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債権法の改正・補足説明(その百三の二)

(補足説明)

1 委託を受けた保証人が期限前に弁済等をした場合の事後求償権(本文(1))

民法第459条第1項は,委託を受けた保証人が弁済や代物弁済等によって主債務を消滅させた場合の求償関係について規定しています。保証委託契約は,委任契約ですから,委託を受けた保証人が弁済に要する費用については,委任事務の処理に要する費用として,委任者である主債務者に対して請求をすることができますが(同法第649条,650条),このような委任に関する規定の特則として,委託を受けた保証人の求償権に関する規定(同法第459条から第461条まで,第463条)が置かれています。

ところで,委託を受けた保証人が,主債務の弁済期が到来する前に,保証債務の期限の利益を放棄して弁済等をすることがありますが,このような保証債務の期限前弁済は,保証委託の趣旨に反することがあるとの指摘がされています。

例えば,主債務者も保証人も債権者に対する反対債権を有していたところ,債権者の資力が悪化したため,保証人が保証債務の期限の利益を放棄して債権者に対して自己の反対債権を自働債権とする相殺を行うことがあり得ますが,これは,債権者の無資力のリスクを主債務者に負わせて自己の利益を図るものであるというのです。

そこで,委託を受けた保証人が期限前に弁済等をした場合については,保証委託の趣旨に反することがあることを踏まえ,その場合の事後求償権の範囲を,委託を受けない保証人の事後求償権の範囲と同様のものにとどめるべきであるとの考え方が示されています。

すなわち,事後求償権が認められる範囲を,委託を受けた保証人が期限前弁済等をした当時に主債務者が利益を受けた限度(民法第462条第1項参照)にとどめるべきであるというのです。

また,判例(大判大正3年6月15日)は,委託を受けた保証人が期限前に弁済等をした場合には,主債務者の期限の利益を害さないようにするため,その保証人による事後求償権の行使は,主債務の期限の到来を待たなければならないとしています。

本文(1)は,以上を明文化して,保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,主たる債務の期限が到来する前に,弁済その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは,主たる債務者は,主たる債務の期限が到来した後に,債務が消滅した当時に利益を受けた限度で,同項による求償に応ずれば足りるものとしています。

2 委託を受けた保証人の事前求償権(本文(2))

(1) 民法第460条は,委託を受けた保証人が事前求償権を行使することができる場合として,主債務者が破産手続開始の決定を受け,かつ,債権者がその破産財団の配当に加入しないとき(同条第1号),主債務が弁済期にあるとき(同条第2号),主債務の弁済期が不確定で,かつ,その最長期をも確定することができない場合において,保証契約の後10年を経過したとき(同条第3号)を挙げています。

このほか,過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受けたとき(同法第459条第1項)も,委託を受けた保証人が事前求償権を行使することができる場合の一つであると解されています。

保証委託契約は,委任契約ですから,委託を受けた保証人が弁済をするのに必要な費用については,委任者である主債務者に対して前払請求をすることができますが(同法第649条),委託を受けた保証人について,常にこの前払請求を認めてしまうと,主債務者にとっては,保証人に保証委託をした意味がなくなります。

したがって,保証委託契約の趣旨からは,一般の委任契約の場合とは異なり,費用前払請求権は認められないのが原則となります。

しかし,委託を受けた保証人であっても,事前に求償をしなければ主債務者の財産が散逸してしまうなどの危険があり得るため,例外的に事前求償権を認める必要があります。

委託を受けた保証人の事前求償権は,このような観点から,委任契約における受任者の費用前払請求権を制限しつつ,必要な範囲で例外的に認められたものと考えられます。

(2) 部会の審議においては,債権者には,保証人との関係でその負担を不当に重くすることがないように行動すべき信義則上の義務があり,債権者がこの義務に違反して主債務者に対する債権回収を著しく怠った場合には,保証人は一定の範囲で免責される旨の規定を設けるという考え方が示され,このような規定が設けられるのであれば,
事前求償権の規定を削除しても委託を受けた保証人の保護を図ることができるという指摘もありました。

