,取引上合理的と評価される担保の差し替えであっても,形式的には同条の要件を充足することになり,不合理であると指摘されてきたことを踏まえて,規律の合理化を図るものでる。

なお,本文の規律は,引き続き担保保存義務免除特約の効力が認められるとともに,その効力の限界に関する判例(最判平成7年6月23日民集49巻6号1737頁)も維持されるとの考えに基づくものである。

本文ウは,本文イによる免責が生じた場合には,その後に担保目的物を取得した第三者も免責の効果を主張することができるとする判例法理(最判平成3年9月3日民集45巻7号1121頁)を明文化するものである。

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債権法の改正・補足説明(その百三十四)

(3) 一部弁済による代位の要件・効果(民法第502条関係)

民法第502条第1項の規律を次のように改めるものとする。

ア 債権の一部について第三者が履行し,これによって債権者に代位するときは,代位者は,債権者の同意を得て,その弁済をした価額に応じて,債権者とともにその権利を行使することができるものとする。

イ 上記アのときであっても,債権者は,単独でその権利を行使することができるものとする。

ウ 上記ア又はイに基づく権利の行使によって得られる担保目的物の売却代金その他の金銭については,債権者が代位者に優先するものとする。

(概要)

本文アは,一部弁済による代位の要件について,代位者が単独で抵当権を実行することができるとした判例(大決昭和6年4月7日民集10巻535号)を改め,代位者による単独での抵当権の実行を認めないこととした上で,これを抵当権以外の権利行使にも一般化して明文化するものである。

この場合の代位者が単独で権利を行使することができるとすると,本来の担保権者である債権者が換価時期を選択する利益を奪われるなど,求償権の保護という代位制度の目的を逸脱して債権者に不当な不利益を与えることになるという問題意識に基づくものである。

本文イは,一部弁済による代位が認められる場合であっても,債権者は単独で権利行使することが妨げられないとするものである。債権者による権利の行使が,債権の一部を弁済したに過ぎない代位者によって制約されるべきではないという一般的な理解を明文化するものである。

本文ウは,一部弁済による代位の効果について,抵当権が実行された場合における配当の事例で債権者が優先すると判断した判例(最判昭和60年5月23日民集39巻4号940頁,最判昭和62年4月23日金法1169号29頁)を,抵当権以外の権利行使にも一般化して明文化するものである。

(補足説明)

1 債権の一部について弁済があったときは,代位者は,「債権者とともにその権利を行使する」とされている(民法第502条第1項)が,権利行使の要件・効果のそれぞれについて,その規律内容を条文から読み取ることができないと指摘されています。

一部弁済による代位があったときの権利行使の要件について,大審院の判例(大決昭和6年4月7日民集10巻535号)には,代位者が単独で抵当権を実行することができるとしたものがあります。

しかし,この判例の結論に対して,学説からは,代位者が単独で抵当権を実行できるとすると,本来の権利者である債権者が換価時期を選択する利益を奪われることになり,求償権の保護という代位制度の目的を逸脱して債権者に不利益を与えることになる等の強い批判があります。

このような批判を踏まえて,代位者は債権者との共同でなければ抵当権を実行することができないという見解が有力に主張されています。

また,近時の下級審の裁判例(東京高決昭和55年10月20日判タ429号106頁)には,代位者は,債権者から独立して抵当権を実行することは許されないと判断したものも現れています。

他方,一部弁済による代位があったときに,本来の権利者である債権者が単独で抵当権等の権利を行使することができるかという点については,判例上,代位者が単独で権利行使できるとされていることとの均衡上,債権者も権利行使できるという見解が主張されているものの,必ずしも確立した見解が存在するわけではありません。

また,一部弁済による代位があった場合における抵当権の実行による配当について,民法起草者は,債権者と代位者が平等に配当を受領することができると考えていたとされますが,近時の判例(最判昭和60年5月23日民集39巻4号940頁,最判昭和62年4月23日金法1169号29頁)は,弁済による代位は求償権を確保するための制度であり,そのために債権者が不利益を被ることを予定するものではなく,抵当権が実行された場合における配当について債権者の利益を害する理由がないとして,債権者が優先すると判断しました。

しかし,条文の文言からは,この判例法理の結論を導くことが困難であると指摘されています。

以上のように,一部弁済による代位があったときの債権者又は代位者による権利行使については,その要件・効果に関する規律内容が不透明ですので,これを明確化することが必要ですが,その具体的な規定の在り方については,判例法理の見直しも含めて検討課題となります。

2 本文アは,一部弁済による代位の要件について,代位者が単独で抵当権を実行することができるとした判例(上記大決昭和6年4月7日)を改め,代位者による単独での抵当権の実行を認めないこととした上で,これを抵当権以外の権利行使にも一般化して明文化するものです。

判例に対しては,前述のように,代位者単独での抵当権の実行を認めることは求償権の保護という代位制度の目的を逸脱して債権者に不利益を与えるものであるという批判があり,この批判は説得的であると考えられます。

また,弁済による代位が実務的に問題となるのは,おおむね金融取引であると考えられますが,金融取引の実務においては,一部弁済があった場合には,債権者の同意がなければ,代位によって取得した権利を行使することができないという特約が置かれるのが一般的であるとされています。

本文アは,以上のような問題意識に基づくものです。

本文イ及びウは,(概要)記載のとおりです。

3 ところで,一部弁済による代位に関する上記判例は,いずれも抵当権の実行に関するものですが,本文アからウまでは,いずれも適用対象を抵当権の実行に限るものでなく,抵当権以外の担保権や原債権についての保証債権のような抵当権以外の権利の行使についても,適用対象とするものです。

これは,抵当権以外の権利の行使についても,この(概要)及び補足説明記載の問題意識は同様に妥当するという考えに基づくものです。

なお,本文の規律を倒産手続開始決定後に及ぼすとすると,例えば,保証人の一人が債務の一部を弁済したことによって,他の保証人に対して代位することができる場合において,他の保証人について破産手続開始の決定があったときは,配当の場面で,原債権者と代位者の債権額を合算した額に対する配当の中から,原債権者は代位者に優先して満足を得ることになると考えられますが,これは,破産手続開始決定前に一部弁済があった場合には,原債権者と代位者がそれぞれ権利を行使することができ,平等に配当を受けることができるという破産法第104条の考え方とは抵触します。

しかし,本文の規律は一部弁済をした者が取得する求償権の行使には適用されないので,求償権の行使については同条の規定が適用されるとしつつ,代位によって取得する保証債権の行使については本文の規律により上記のようなルールが適用されると考えることに,特に問題はないとの指摘があります。

そこで,本文は,一部弁済によって代位により取得した権利の破産手続開始決定後における行使の在り方については,破産法第104条の解釈の問題として,破産法の議論に委ねることを前提としています。

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債権法の改正・補足説明(その百三十三の二)

(補足説明)

1 民法第501条は,第1号から第6号までにおいて,法定代位者相互間の関係に関する規定を置いています。

しかし,法定代位者相互間の関係については,同条からは明らかではない問題が多く,これらについて判例・学説によって規律を補っているという状況にあります。

法定代位者相互間の関係に関するルールは,関係者間の先鋭な利害対立を調整するものとして重要であることから,できる限り条文上明確にすることが望まれます。

本文アからカまでは,このような問題意識に基づき,ルールの明確化を図るものです。

2 本文アのうち,保証人が第三取得者に対して代位することができることを明らかにする点は,現在は規定が欠けていますが,民法第501条第1号が前提としているルールを補うものです。

同号は,物上保証人が第三取得者に対して代位することができることを当然の前提とした上で,その要件として,あらかじめ付記登記をすることが必要である旨を定めますが,同条第2号から第5号までは,代位の可否についても明文で明らかにしています。

そこで,本文アは,同条第1号についても,前提となる代位の可否についての規定を設けることとするものです。

また,本文アでは,物上保証人が第三取得者に対して代位することができることを併せて明らかにしています。

これは,現在規定が欠けているが,解釈上異論なく認められているルールを補うものです。

以上に加えて,本文アでは,保証人が不動産の第三取得者に対して代位するにはあらかじめ付記登記をすることを要するという民法第501条第1号及びこれを準用する同条第6号の規定を削除することとしています。

同条第1号の規定は債権が消滅したという不動産の第三取得者の信頼を保護する趣旨であるとされていますが,そもそも付記登記がないことを理由として債権が消滅したという第三取得者の信頼が生ずると言えるか疑問だとの批判の他,抵当権付きの債権が譲渡された場合に,付記登記が担保権取得の第三者対抗要件とされていないこととのバランスを失しているとの批判があります。

これらの問題意識に基づき,本文アは,同号の規定を削除することとしています。

本文アによりますと,付記登記は,第三取得者等の第三者に対して債権者に代位することを対抗するための要件ではなく,担保権を実行する際における承継を証する公文書(民事執行法第181条第3項)として位置付けられるものになる。すなわち,付記登記がない場合であっても,弁済による代位によって担保権が移転したことを第三者に対抗することができるとともに,代位をする者が,他に承継を証する公文書を提出することができれば,付記
登記がなくとも担保権を実行することができます。

3 民法第501条第2号は,第三取得者が保証人に対して債権者に代位しないことのみを規定していますが,第三取得者は,物上保証人に対しても代位しないという理解に異論は見られません。

本文イは,このような一般的な理解を明らかにするため,民法第501条第2号を改めるものです。

4 本文エは,複数の保証人間の関係を取り上げるものである。この点について,現在は規定が置かれていません。

他方,複数の保証人間の求償権については,民法第465条に規定があり,取得する求償権の範囲については,原則として保証人の人数に応じて平等の割合で,求償権を取得すると解されています。

求償権の確保のための代位制度についても統一的に考えるべきことから,共同保証人間では,原則として人数に応じて平等の割合で代位することができると考えられています。

すなわち,複数の保証人間で代位によって行使することができる権利の範囲は,債務者に対する求償権によって上限が画されるだけでなく,保証人の人数に応じても上限が画されることになります。

本文エは,以上のような一般的な理解に基づき,その数に応じて,他の保証人に対して債権者に代位することができるという規定を設けるものです。

なお,保証人間で負担部分に関する合意がある場合には,他の保証人に対して取得する求償権の方が,代位によって当該保証人に対して取得する保証債権より小さくなる場合もあり得ます。

この場合には,代位によって行使することができる権利の範囲は,他の保証人に対して取得する求償権によって上限が画されると考えられています。

本文エも,この理解に基づくものですが,これは,民法第501条柱書(「自己の権利に基づいて求償をすることができる範囲内において」)から導かれる帰結ですから,この点については特に規定を設けることとしていません。

5 本文オは,保証人と物上保証人との関係を取り上げるものである。民法第501条5号は,保証人と物上保証人を兼ねる者(二重資格者)の扱いについて規定を設けていませんが,判例(最判昭和61年11月27日民集40巻7号1205頁)は,公平の理念を理由として,この者を一人として扱った上で,全員の頭数に応じた平等の割合で代位の割合を決すべきであるという考え方を採っています。

本文は,この判例法理を明文化するものです。

もっとも,この判例法理に対しては,有力な批判がある。すなわち,二重資格者の相互間においても代位割合を頭数で按分すると,二重資格者が設定している物上保証の負担の大きさが考慮されないことになり,適当ではないとする批判や,事案によっては二重資格者の負担が保証人でない物上保証人よりも軽いという不当な帰結になり得るとの批判などがあります。

この立場からは,二重資格者を保証人と物上保証人の二人として扱う考え方などが示されている。このような批判があることを踏まえ,引き続き解釈に委ねる考え方を(注)で取り上げました。

(注)のような考え方に対しては,仮に二重資格者を保証人と物上保証人の二人として扱うのであれば,二重資格者の負担が過大になって適当ではないとの批判があるほか,実際の取引において二重資格者が現れることは少なくないので,これを解釈に委ねるのは適当ではなく,二重資格者の扱いについてどのような立場を採るか明らかにして規定を設けるべきであるとの批判もあります。

6 現在の民法第501条第3号から第5号までの基準や二重資格者の扱いに関する判例法理によると,根保証の保証人と通常の保証人との間や,根抵当権の設定者と通常の抵当権の設定者との間では,その差異は負担割合の違いに反映されません。

また,ある債権の額の一部を保証又は物上保証した者とその債権の全額を保証又は物上保証した者との間でも,その差異は負担割合の違いに反映されません。

これらの点について,その差異を適切に反映すべきであるという批判がある。例えば,債権額の一部を物上保証する物上保証人と債権全額を物上保証する物上保証人との負担割合が,被担保債権額の違いが考慮されることなく,財産の価格のみによって決せられることになる点を問題視するものです。

このような問題を解消するために,保証人又は物上保証人の負担割合については,①極度額の定めがある場合には極度額に応じて,②極度額の定めがない場合には保証債務の額又は被担保債権の額(一部保証の場合)若しくは財産の価格(全部保証の場合)に応じて,決すべきであるという考え方があり得ます。

このような考え方については,その問題意識は理解することができる一方で,なお,負担割合の算定基準時をどのように考えるかという問題や,極度額の定めが担保権を設定した財産の価格よりも大きい場合の負担割合の在り方をどのように考えるかという問題など,検討すべき課題があるように思われます。

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債権法の改正・補足説明(その百三十三の一)

(2) 法定代位者相互間の関係(民法第501条関係)

民法第501条後段の規律を次のように改めるものとする。

ア 民法第501条第1号及び第6号を削除するとともに,保証人及び物上保証人は,債務者から担保目的物を譲り受けた第三取得者に対して債権者に代位することができるものとする。

イ 民法第501条第2号の規律を改め,第三取得者は,保証人及び物上保証人に対して債権者に代位しないものとする。

ウ 民法第501条第3号の「各不動産の価格」を「各財産の価格」に改めるものとする。

エ 保証人の一人は,その数に応じて,他の保証人に対して債権者に代位するものとする。

オ 民法第501条第5号の規律に付け加え,保証人と物上保証人とを兼ねる者がある場合には,同号により代位の割合を定めるに当たっては,その者を一人の保証人として計算するものとする。

カ 物上保証人から担保目的物を譲り受けた者については,物上保証人とみなすものとする。

(注)上記オについては,規定を設けない(解釈に委ねる)という考え方がある。

(概要)

本文アのうち,保証人が第三取得者に対して代位することができることは民法第501条第1号が前提としているルールを明文化するものであり,物上保証人が第三取得者に対して代位することができることは現在規定が欠けている部分のルールを補うものである。

また,本文アでは,保証人が不動産の第三取得者に対して代位するにはあらかじめ付記登記をすることを要するという同号の規定を削除することとしている。同号の規律は債権が消滅したという不動産の第三取得者の信頼を保護する趣旨であるとされているが,そもそも付記登記がない場合に債権が消滅したという第三取得者の信頼が生ずると言えるか疑問である上,抵当権付きの債権が譲渡された場合に,付記登記が担保権取得の第三者対抗要件とされていないこととのバランスを失しているという問題意識に基づくものである。

本文イは,第三取得者は,保証人のほか物上保証人に対しても代位しないという一般的な理解を明らかにするため,民法第501条第2号を改めるものである。

本文ウは,民法第501条第3号の「各不動産の価格」を「各財産の価格」と改めるものである。

同号の適用範囲は,担保権付の不動産を取得した第三取得者に限られないと考えられており,そのルールの明確化を図るものである。

本文エは,保証人が複数いる場合における保証人間の代位割合について,その数に応じて,他の保証人に対して債権者に代位することができるという一般的な理解を明文化するものである。

本文オは,民法第501条第5号について,保証人と物上保証人を兼ねる者(二重資格者)がいた場合に,二重資格者を一人として扱った上で,頭数で按分した割合を代位割合とする判例法理(最判昭和61年11月27日民集40巻7号1205頁)を明文化するものである。

もっとも,この判例については,二重資格者の相互間においても代位割合を頭数で按分するのが適当ではないとする批判や,事案によっては二重資格者の負担が保証人でない物上保証人よりも軽いという不当な帰結になり得るとの批判などがあることを踏まえ,引き続き解釈に委ねる考え方を(注)で取り上げた。

本文カは,物上保証人から担保目的物を譲り受けた者を物上保証人とみなす旨の規律を新たに設けるものである。物上保証人から担保目的物を譲り受けた者の取扱いについての一般的な理解を明文化するものである。

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債権法の改正・補足説明(その百三十二)

10 弁済による代位

(1) 任意代位制度(民法第499条関係)

民法第499条第1項の規律を改め,債権者の承諾を得ることを任意代位の要件から削除するものとする。

(注)民法第499条を削除するという考え方がある。

(概要)

任意代位の要件から,債権者の承諾を削除するものである。

弁済を受領したにもかかわらず,代位のみを拒絶することを認めるのは不当であるから,代位について債権者の承諾を要件とする必要はないという考慮に基づくものである。

もっとも,法定代位をすることができる者を除いて第三者による弁済は制限されているにもかかわらず,このような第三者による弁済を積極的に奨励する趣旨の任意代位制度を存置するのは制度間の整合性を欠くので,この制度を廃止すべきであるとの考え方もあり,これを(注)で取り上げた。

(補足説明)

1 任意代位の制度(民法第499条)は,その要件として,弁済と同時に債権者の承諾を得ることが必要であるとされていますが,この点については,利害関係のない第三者が債務者の意思に反することなく弁済する場合に,債権者はその弁済を受領した上で,代位のみを拒否できることになりますが,このような対応は不当であり,任意代位の要件として債権者の承諾を得ることを要求すべきではないとの批判がされています。

本文は,この批判に対応する観点から,任意代位の要件から,債権者の承諾を削除するものです。

2 任意代位の制度については,これとは別の観点からの批判もある。任意代位の制度は,「弁済をするについて正当な利益を有する者」(民法第500条)以外の第三者が弁済をした場合に,債権者に代位することを認める制度です。

この制度は,第三者による弁済の奨励という目的に基づくものであると言われています。

この任意代位の制度によって債権者に代位することが想定されているのは,「利害関係を有しない第三者」(同法第474条第2項)が債務者の意思に反することなく弁済した場合ですが,同項が,利害関係を有しない第三者による弁済を制限しているにもかかわらず,任意代位制度によって第三者による弁済を奨励するというのは,制度間の整合性を欠いているとの批判です。

また,本文の考え方に対しては,債権者の意思に反するにもかかわらず,実質的に債権譲渡が強制されるにも等しい事態が生じ得ることを問題視する見解もあります。

(注)は,以上を踏まえ,任意代位の制度を廃止する考え方を取り上げるものであります。

これは,債務者のために履行をする第三者が代位の制度による保護を受けたいと考えるのであれば,債権者との間で保証契約や債務引受契約などを締結し,法定代位(同法第500条)の規定の適用を受け得る地位を得た上で,履行をすればよいという考え方に基づくものです。

もっとも,(注)の考え方に対しては,上記のような問題があるとしても,任意代位の制度を廃止することによって,債務者のために履行をした第三者の保護が不十分となることを懸念する意見があります。

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債権法の改正・補足説明(その百三十一の三)

続(補足説明)

実際には,被供託者が所在不明又は供託物の受取りを拒否した場合や,受け取るべき者が
確定しない場合には,倉庫営業者等は,保管料の収受が見込めないこととなるという問
題があり,また,倉庫営業者等は,その営業の部類に属しないことや,保管することが
できる数量を超えていることを理由として,物品供託の受入れを拒否することにより,
物品供託がされることはほとんどないという事情があります。

このため,債務者が物品供託をしようとしても,債務の履行地にはその物品を保管する倉庫営業者等が存在しないという事態が生じています。

このような事態が生じた場合には,弁済者の請求により,裁判所が供託所の指定や供託物の保管者の選任をする(民法第495条第2項)とされていますが,適当な供託所又は保管者を選任することは現実的には難しいと言われています。

このように,債務の履行地に供託法所定の供託所が存在せず,かつ,民法第495条
第2項の規定による供託所の指定又は供託物保管者の選任を得る見込みがないために,
事実上,物品供託を利用することができない場合には,弁済の目的物が「供託に適しな
いとき」(同法第497条)に該当すると解されており,自助売却による代金の供託が可
能です。

しかし,適切な供託所又は保管者を見つけられない場合のように,弁済の目的物の性質とは関係なく,供託が困難である場合に自助売却が認められることは,「弁済の目的物が供託に適しないとき」という同法第497条の条文の文言からは必ずしも明らかではありません。

また,実際には,同法第495条第2項の規定による供託所の指定又は供託物保管者の選任を得る見込みの有無が明らかになるまでには,相当の時間が必要となります。

供託が認められるまでに時間がかかれば,その間は遅延損害金等が発生することになりますが,時間をかけて供託所又は保管者を探しても,現実的には適切な供託所又は保管者を見つけることは難しいと言われており,このような現状は,弁済者の利益保護の観点からは問題があると考えられます。

そこで,例えば,債務の履行地に当該物品を保管することができる供託法所定の供託所が存在しない場合には,民法第495条第2項の規定による供託所の指定又は供託物保管者の選任を得る見込みの有無にかかわらず,自助売却を認めることが検討課題となります。

本文(2)は,以上を踏まえ,新たな自助売却の要件として,「弁済の目的物を供託する
ことが困難なとき」を加えるとともに,「供託に適しないとき」や「滅失若しくは損傷の
おそれがないとき」(この補足説明4参照)は,新たに加える「供託することが困難なと
き」の例示として位置付けることとしています。

これによって,前記のとおり,弁済の目的物の性質とは関係がなくても自助売却が認められることを明らかにする趣旨であり,債務の履行地に当該物品を保管することができる供託法所定の供託所が存在しない場合もこれに含まれることを意図するものです。

4 民法第497条は,弁済の目的物が「滅失若しくは損傷のおそれがあるとき」にも,
自助売却による競売代金の供託を認めていますが,この「滅失若しくは損傷のおそれ
がある」弁済の目的物の例としては,例えば,腐りやすい食品や変質のおそれがある薬
品等,物理的な価値の低下のおそれがある物が想定されています。

しかし,物理的な価値の低下でなくても,市場での価格の変動が激しく,放置しておけば価値が暴落し得るようなものについては,自助売却を認める必要があると指摘されています。

上記の方向で自助売却の要件を拡張するという考え方に基づき規定を改める場合の具体的な要件の在り方として,商法第524条第2項を参照しつつ,「滅失,損傷その他の事由による価格の低落のおそれがある」とすることが考えられます。

同項は,商事売買について「損傷その他の事由による価格の低落のおそれがある物」の無催告での自助売却を認めていますが,この「損傷その他の事由による価格の低落のおそれがある物」とは,物理的な価格の低落に限らず,市場での価格の変動が激しく,放置しておけば暴落するような場合も含まれるとされているので,民法第497条の要件として,商法第524条第2項の要件を参照することが考えられるのです。

もっとも,民法第497条には,商法第524条第2項にはない「滅失」のおそれという文言がありますが,あえてこれを削除するのは相当でないと考えられます。

そこで,本文(2)では,「その物について滅失,損傷その他の事由による価格の低落のおそれがあるとき」を,自助売却の要件として付け加えることとしています。

5 弁済供託がされると,債権者は供託物の還付請求権を取得することになります。

このことは,現在も民法第498条が間接的に示しているところですが,必ずしも明確であると言えません。

基本的なルールを条文から明確に読み取れるようにするという観点からは,還付請求権の取得という弁済供託の重要な効果についても条文上明確にすることが必要です。

そこで,本文(3)では,同条に付け加えて,債権者が供託物の還付請求権を取得することを明らかにする規定を設けることとしています。

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債権法の改正・補足説明(その百三十一の二)

(補足説明)

1 民法第494条は,弁済供託の供託原因として,債権者の受領拒絶,債権者の受領不能及び債権者不確知を挙げていのす。

このうち,債権者の受領拒絶を原因とする供託の要件として,債務者がそれに先立って弁済の提供をしたことが必要かという点は,条文上明示されていません。

この点について,判例(大判大正10年4月30日民録27輯832頁)は,債権者の受領拒絶を原因として供託をするためには,供託に先立って,弁済の提供をすることが必要であると判示しています。

学説上も,弁済供託が,債権者による受領という過程を経ないで債権を消滅させる効果を持ち,また,供託物の還付請求の手続を要する等の点で本来の弁済よりも債権者に不利益があり得ることから,弁済の提供をして債権者を受領遅滞にすることを要するという見解が有力です。

本文ア(ア)は,以上を踏まえ,受領拒絶を原因とする供託の要件として,弁済の提供があったことが必要であることを条文上明確にするものです。

もっとも,本文(1)ア(ア)は,口頭の提供をしても債権者が受け取らないことが明らかな場合に,弁済の提供をすることなく供託することができるとする現在の判例(大判大正11年10月25日民集1巻616頁)及び供託実務を,引き続き維持することが前提です。

2 債権者不確知を供託原因とする供託については,債権者を確知することができないことについての弁済をすることができる者の無過失が要件とされています(民法第494条後段)。

この弁済をすることができる者の無過失の主張・立証責任の所在については,必ずしも確立した見解は存在しないようですが,条文の構造からは,弁済をすることができる者が負うように解されます。

弁済をすることができる者の無過失の主張・立証責任の在り方については,債権者不確知の原因の多くが債権者側の事情と考えられることに留意する必要があるとの指摘があります。

例えば,債権譲渡の効力の有無について当事者間に争いがある場合には債権者不確知を供託原因とする供託が可能であるとされていますが,譲渡当事者の一方の主張が明らかに不当である場合には弁済をすることができる者の無過失が認められないとすると,譲渡の有効性に関する争いにおける当事者の主張の合理性についての主張・立証責任が弁済をすることができる者に課されることになり,不当ではないかという問題意識に基づくものです。

本文(1)イは,以上のような問題意識を踏まえて,履行をすることができる者の無過失の主張・立証責任を,債権者などの供託の有効性を争う者が負うこととするために,民法第494条後段を改めるものです。

3 金銭又は有価証券以外の物品を目的物とする供託(以下「物品供託」という。)は,法務大臣が指定する倉庫営業者又は銀行(以下「倉庫営業者等」という。)を供託所とするとされていますが(供託法第5条第1項),法務大臣の指定を受けている倉庫営業者等は全国で18社(平成11年12月1日現在)と少数であり,この倉庫営業者等は,その営業の部類に属する物であって保管することができる数量に限り,保管する義務を負うのみです(同条第2項)。

また,物品供託を受け入れた倉庫営業者等は,供託物の保管料について供託物を受け取るべき者に対して請求することとなっています(同法第7条)。

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債権法の改正・補足説明(その百三十一の一)

9 弁済の目的物の供託(民法第494条から第498条まで関係)

弁済供託に関する民法第494条から第498条までの規律を基本的に維持した上で,次のように改めるものとする。

(1) 民法第494条の規律を次のように改めるものとする。

ア 履行をすることができる者は,次に掲げる事由があったときは,債権者のために弁済の目的物を供託することができるものとする。この場合においては,履行をすることができる者が供託をした時に,債権は消滅するものとする。

(ア) 弁済の提供をした場合において,債権者がその受取を拒んだとき

(イ) 債権者が履行を受け取ることができないとき

イ 履行をすることができる者が債権者を確知することができないときも,上記アと同様とするものとする。
ただし,履行をすることができる者に過失があるときは,この限りでないものとする。

(2) 民法第497条前段の規律を次のように改めるものとする。

弁済の目的物が供託に適しないとき,その物について滅失,損傷その他の事由による価格の低落のおそれがあるとき,又はその物を供託することが困難であるときは,履行をすることができる者は,裁判所の許可を得て,これ
を競売に付し,その代金を供託することができるものとする。

(3) 民法第498条の規律の前に付け加え,弁済の目的物が供託された場合には,債権者は,供託物の還付を請求することができるものとする。

(概要)

本文(1)ア(ア)は,受領拒絶を供託原因とする弁済供託の要件として,受領拒絶に先立つ弁済の提供が必要であるという判例法理(大判大正10年4月30日民録27輯832頁)を明文化するとともに,弁済供託の効果として,弁済の目的物の供託をした時点で債権が消滅することを明文化することによって,弁済供託に関する基本的なルールを明確化するものである。

口頭の提供をしても債権者が受け取らないことが明らかな場合に,弁済の提供をすることなく供託することができるとする現在の判例(大判大正11年10月25日民集1巻616頁)及び供託実務は,引き続き維持されることが前提である。

同(イ)は,受領不能を供託原因とする現状を維持するものである。

本文(1)イは,債権者の確知不能を供託原因とする弁済供託の要件のうち,債務者が自己の無過失の主張・立証責任を負うとされている点を改め,債権者が債務者に過失があることの主張・立証責任を負担することとするものである。

債権者不確知の原因の多くが債権者側の事情であることを踏まえると,債務者に過失があることについて,債権者が主張・立証責任を負うとすることが合理的であると考えられるからである。

本文(2)は,金銭又は有価証券以外の物品の自助売却に関する民法第497条前段の要件のうち,「滅失若しくは損傷のおそれがあるとき」を「滅失,損傷その他の事由による価格の低落のおそれがあるとき」と改めるものである。物理的な価値の低下でなくても,市場での価格の変動が激しく,放置しておけば価値が暴落し得るようなものについては,自助売却を認める必要があるという実益に応えようとするものである。

また,同条前段の要件として,新たに「弁済の目的物を供託することが困難なとき」を加えている。供託所につ
いて特別の法令の定めがない場合に,裁判所が適当な供託所又は保管者を選任すること(同法第495条第2項参照)は現実的に難しく,物品供託をすることは困難であるが,自助売却までに時間がかかるという実務的な不都合が指摘されていることを踏まえて,債務の履行地に当該物品を保管することができる供託法所定の供託所が存在しない場合には,同項の規定による供託所の指定又は供託物保管者の選任を得る見込みの有無にかかわらず,迅速に自助売却をすることができるようにするものである。

本文(3)は,弁済供託によって債権者が供託物の還付請求権を取得するという基本的なルールを明文化するものである。

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債権法の改正・補足説明(その百三十)

8 弁済の提供(民法第492条関係)

民法第492条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 債務者は,弁済の提供の時から,履行遅滞を理由とする損害賠償の責任その他の債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れるものとする。

(2) 前記第11,1によれば契約の解除をすることができる場合であっても,債務者が弁済の提供をしたときは,債権者は,契約の解除をすることができないものとする。

(概要)

本文(1)は,弁済の提供の効果として履行遅滞を理由とする損害賠償の責任を免れることを,民法第492条に具体的に例示するものである。

これによって,現在は不明確であるとされる受領(受取)遅滞の効果(前記第13)との関係を整理し,ルールの明確化を図るものである。

本文(2)は,弁済の提供によって,本文(1)の効果の他,契約の解除をすることができなくなるという一般的に認められている解釈を明文化するものである。

(補足説明)

1 民法は,弁済の提供の効果について,「債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れる」とだけ規定し(同法第492条),他方,受領遅滞の効果については,「履行の提供があったときから遅滞の責任を負う」とだけ規定しています(同法第413条)が,これらの具体的な効果を,条文の文言から読み取ることは困難です。

そこで,それぞれの効果について,両者の区別を明らかにしながら,明確化することが検討課題となります。

弁済の提供とこれに基づく受領遅滞の効果として,以下の①から⑤までの効果が生ずるという点にはおおむね異論がうりまん。

① 債務者の債務不履行責任の不発生
② 債権者の同時履行の抗弁権の消滅
③ 特定物の引渡しの場合における注意義務の軽減
④ 増加費用の債権者負担
⑤ 目的物滅失等の場合における危険の移転

この①から⑤までが弁済の提供と受領遅滞のいずれの効果となるかについては,学説上,様々な見解が示されているところではありますが,本文は,弁済の提供の効果として①②を想定した上で,①のみを規定することとしています。

これは,弁済の提供が専ら債務者の行為を規律するものであるから,債務者が行うべき行為に基づく効果のみを弁済の提供の効果として位置付けるという考え方に基づき,①②を弁済の提供の効果として整理する立場です。

①②はいずれも,債権者の行為とは無関係に,債務者の行為から発生する効果であると見るのが自然であるのに対し,③から⑤までは,専ら債権者の責任や負担が加重されるという効果であり,債権者の行為と結びつく効果であると整理するのが妥当であるからです。

そして,②は民法第533条において既に規定されている内容ですから,同条が維持される限りは,同法第492条では,①のみを規定する趣旨で,履行遅滞を理由とする損害賠償と解除ができないとすることを挙げることとしています。

2 このうち,解除については,今般の見直しにおいて,解除を契約の拘束力から解放するための制度として位置付けるべきとの考え方が示されており,解除することができなくなることを①の中に位置付けるのは,この考え方整合しないので,適切ではないとの意見がありました。

もっとも,この考え方も,弁済の提供によって,債権者が解除をすることができなくなるということを否定するものではないため,現在の民法第492条を明確化する本文アに付け加えて,本文イで,弁済の提供によって,解除をすることができなくなる旨を明らかにする規定を設けることとしています。

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債権法の改正・補足説明(その百二十九の二)

(補足説明)

1 弁済の充当については,民法第488条から第491条までに規定が置かれていますが,条文相互の関係が分かりにくいことなどから,弁済の充当に関する規律内容が明確ではないと指摘されています。

今般の見直しに当たっては,実際に適用される規律内容を条文から容易に読み取ることができるように,規定を整理することが検討課題となります。

2 本文(1)は,民法第488条から第491条までの規定にかかわらず,当事者間に充当に関する合意がある場合には,当該合意に従い充当されることを明らかにするものです。

これは,同法第488条から第491条までが任意規定であるという意味であるが,実務では合意による充当がされることが多いという指摘を踏まえると,弁済の充当に関する重層的で複雑な規律を分かりやすく整理する観点から,第1順位として当事者間の合意に従うべきことを条文上明確にすることが望ましいとの考慮に基づくものです。

3 本文(2)及び(3)は,(概要)記載のとおりです。

4 本文(4)は,債務者が同一の債権者に対して同種の給付を内容とする数個の債務を負担する場合において,そのうち一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべきときについて,現在の民法第491条の規律を維持した上で,残額がある費用,利息又は元本の間においては同法第488条及び第489条の規律が適用されるとするものです。

判例(大判大正6年3月31日民録23輯591頁)・学説は,民法第491条が,充当の指定に関する同ます第488条の適用を排除しており,この場合には一方当事者による充当順序の指定は認められないと理解しています。

費用は,債務者が負担すべきものを債権者が立て替えているのですから,最初に支払われるべきです。また,利息よりも先に元本に充当して利息が生じなくすることは,元本を交付した債権者の通常の期待に反し,債務者を過当に有利にすることになるため,利息は,元本よりも先に充当されるべきです。

同法第491条は,このような考慮に基づく規定であるから,その順序を一方当事者の指定により変更するのは適当でないというのです。

現在の同法第491条の規律を維持するのは,以上の考慮に基づくものです。

また,費用相互間,利息相互間又は元本相互間の充当の順序が問題となる場合に関して,民法第491条第2項は,同法第489条(法定充当)のみを準用し,同法第488条(指定充当)を準用していません。

そのため,現行法の解釈としては指定充当を否定する見解があり,その理由として,債務者にとって有利な充当を認めることが当事者の意思に合致し,公平であることが挙げられています。

しかし,この場合に限って指定充当を否定すべき合理性は,必ずしもないとの指摘や,また,当事者の意思に合致することを理由として指定充当を否定する点については,指定充当を認めるほうが,当事者の意思に合致する帰結を導くことができるとの指摘があります。

本文(4)は,以上の指摘を踏まえて,現在のルールを改め,同法第488条の規律を準用することを明らかにするものです。

5 本文(5)は,(概要)記載のとおりです。

6 本文(6)は,民事執行手続における配当について,当事者間に充当に関する特約があったとしても,法定充当によると判断した判例(最判昭和62年12月18日民集41巻8号1592頁)の帰結を改め,合意による充当を認めることとするものです。

判例は,担保権の実行としての不動産競売の手続において債権者と債務者との間に弁済充当の指定に関する特約があっても,当該特約に基づく指定充当は認められず,民法第489条から第491条までの規定に従った弁済充当がされるとしています。

これは,不動産競売の手続は執行機関がその職責において遂行するものであって,その配当に際して債務者又は債権者の意思表示が予定されておらず,画一的に,最も公平妥当な充当方法である法定充当によることが競売制度の趣旨に合致することを理由とするものです。

そして,この判例の考え方は,強制執行による配当における充当についても妥当すると考えられています。

しかし,これに対しては,法定充当しか認められないことによって実務的な不都合が生じているとの指摘があります。

例えば,法定充当によると,担保付きの債権から先に消滅することになってしまいますが,債権者はこれを避けることができないことが問題であるとするものなどです。

また,配当後の充当関係について一律に法定充当によらなければ執行手続上の支障が生ずるとは必ずしも言えないとの指摘があります。

この点について,法定充当以外の充当方法が認められることによって,執行手続に影響が生じ得るとする立場からは,同一事件において2回目以降の配当が実施される場合において,2回目以降の配当の際に債権者が提出した債権計算書に記載された債権額が,法定充当後の債権額と一致しないことがあるという点が指摘されています。

しかし,これに対しては,配当手続が終了する前に,手続外で一部弁済がされた場合のように,現在でも,2回目以降の配当の際に債権者が提出した債権計算書に記載された債権額が,法定充当後の債権額よりも少なくなることがあり得るのであり,合意充当を認める事によって,今までになかった問題が新たに執行手続に生ずるわけではないし,この点が現在の執行手続において問題であるとの指摘も見当たらないと反論されています。

すなわち,合意充当を認めるとしても,執行裁判所は,債権者が提出した債権計算書に従って配当表を作成すればよく,現在でも実務ではそのように運用されているのですから,合意充当を認めたとしても執行手続に支障は生じないとの指摘であります。

もっとも,上記のような指摘を踏まえてもなお,上記の判例は民事執行の円滑で公平な処理に資するもので変更の必要はなく,仮に合意充当を認めれば民事執行の手続に混乱と紛争を惹起し,執行妨害等の弊害が生じ得るとの懸念が示されています。

この立場は,上記のとおり,法定充当以外の充当方法が認められることによって新たな問題が生ずるわけではないとしても,2回目以降の配当の際に債権者が提出する債権計算書に記載された額と法定充当後の債権額とが一致しない事態が増加すれば,それによる手続の遅延や配当手続の結果をめぐる紛争が増加することを懸念する意見であると思われます。

このような意見を主張する立場から,本文のような規定を設けず,現在の判例を維持すべきとする考え方が主張されていますので,これを(注)で取り上げています。

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債権法の改正・補足説明(その百二十九の一)

7 弁済の充当(民法第488条から第491条まで関係)

民法第488条から第491条までの規律を次のように改めるものとする。

(1) 次に掲げるいずれかの場合に該当し,かつ,履行をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をした場合において,当事者間に充当の順序に関する合意があるときは,その順序に従い充当するものとする。

ア 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を内容とする数個の債務を負担する場合(下記ウに該当する場合を除く。)
イ 債務者が一個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(下記ウに該当する場合を除く。)
ウ 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を内容とする数個の債務を負担する場合において,そのうち一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべきとき

(2) 上記(1)アに該当する場合において,上記(1)の合意がないときは,民法第488条及び第489条の規律によるものとする。

(3) 上記(1)イに該当する場合において,上記(1)の合意がないときは,民法第491条の規律によるものとする。

(4) 上記(1)ウに該当する場合において,上記(1)の合意がないときは,まず民法第491条の規律によるものとする。この場合において,数個の債務の費用,利息又は元本のうちいずれかの全部を消滅させるのに足りないときは,民法第488条及び第489条の規律によるものとする。

(5) 民法第490条を削除するものとする。

(6) 民事執行手続における配当についても,上記(1)から(4)までの規律(民法第488条による指定充当の規律を除く。)が適用されるものとする。

(注)上記(6)については,規定を設けないという考え方がある。

(概要)

弁済の充当に関する民法第488条から第491条までについて,規定相互の関係が必ずしも分かりやすくないと指摘されてきたこと等を踏まえ,これらのルールの関係を整理し,規律の明確化を図るものである。

本文(1)は,弁済の充当に関する当事者間の合意がある場合には,その合意に従って充当されることを明らかにする規定を新たに設けるものである。弁済の充当に関しては,実務上,合意の果たす役割が大きいと指摘されていることを踏まえたものである。

本文(2)は,現在の民法第488条(指定充当)及び第489条(法定充当)の規律を維持するものである。

本文(3)は,一個の債務について元本,利息及び費用を支払うべき場合に関して,現在の民法第491条の規律を維持するものである。

本文(4)は,一個又は数個の債務について元本,利息及び費用を支払うべき場合に関して,現在の民法第491条の規律を維持した上で,残額がある費用,利息又は元本の間においては同法第488条及び第489条の規律が適用されるとするものである。

この場合に指定充当が認められるとする点は,現在争いがある問題について,ルールを明確化するものである。

本文(5)は,民法第490条を削除するものである。同条が規律する一個の債務の弁済として数個の給付をすべき場合(例えば,定期金債権に基づいて支分権である個別の債務が発生する場合)については,弁済の充当に関しては,数個の債務が成立していると捉えることが可能であり,あえて特別の規定を存置する意義に乏しいと思われるからである。

本文(6)は,民事執行手続における配当について,当事者間に充当に関する特約があったとしても,法定充当によると判断した判例(最判昭和62年12月18日民集41巻8号1592頁)の帰結を改め,合意による充当を認めることとするものである。

法定充当しか認められないことによって担保付きの債権が先に消滅するという実務的な不都合が生じている等の指摘がある反面,配当後の充当関係について一律に法定充当によらなければ執行手続上の支障が生ずるとは必ずしも言えないとの指摘があることを考慮したものである。

もっとも,上記の判例は民事執行の円滑で公平な処理に資するもので変更の必要はなく,仮に合意充当を認めれば民事執行の手続に混乱と紛争を惹起し,執行妨害等の弊害が懸念されるとの指摘があり,このような規定を設けないとする考え方を(注)で取り上げている。

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債権法の改正・補足説明(その百二十八の二)

(補足説明)

1 民法第483条は,特定物の引渡しに関する当事者の通常の意思によれば,契約時や実際の引渡時ではなく,本来の履行期の現状を基準とするであろうと推測されることを根拠として,特定物の引渡債務について,履行期の現状で引き渡すべきことを定めたという趣旨の規定であるとされています。

そして,このような理解を前提とすると,債権発生後に目的物が滅失・損傷した場合には,基本的には保存義務としての善管注意義務(同法第400条)違反に基づく債務不履行又は危険負担の問題として処理されることにな
るため,同法第483条が実際に問題となる場面は乏しいと指摘されており,判例集等においても,同条が直接問題となった事案はほとんど見当たらないと指摘されています。

また,同条が同法第400条と別に置かれていることによって,債務者が保存義務を尽くさなかった場合であっても,免責される余地があるかのように誤解されるおそれがあるとの指摘もあります。

この点について,部会では,同法第483条は,債権者と債務者との間で,引き渡すべき物の性状に関する明示的な合意がない場合における補充規範として機能するのではないかとの意見もありましたが,これに対して,この意見も同法第400条に違反した場合には履行期の現状で引き渡しても免責されないことを認めるのだから,あえて重ねて規定を設ける意義を説明することができていないとの批判がありました。

また,特定物についても,売買における売主の責任の有無を契約の趣旨に照らして規範的に判断する考え方を採用する以上(後記第35,3以降参照),引き渡すべき目的物の品質が債務の内容を構成せず引渡しをすべき時の現状で引き渡せば一切の責任を負わないという事態は想定し難いようにも思われます。

本文(1)は,以上のような指摘等を踏まえ,民法第483条を削除することとしたものです。

2 本文(2)は,(概要)記載のとおりです。

3 民法第486条は,弁済者に受取証書の交付請求権があることを規定しています。

この受取証書の交付請求権と債務の履行との関係について,同条の文言上は,弁済が先履行であるようにも読めますが,受取証書は弁済の証拠として重要ですから,弁済者が債務の履行との同時履行を求めることが正当化されるとして,受取証書の交付は債務の履行と同時履行であると理解されています。

受取証書が弁済の証拠として重要な役割を果たしていることからすると,上記の解釈に基づき条文を改める必要があります。

そこで,本文(3)は,条文上,受取証書の交付と債務の履行が同時履行であることを明確にする方向で規定を改めることとしています。

4 金銭債務の決済の多くは流動性預金口座を通じた振込み等によって行われているが,この点について民法には特に規定がありません。

そのため,例えば,①流動性預金口座への振込みによる金銭債務の履行が弁済に当たるかという点や,②流動性預金口座への振込みによる金銭債務の消滅時期がいつかという点などの基本的な法律関係が必ずしも明らかではないと指摘されています。

そこで,流動性預金口座への振込みが金銭債務の履行方法として重要な役割を果たしていることを踏まえて,民法に規定を設けることが検討課題となります。

①流動性預金口座への振込みによる金銭債務の履行が弁済に該当するかについては,流動性預金口座への振込みが金銭債務の弁済と代物弁済(民法第482条)のいずれに該当するかが争われていますが,これは,預金債務を通貨と同視することができるかという問題と関わるものです。

この点について,流動性預金口座への振込みが弁済に該当するとする見解は,銀行振出の自己宛小切手(預手)の交付が債務の本旨に従った弁済の提供となると判断した判例(最判昭和37年9月21日民集16巻9号2041頁)について,預手の交付による預金債権の取得が現金の交付に相当するということを含意していると見るものです。

これに対して,流動性預金口座への振込みが代物弁済に該当するという見解は,債権者が預金債権を取得したとしても,銀行からの相殺の主張や第三者からの預金債権の差押え等,現金払いの場合には生じない不利益が発生するおそれがあることから,現金払いと同視することはできないとして,これを代物弁済とし,債権者の承諾を必要とすべきであるとするものです。

また,②流動性預金口座への振込みによる金銭債務の消滅時期は,預金債権の成立時期とも関連する問題ですが,通説は,被仕向銀行が受取人の預金口座に入金記帳をした時点であるとしています。

本文(4)は,上記①②の問題について,①流動性預金口座への振込みが金銭債務の弁済と位置付けられ得ることとともに,②金銭債務の消滅時期が受取人の預金口座に入金記帳がされた時であることを明確にするものです。

この考え方からは,例えば,振込依頼人が受取人への振込みを依頼したにもかかわらず,仕向銀行や被仕向銀行の過誤等によって受取人の預金口座に入金記帳がされなかった場合には,振込依頼人の受取人に対する債権は消滅しないという結論が導かれることになります。

なお,本文(4)は,明示又は黙示の合意によって振込み以外の方法によって履行するとされた場合に適用されるものではありません。

また,本文(4)のルールに対して,債権者が想定していなかった預金口座に債務者から金銭が振り込まれた場合にも弁済の効力があったとされるのではないかとの懸念が示されていますが,このような場合には,通常は,当該
口座への振込みによる履行を許容しないという黙示の合意があったと評価されることにより,弁済の効力が認められないことになると考えられます。

もっとも,本文(4)の考え方に対しては,預金口座への振込みによる債務の履行について一律のルールを設けることが適当ではないとして,規定を設けることに反対する意見があります。

(注)はこのような意見を踏まえて,規定を設けず,引き続き解釈に委ねるとする考え方を取り上げたものです。

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債権法の改正・補足説明(その百二十八の一)

6 弁済の方法(民法第483条から第487条まで関係)

(1) 民法第483条を削除するものとする。

(2) 法令又は慣習により取引時間の定めがある場合には,その取引時間内に限り,債務の履行をし,又はその履行の請求をすることができるものとする。

(3) 民法第486条の規律を改め,債務者は,受取証書の交付を受けるまでは,自己の債務の履行を拒むことができるものとする。

(4) 債権者の預金口座に金銭を振り込む方法によって債務を履行するときは,債権者の預金口座において当該振込額の入金が記録される時に,弁済の効力が生ずるものとする。

(注)上記(4)については,規定を設けない(解釈に委ねる)という考え方がある。

(概要)

本文(1)は,特定物の引渡しに関する民法第483条を削除するものである。
同条は,実
際にその適用が問題となる場面が乏しい反面,履行期の状態で引き渡せば,合意内容とは異なる性状で目的物を引き渡したとしても責任を負わないという誤った解釈を導くおそれがあると指摘されていることによる。

本文(2)は,弁済の時間について,商法第520条の規律を一般化して民法に設けるものである。

現在は弁済の時間に関する規定は民法に置かれていないが,商法第520条の規律内容は,必ずしも商取引に特有のものではなく,取引一般について,信義則上,当然に同様の規律が当てはまるという一般的な理解を明文化するものである。

本文(3)は,受取証書の交付と債務の履行が同時履行の関係にあるという一般的な理解に従って,民法第486条を改めるものである。

本文(4)は,債権者の預金口座への振込みによって金銭債務の履行をすることが許容されている場合に,振込みがされたときは,その弁済の効力は入金記帳時に生ずるとするものである。

金銭債務の履行の多くが預金口座への振込みによってされる実態を踏まえて,その基本的なルールを明らかにすることを意図するものである。もっとも,このような規定を設ける必要性がないという考え方があり,これを(注)で取り上げている。

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債権法の改正・補足説明(その百二十七)

5 代物弁済(民法第482条関係)

民法第482条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 債務者が,債権者との間で,その負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において,債務者が当該他の給付をしたときは,その債権は,消滅するものとする。

(2) 上記(1)の契約がされた場合であっても,債務者が当初負担した給付をすること及び債権者が当初の給付を請求することは,妨げられないものとする。

(概要)

本文(1)は,代物弁済契約が諾成契約であることと,代物の給付によって債権が消滅することを条文上明らかにするものである。

代物弁済契約が要物契約であるという解釈が有力に主張されているが,これに対しては,合意の効力発生時期と債権の消滅時期とが一致することによって,代物の給付前に不動産の所有権が移転するとした判例法理との関係など
をめぐって法律関係が分かりにくいという問題が指摘されていた。

このことを踏まえ,合意のみで代物弁済契約が成立することを確認することによって,代物弁済をめぐる法律関
係の明確化を図るものである。

本文(2)は,代物弁済契約が締結された場合であっても,債務者は当初負担した債務を履行することができるとともに,債権者も当初の給付を請求することができることを明らかにするものである。

代物弁済契約の成立によって,当初の給付をする債務と代物の給付をする債務とが併存することになるため,当事者間の合意がない場合における両者の関係についてルールを明確化することを意図するものである。

(補足説明)

1 代物弁済については,伝統的に要物契約であるという見解が有力に主張されてきました。

これは,代物弁済による債権の消滅の効力が代物の給付が現実にされることによって生ずることに着目したものですが,実際には,代物弁済の予約や停止条件付代物弁済のように諾成的な代物弁済の合意が,特に担保取引において利用されることが多いと指摘されています。

また,判例は,代物弁済が要物契約か諾成契約かについて,明示的には判断していませんが,代物弁済として不動産を給付した事案において,代物弁済による債務消滅の効果は原則として所有権移転登記手続を完了した時に生じますが,代物弁済の目的である不動産の所有権移転の効果は,原則として当事者間の代物弁済契約の成立した時に,その意思表示の効果として生じることを妨げないとしています(最判昭和57年6月4日判時1048号97頁,最判昭和60年12月20日判時1207号53頁)。

この判例の結論は,代物弁済を諾成契約とする立場からは容易に説明できますが,要物契約とする立場からは,所有権移転原因たる代物弁済契約がまだ成立していない時点での物権変動を認めることになってしまうため,説明が難しいとされています。

そして,現在では,諾成的な代物弁済の合意が有効であることを明確に認める見解が有力であるとされています。

代物弁済の合意が実務において重要な役割を果たしていることからすると,代物弁済をめぐる法律関係を明確にするために,規定を整備することが望ましいが,その前提として,まずは,諾成的な代物弁済の合意が有効であることと,債権の消滅時期は代物の給付の時点であることを確認することが必要です。

そこで,本文(1)では,代物弁済契約が諾成契約であることを明らかにするとともに,代物の給付により債権が消滅することを確認する規定を設けることとしています。

2 諾成的な代物弁済の合意が有効であることを明確にしても,なお,代物弁済をめぐる法律関係には不明確な点が多いとの指摘があります。

諾成的な代物弁済の合意が有効であるとすると,債務者が代物を給付するまでの間,本来の給付義務が消滅しないという点には争いがありませんが,本来の給付義務と代物の給付義務との関係が問題となります。

具体的には,①債務者が引き続き本来の給付をすることができるかという点と,②債権者が債務者に対して本来の給付を請求することができるかという点です。

そして,この点については,現行法下で諾成的な代物弁済の合意の効力を認める見解の下でも,①②のいずれも
可能であるという見解と,①②のいずれも不可能であるという見解が主張されています。

本文(2)は上記の問題について,上記①②のいずれもが可能であるということを明らかにするものです。

代物弁済が担保目的で利用されることが多いという実態を踏まえると,当事者の合意がない場合の任意規定としては,代物弁済の合意後も,債務者が当初負担した給付をすることを許容するとともに,債権者がこれを請求することができるというルールとすることが合理的であるという理由に基づくものです。

もっとも,本文(2)は,上記①②のいずれもが可能であるということを明らかにするにとどまり,例えば,債権者が代物の給付を求めたにもかかわらず,債務者が本来の給付をすることによって債務を免れることができるかどうかという点などについては,解釈に委ねることを前提としています。

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債権法の改正・補足説明(その百二十六の二)

(補足説明)

1 債権者以外の第三者に対する弁済に関して,現行民法には,第三者が受取権限を有しない場合の規定が置かれていますが(民法第478条から第481条まで),第三者が受取権限を有する場合については,明文の規定が置かれていません。

しかし,債権者以外の第三者に受取権限を与えて弁済を受け取らせること(代理受領)は,債権担保や債権回収
の手段として実務上広く活用され,重要な機能を果たしていると指摘されています。

そこで,本文では,債権者以外の第三者に対する弁済であっても,その第三者が受取権限を有する場合には弁済が有効となることを確認する旨の規定を設けることとしています。

債権者のほかに履行を受けることができる者として,債権者が受取権限を与えた第三者と,法令によって受取権限を有する第三者を挙げており,後者の例としては,破産管財人の他,債権者代位権を行使した代位債権者(前記第14,3参照)が挙げられます。

2 民法第478条は,弁済の相手方が債権者その他弁済の受領権限を有する者でなかった場合においても,その者が「債権の準占有者」に該当するときは,一定の要件の下で弁済が有効となることを認めています。

この「債権の準占有者」という文言については,そもそも用語として分かりにくいという問題が指摘されていす。

また,自ら債権者であると称する者がこれに含まれ得ることは明らかである一方,債権者の代理人と称する者が含まれるかどうかが,文言からは必ずしも明らかではありまん。

すなわち,財産権の準占有に関する民法第205条において「自己のためにする意思」が必要とされていることに照らすと,同法第478条の「準占有者」についても,同様に「自己のためにする意思」が必要とも考えられ,そうだとすると,債権者の代理人と称する者に対する弁済は同条によっては保護されないのではないのではないかとする見解も主張されてきました。

沿革的にも,債権者の代理人と称する者に対する弁済には,同条の適用は想定されていなかったと言われます。

また,債権者の代理人と称する者に対する弁済については,債権者の帰責事由が独立の要件とされる表見代理の規定で対応すべきであるとも考えられ,民法第478条を適用することには異論もありました。しかし,

判例(最判昭和37年8月21日民集16巻9号1809頁等)は,債権者の代理人と称する者も準占有者に該当するとし,その後の学説の多くもこれを支持しています。

そこで,条文の文言からその適用範囲を読み取ることができるようにするため,「債権の準占有者」という文言を改めることが必要となります。

本文(1)イは,以上の問題意識に基づき,受取権者以外の者であって受取権者としての外観を有するものに対する履行の効力についての規定を設けるものです。

債権の準占有者としては,以下の①から⑥までが含まれると解されてきたが,本文(1)イは,本文(2)の限度での見直しを行う他は,この解釈を踏襲するものです。

① 表見相続人(大判昭和15年5月29日民集19巻903号)
② 無効な債権譲渡の譲受人(大判大正7年12月7日民録24輯2310頁)
③ 債権が二重譲渡された場合に劣後する譲受人(最判昭和61年4月11日民集40巻3号558頁)
④ 偽造の債権証書・受取証書の所持人(大判昭和2年6月22日民集6巻408頁)
⑤ 詐称代理人(最判昭和37年8月21日民集16巻9号1809頁等)
⑥ 預金通帳と届出印の持参人(大判昭和16年6月20日民集20巻921頁)

3 民法第478条は,債権の準占有者への弁済が有効となる要件として,弁済者の善意無過失が必要であるとしています。

この要件は,同条が,権利の存在についての外観を信頼した弁済者を保護するための規定であることに基づき必要とされるものです。

ところで,この善意無過失の要件に関して,判例(最判平成15年4月8日民集57巻4号337頁)は,通帳を盗取した第三者が通帳機械払方式による払戻しを受けた場合における当該払戻しの有効性が問題となった事案において,払戻し時における過失の有無だけでなく,機械払システムの設置管理についての過失の有無をも考慮して判断しました。

このような機械払方式による払戻しの事案については,過失の判断を柔軟に行うことによって対応できていることを理由に,規定の見直しの必要性を疑問視する意見もあります。

しかし,民法第478条の過失は,文言を素直に読めば,弁済の時において相手方に受領権限があると信じたことについての過失を問題としており,機械払システムの設置管理についての過失のように,弁済時の弁済者の主観面と直接関係しない過失を考慮することは,同条の条文の文言から直ちに導かれるものではありません。

今後,ATM等による機械払だけでなく,インターネット等を利用した非対面型の決済がこれまで以上に増加すると予想され,前記判例のような適用場面が増えると考えられることから,前記判例を踏まえて,民法第478条の善意無過失要件を適切な文言に改めることが必要であるという問題意識が示されています。

本文(1)イは,上記の問題意識に基づき,債務者の主観面に関する過失の有無に限らない事情を総合的に勘案できるような規範的な要件とするという観点から,「当該者が受取権者であると信じたことにつき正当な理由がある場合」を要件とするものです。

これによって,実質的なルールを改めようとするものではなく,むしろ,現在妥当する実質的なルールを条文上適切に表現しようと試みるものです。

もっとも,本文のような改正をすることに反対する意見があります。

これは,善意無過失という要件の下でも,現在の実質的なルールを読み取ることが困難とは言えないという意見のほか,「正当な理由」と文言を改めることによって,債権者の帰責事由の有無が考慮されやすくなるのではないかと懸念する意見です。

後者の意見は,特に民法第110条の「正当な事由」と同じ文言が用いられることによって,同条と同じ解釈がされることになることを懸念するものです。

しかし,後者の意見に対しては,現在の要件の下でも債権者の帰責事由の有無が債務者の免責の可否を決するに当たって考慮されているとの意見,「正当な理由」と文言を改めることによって,債権者の帰責事由の有無が現在より考慮されるようになるという関係を疑問視する意見,同条の「正当な理由」と同じ文言を用いたとしても,これと異なる解釈がされることは妨げられないとする意見などの反論があります。

4 民法第478条をめぐっては,真の債権者の帰責事由を独立の要件としていないものの,同条が外観に対する信頼保護の法理に基づくものであるという理解に基づき,同様の法理に基づく民法上の他の制度(表見代理,虚偽表示等)と同様に,真の債権者に帰責事由があることを要するものと解釈すべきであるという見解が有力に主張されています。

他方で,真の債権者の帰責事由を独立の要件としないことを支持する見解も有力です。

債務の弁済は既存の義務の履行であり,弁済しなければ債務不履行責任を負わされる立場にあるから,新たな取引を行う場合である表見代理等の適用場面に比して,より外観への信頼を保護する必要があるとして,債権者の帰責事由を独立の要件とすべきではないとするものです。

この点について,本文(1)イは,債権者の帰責事由を独立の要件とはしない考え方を前提としています。

債権者の帰責事由を独立の要件として必要とする考え方に対しては,弁済者からは知り得ない債権者の帰責事由の有無が独立の要件とされると,円滑迅速な決済の実現が不可能になり,実務に与える影響が大きいという批判のほか,例えば,表見相続人に対する弁済のように,債権者に帰責事由があることが想定できないようなものもあるため,一律に債権者の帰責事由を独立の要件とすると,弁済者が免責される場面が限定されてしまうとの批判があることなどを考慮したものです。

もっとも,このような考え方を採ることは,債権者に帰責事由がない場合であっても,債務者が免責される場合があり得ることを意味するにとどまり,本文(1)イのルールの適用に当たって,債権者の帰責事由の有無を一切考慮しないということを意味するものではありません。

現在は,債権者の帰責事由が独立の要件としては不要であるという立場からも,債務者の過失の有無の判断に当たって,債権者の帰責事由の有無が考慮されるとの見解が主張されています。

これと同じように,今般の見直し後においても,免責の可否を決するに当たって債権者の帰責事由の有無を考慮するという解釈を否定するものではない点で,現状を維持するものであることに留意する必要があります。

5 民法第480条は,受取証書の持参人であれば債権者から受領権限を与えられているのが通常であるとして,受取証書の持参人に対して弁済した者を特に保護する趣旨から,同法第478条とは異なり,受取証書の持参人に対する弁済の効力を否定する側に,弁済者の主観的要件の主張・立証責任を課しています。

しかし,このような民法第480条の趣旨に対しては,①受領権限の証明方法として重要なものは,受取証書の持参以外にもあり,受取証書の持参についてのみ特別な規定を設ける必要性が低いと考えられること,②同条が適用されるには,真正の受取証書の持参人であることを弁済者が立証する必要がある(後記判例参照)と考えられるところ,真正の受取証書の持参人に対する弁済であることが立証されたのであれば,弁済者の善意無過失を事実上推定してよいと考えられることから,同法第478条が適用される場合と本質的な相違はないこと等の指摘があり,これらを理由として,同法第480条の存在意義を疑問視する見解が主張されています。

また,判例(大判明治41年1月23日新聞479号8頁)によると,同条は真正の受取証書の持参人についてのみ適用され,偽造の受取証書の持参人については,同法第478条が適用されることになりますが,受取証書が真正か偽造かによって適用される条文が異なるのは分かりにくいという指摘もされています。

本文(2)は,以上のような指摘等を踏まえ,民法第480条を削除し,受取証書の持参人に対する弁済についても同法第478条の適用に委ねることを提案するものです。

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債権法の改正・補足説明(その百二十六の一)

4 債務の履行の相手方(民法第478条,第480条関係)

(1) 民法第478条の規律を次のように改めるものとする。

ア 債務の履行は,次に掲げる者のいずれかに対してしたときは,弁済としての効力を有するものとする。
(ア) 債権者
(イ) 債権者が履行を受ける権限を与えた第三者
(ウ) 法令の規定により履行を受ける権限を有する第三者

イ 上記アに掲げる者(以下「受取権者」という。)以外の者であって受取権者としての外観を有するものに対してした債務の履行は,当該者が受取権者であると信じたことにつき正当な理由がある場合に限り,弁済としての効力を有するものとする。

(2) 民法第480条を削除するものとする。

(注)上記(1)イについては,債務者の善意又は無過失という民法第478条の文言を維持するという考え方がある。

(概要)
本文(1)アは,債務の履行の相手方に関する基本的なルールを定めるものである。

受取権者でない者に対する履行が例外的に有効となる要件を定める民法第478条の規律に先立って,原則的な場面を明示しようとする趣旨である。

債権者のほかに履行を受けることができる者として,債権者が受取権限を与えた第三者(例えば,代理人)と,法令によって受取権限を有する第三者(例えば,破産管財人)を挙げている。

本文(1)イは,民法第478条を以下の2点で改めるものである。第1に,同条の「債権の準占有者」という要件を,受取権者としての外観を有する者という要件に改めることとしている。

債権者の代理人と称する者も「債権の準占有者」に該当するとした判例法理(最判昭和37年8月21日民集16巻9号1809頁等)を明文化するとともに,「債権の準占有者」という用語自体の分かりにくさを解消することを意図するものである。

第2に,同条の善意無過失という要件について,文言を正当な理由に改めている。善意無過失という要件は,その文言上,弁済の時において相手方に受取権限があると信じたことについての過失を問題としているように読めるが,判例(最判平成15年4月8日民集57巻4号337頁)は,これにとどまらず,機械払システムの設置管理についての注意義務違反の有無のように,弁済時の弁済者の主観面と直接関係しない事情をも考慮することを明らかにした。

このことを踏まえ,「正当な理由」の有無を要件とすることによって,弁済に関する事情を総合的に考慮するというルールを条文上明確にすることを意図するものである。

このうち,第2の点については善意無過失という現在の規律を改める必要性がなく,文言を維持すべきであるとの考え方があり,これを(注)で取り上げている。

本文(2)は,受取証書の持参人に対する弁済について定めた民法第480条を削除するものである。同条が真正の受取証書の持参人だけを適用対象としていることについて,合理性がないと批判されているほか,偽造の受取証書の持参人については同法第478条が適用されることも分かりにくくなっていると批判されている。

そこで,同法第480条を削除して,真正の受取証書の持参人についても同法第478条が適用されるとすることにより,規律の合理化と簡明化を図るものである。

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債権法の改正・補足説明(その百二十五)

3 弁済として引き渡した物の取戻し(民法第476条関係)

民法第476条を削除するものとする。

(概要)

行為能力の制限を受けた所有者が弁済としてした物の引渡しに関する民法第476条を削除するものである。

同条の具体的な適用場面は制限行為能力者が代物弁済をした場合に限られる一方で,その適用場面においても,再度の債務の履行と引き渡した物の取戻しとの間に同時履行の関係が認められないのは,売買等の他の有償契約の取消しの場合との均衡を欠き,不合理であると指摘されている。

このような一般的な理解を踏まえ,同条を削除することによって,規律の合理化を図るものである。

なお,同条の削除に伴い,同法第477条の適用範囲は,同法第475条の場合に限定されることになる。

(補足説明)

弁済者が制限行為能力者であった場合に関する民法第476条については,弁済を法律行為と見ない今日の理解のもとでは,弁済そのものの取消しではなく,給付の内容である法律行為の取消しにのみ適用されるものであると考えられており,具体的な適用場面は,制限行為能力者が代物弁済をした場合などに限られるとも言われています。

このため,その存在意義が疑問視されている。また,代物弁済を諾成契約として改める場合には,例えば,売買の取消しと代物弁済の取消しとで,同じ諾成契約の取消しであるにもかかわらず,弁済者が引き渡した物の返還請求に関する結論が異なります。

すなわち,売買の取消しの場合は引き渡した物と対価の返還が同時履行の関係となると解されているのに対して,代物弁済の取消しの場合は弁済者が引き渡した物の返還との関係で有効な弁済が先履行の関係となりますが,このような結論の違いは,妥当ではないという指摘もあります。

本文は,以上のような問題意識を踏まえ,民法第476条を削除するものです。

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債権法の改正・補足説明(その百二十四の二)

(補足説明)

1 民法第474条は,債務者の意思に反して第三者が弁済をするためには,その者が「利害関係」(同条第2項)を有する必要がある旨を規定しています。

他方,弁済をした第三者が「正当な利益を有する者」である場合には,その第三者は,求償権を取得するとともに,当然に債権者に代位すること(法定代位)が認められています(同法第500条)。

この「利害関係」を有する第三者と「正当な利益を有する者」の関係について,保証人や連帯債務者のように自ら債務を負う者は,第三者弁済をする「利害関係」を有する者には該当せず,「正当な利益を有する者」のみに該当するという差異がある旨の指摘があります。

しかし,「利害関係」と「正当な利益を有する者」という文言の使い分けから,このような差異を読み取ることは困難です。

また,法定代位が認められる「正当な利益を有する者」以外の第三者が「利害関係を有しない」者とされるのですから,あえて異なる用語を用いなくても規定することは可能ではないかという考え方が示されています。

また,法定代位制度の目的が第三者による弁済を促進することにあるとされているように,両者が連続性のある制度であることから,両者の要件を共通にすることによって,両者の関係を条文上も明らかにすることが望ましいとの指摘もあります。

本文(1)は,以上を踏まえ,当然に第三者による弁済をすることができる者の要件を「正当な利益を有する者」として,法定代位が認められる要件と一致させ,ルールの明確化を図るものです。

2(1) 利害関係を有しない第三者は,債務者の意思に反して弁済をすることができないとされています(民法第474条第2項)。

このような制限が設けられた理由として,他人の弁済によって恩義を受けることを欲しない債務者の意思を尊重することと,弁済をした第三者による過酷な求償権の行使から債務者を保護することが挙げられていますが,前者の理由については,民法において貫徹されているわけではない(保証人に関する同法第462条第2項,免除に関する同法第519条など)という指摘があります。

また,利害関係を有しない第三者による債務者の意思に反しない弁済の提供について,債権者は受領を拒絶することができないと一般に考えられているため,債権者は,債務者の意思に反するかどうかの確認を待たずに第三者から受領してしまうことがあり得ます。

この場合において,債務者の意思に反することが事後的に判明したときに,債権者に対して給付物の返還という不利益を甘受させてまで,債務者を保護する必要があるか疑問であるとの指摘もされています。

民法第474条第2項については,以上のような指摘に対応するための改正の必要性があると指摘されています。

(2) 本文(1)は,正当な利益を有する者以外の第三者による弁済について,客観的に判断可能な要件に該当する場合でない限り,債権者が受け取りを拒むことができるとすることによって,上記の問題に対応しようとするものです。

このうち,「第三者が債務を履行するについて債務者の承諾を得たことを債権者が知ったとき」に債権者が受領
を拒絶することができないとすることとしているのは,特に履行引受のような取引で行われる第三者による債務の履行が,現在よりも制約されることがあるのは適当ではないという考慮に基づくものですが,債務者の承諾があったことを「債権者が知った」と評価することができるまでは,履行を受けることを拒むことができるとすることによって,債権者の保護を図ることを意図しています。

そして,本文(2)は,以上の見直しにかかわらず,正当な利益を有しない第三者の弁済によって,その第三者から求償されることを望まないという債務者の利益を引き続き保護するため,民法第474条第2項を維持するものです。

もっとも,その適用場面は,本文(1)によって現在よりも限定されることとなります。

本文の考え方に対しては,債務者が行方不明などの事情により,債務者の意思が不明な場合には債権者が第三者による履行を受けることができないという状況に変わりはないとの批判があります。

(注)は,このような批判を踏まえ,正当な利益を有する者以外の第三者は,債務者の意思に反するか否かにかかわらず,有効に弁済をすることができるが,その第三者は債務者に対して求償することができないとする考え方を取り上げるものです。

第三者が求償権を取得しないとするのは,このような考え方を採用するとしても,正当な利益を有する者以外の第三者は,債務者の意思に反しないことを確認した上で履行することができる立場にあり,仮に債務者の意思を確認できない事情があるとしても,そもそも履行をしないことによって不利益を受ける立場にはないのですから,当該履行の結果,仮に求償権を取得しないという効果が生ずるとしても,やむを得ないと言えることを考慮したものです。

(注)の考え方によれば,第三者からの弁済の提供があったときに,債権者は,債務者の意思にかかわらず履行
として受け取ればよいので,債権者が対応に苦慮することがあるという問題は解消されます。

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債権法の改正・補足説明(その百二十四の一)

2 第三者の弁済(民法第474条関係)

民法第474条第2項の規律を次のように改めるものとする。

(1) 民法第474条第1項の規定により債務を履行しようとする第三者が債務の履行をするについて正当な利益を有する者でないときは,債権者は,その履行を受けることを拒むことができるものとする。

ただし,その第三者が債務を履行するについて債務者の承諾を得た場合において,そのことを債権者が知ったときは,この限りでないものとする。

(2) 債権者が上記(1)によって第三者による履行を受けることを拒むことができるにもかかわらず履行を受けた場合において,その第三者による履行が債務者の意思に反したときは,その弁済は,無効とするものとする。

(注)上記(1)(2)に代えて,債権者が債務を履行するについて正当な利益を有する者以外の第三者による履行を受けた場合において,その第三者による履行が債務者の意思に反したときはその履行は弁済としての効力を有するものとした上で,その第三者は債務者に対して求償することができない旨の規定を設けるという考え方がある。

(概要)

本文(1)は,正当な利益を有する者以外の第三者による弁済について,債権者が受け取りを拒むことができるとするものである。現在は,第三者による履行の提供が債務者の意思に反しない場合(民法第474条第2項参照)には,債権者は受け取りを拒絶することができないと一般に考えられているため,債権者は,債務者の意思に反することが事後的に判明したときは履行を受けた物を返還しなければならないリスクを覚悟して,債務者の意思に反するかどうかの確認を待たずに,その履行を受けざるを得ないという問題が指摘されている。

そこで,この問題に対応するため,客観的に判断可能な要件に該当する場合でない限り,債権者は受け取りを拒むことができることとするものである。

なお,本文(1)で,当然に第三者による弁済をすることができる者の要件を「正当な利益を有する者」としているのは,法定代位が認められる要件(同法第500条)と一致させることによってルールの明確化を図る趣旨である。

また,本文(1)第2文では,債務者による履行の承諾を第三者が得たことを知った場合には,債権者は受領を拒むことができないとしている。債務者の意思が客観的に外部に明らかになっている場合には,債権者による受領の拒絶を認める必要はなく,特に履行引受のような取引で行われる第三者による債務の履行が引き続き認められる必要があるという考慮に基づくものである。

本文(2)は,以上の見直しにかかわらず,正当な利益を有しない第三者の弁済によって,その第三者から求償されることを望まないという債務者の利益を引き続き保護するため,民法第474条第2項を維持するものである。

もっとも,その適用場面は,本文(1)によって現在よりも限定されることとなる。

これに対して,本文の考え方によると,債務者の意思が不明な場合には債権者が第三者による履行を受けることができないという状況に変わりはないので,その場合であっても弁済としての効力を認めた上で,その第三者は債務者に対して求償することができないとする考え方があり,これを(注)で取り上げている。

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債権法の改正・補足説明(その百二十三)

第22 弁済

1 弁済の意義

債務が履行されたときは,その債権は,弁済によって消滅するものとする。

(概要)

弁済が債権の消滅原因であることを明記する規定を新設するものである。

現在は,弁済の款の冒頭に「第三者の弁済」という異例な事態を扱った規定が置かれ,弁済の意味に関する基本的な定めが欠けていることから,このような現状を改める趣旨である。

弁済という用語は,「債務の履行」との関係で,現行法では必ずしも明確に使い分けられていないが,ここでは,「更改によって消滅する」(民法第513条第1項)という表現と同様に,その消滅原因の呼称を表すもの(ないし消滅という結果に着目するもの)として用いている。

(補足説明)

現在は,弁済の款の冒頭に「第三者の弁済」という異例な事態を扱った規定が置かれています。

他方,弁済によって債権が消滅するということは,民法上の最も基本的なルールの一つですが,そのことを明示する規定は置かれておらず,弁済に関する規定が「債権の消滅」という節(第3編第1章第5節)に置かれていることから,弁済が債権の消滅原因であることを読み取ることができるのみです。

本文は,基本的なルールはできる限り条文上明確にすることが必要であるという考慮に基づき,弁済によって債権が消滅する旨の規定を設けることとするものです。

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債権法の改正・補足説明(その百二十二の二)

(補足説明)

1 契約当事者の一方(譲渡人)と第三者(譲受人)との間の合意によって,当該契約当事者の契約上の地位を移転させることができることについては,民法に規定はないものの,現在ではほとんど異論なく認められていると言われています。

このような合意には,個々の債権債務のみならず,解除権等の形成権も第三者に移転させることができるという機能が認められており,特に賃貸借契約などの継続的契約において,当事者の一方の変更にもかかわらず,将来に向かって契約の効力を存続させることができる有用な法技術として,実務上広く用いられています。

そこで,民法にこの法技術についての明文の規定を設けることとしています。

なお,この法技術の呼称については,契約上の地位の移転,契約上の地位の譲渡,契約譲渡又は契約引受などとするものがあり,必ずしも統一されているわけではありません。

呼称の違いは,この法技術の構造等に関する理解の違いを反映するところもあると思われますが,中間試案では差し当たり,契約上の地位の移転という呼称を用いることとしています。

2 要件については,契約上の地位を譲渡する旨の譲渡人と譲受人の合意とともに,契約の相手方の承諾を要するのが原則であるが,賃貸借契約における賃貸人たる地位を譲渡する場合のように,契約上の地位が譲受人に承継されないことによって保護される利益が相手方にないのであれば,例外的に契約の相手方の承諾を要しないとされています。

そこで,契約上の地位の移転に関する規定を設ける場合には,その例外の要件をどのように規定するかという点が問題となります。

この点については,これまで,「譲渡の対象とされる契約の性質によって」承諾が不要となる場合があるとする要件が検討対象とされていました(部会資料38[18頁])。

しかし,例えば,合意による賃貸借契約の地位の移転については,賃貸人たる地位の移転に賃借人の承諾が不要となる場合があることが一般に認められている一方で,賃貸借の目的物の移転を伴わずに合意によって賃貸人たる地位のみを第三者に移転する場合には,賃借人の承諾が必要であると現在は考えられているほか,賃借人たる地位の移転には賃貸人の承諾が必要です(民法第612条)。

このように,賃貸借契約の地位の移転であっても,契約の相手方の承諾が必要な場合と不要な場合とがあり,「譲渡の対象とされる契約の性質によって」とする一般的要件では,その規律内容を適切に表すことができていないと考えられます。

ところで,契約の相手方の承諾なしに契約上の地位が移転する場合の典型とされる賃貸人たる地位の移転のケースについては,今般の改正で新たに規定を設けることが検討されています(後記第38,5参照)。

また,このケース以外に,契約上の地位の移転について契約の相手方の承諾が不要であるとした最高裁判例は存在せず,学説上も異論なく承認されている例は見当たりません。

以上を踏まえると,契約上の地位の移転について契約の相手方の承諾が不要な場合の要件を積極的に定める必要はなく,解釈に委ねればよいと考えられます。

本文は,このような考慮に基づき,例外的に契約の相手方の承諾が不要である場合についての規定を設けないとするものです。

これに対して,分かりやすさの観点からは,契約上の地位の相手方の承諾が不要である場合がどのような場合か,できる限り要件を明確化すべきであるとの意見があります。

そして,このような立場からは,「契約上の地位が承継されないことについて相手方に利益がない」場合に,相手方の承諾なく契約上の地位を承継させられるとの規定を設けることが考えられるとの考え方があり,これを(注)で取り上げました。

この立場は,例えば,ライセンス契約の地位の移転のように,契約の相手方の承諾が不要となるか争いがある
ものについて,例外の要件の解釈の問題として議論の枠組みを設定することができるという利点があることを指摘します。

3 契約の相手方の承諾の時期について,部会では,事前の承諾が有効であることを明らかにする考え方が取り上げられ,検討対象とされました(部会資料38[18頁])。

債権譲渡の対抗要件としての承諾について,事前の承諾の有効性が疑問視されるのは,譲渡が実際にされていない段階で債務者が承諾をしても,債務者がインフォメーション・センターとしての役割を果たし得ないからであるが,契約上の地位の移転についての契約の相手方の承諾はこれと趣旨を異にし,その相手方の保護のために必要とされるものですから,事前の承諾の有効性を否定する必要がないという考え方です。

しかし,これに対しては,労働契約の地位の移転については,労働者の保護の必要性を理由として,包括的な事前承諾の有効性を否定する考え方が有力であることを踏まえて,事前の承諾が有効であることを明記することに反対する意見がありました。

このような議論の状況を踏まえて,契約の相手方の承諾の時期については,明記しないこととしています。

4 契約上の地位の移転の効果に関して,譲渡人が当然に免責されるか否かについては,争いがあります。

この点について,契約上の地位の移転とは,これによって譲渡人が当然に免責されるということを含意するものではなく,譲渡人と譲受人とが併存的に契約上の責任を負うこともあり得るという理解に基づき,契約上の地位の移転の要件として,契約の相手方の承諾とは別に,譲渡人を免責する旨の相手方の意思表示が必要であり,免責の意思表示がされない場合には,譲渡人と譲受人が併存的に責任を負うとする見解があります。

しかし,本文は,契約上の地位の移転とは,契約上の地位が同一性を保ったまま譲受人に移転することを表す概念であるという理解を踏まえ,契約上の地位の移転に伴って,譲渡人は免責されるのが原則であるとの見解を前提とするものです。

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