しかし,以上のような債権者が主債務者に対する債権の回収を著しく怠った場合に保証人を免責するという考え方に対しては異論もあり,したがって,事前求償権の規定を削除する考え方は採られませんでした。

(3) もっとも,民法第460条第3号の事前求償権の発生事由(債務の弁済期が不確定で,かつ,その最長期をも確定することができない場合において,保証契約の後10年を経過したとき)については,そもそも事前求償権という制度になじまないとの指摘がされています。

債務の弁済期が不確定で,かつ,その最長期をも確定することができない場合の例としては,終身定期金債務の保証などが挙げられていますが,これについては,主債務の額が定まらないなどの問題があるから,事前の求償にはなじまないというのです。

そこで,本文(2)では,この民法第460条第3号のみを削除するものとしています。

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債権法の改正・補足説明(その百三の一)

3 保証人の求償権

(1) 委託を受けた保証人の求償権(民法第459条・第460条関係)民法第459条及び第460条の規律を基本的に維持した上で,次のように改めるものとする。

ア 民法第459条第1項の規律に付け加えて,保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において,主たる債務の期限が到来する前に,弁済その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは,主たる債務者は,主たる債務の期限が到来した後に,債務が消滅した当時に利益を受けた限度で,同項による求償に応ずれば足りるものとする。

イ 民法第460条第3号を削除するものとする。

(概要)
本文アは,委託を受けた保証人が主たる債務の期限の到来前に弁済等をした場合の求償権について,そのような弁済等は委託の趣旨に反するものと評価できることから,委託を受けない保証人の求償権(民法第462条第1項)と同様の規律とするものである。

本文イは,民法第460条第3号の事前求償権の発生事由(債務の弁済期が不確定で,かつ,その最長期をも確定することができない場合において,保証契約の後10年を経過したとき)には,そもそも主たる債務の額すら不明であって事前求償になじむ場面ではないという問題点が指摘されていることから,同号を削除するものである。

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債権法の改正・補足説明(その百二の二)

(補足説明)

1 主債務者が主張することのできる抗弁(本文(1))

一般に,保証人は,保証債務の付従性に基づき,主債務者の有する抗弁を主張することができるとされています(最判昭和40年9月21日参照)。

したがって,例えば,主債務者が,契約の無効の抗弁(主債務の不発生),弁済・相殺の抗弁(主債務の消滅),同時履行の抗弁(主債務の履行請求の阻止)などの抗弁を有する場合には,保証人も,債権者に対してそれらの抗弁を主張することができます。

つまり,主債務者が相殺権,取消権,解除権を行使した場合には,保証人は主債務者の主張することのできる相殺の抗弁(主債務の消滅),契約取消し・契約解除の抗弁(主債務の不発生あるいは消滅)を主張することができます。

ただし,上記各抗弁のうち,主債務の不発生や消滅に関する抗弁については,主債務者の主張することのできる抗弁を保証人が主張するというより,むしろ,保証債務の成立の付従性や消滅の付従性に基づいて,保証人自身が自己の有する抗弁として主張することができると理解するほうが自然であるとも言い得ます。

もっとも,他方で,主債務の履行請求の阻止に関する同時履行の抗弁などについては,保証人自身の有する抗弁とは言い難いようにも思われます。

これらを踏まえれば,「主債務者が債権者に対して主張することのできる抗弁」を保証人も債権者に対して主張することができると規定しておくことには,十分意味があると考えられます。

また,会社法第581条第1項は,社員が持分会社の債務を弁済する責任を負う場合において,その社員は,持分会社が主張することのできる抗弁をもって,持分会社の債権者に対抗することができると規定していますから,一般に,持分会社が同条第2項の相殺権,取消権,解除権を行使した場合には,その社員は,同条第1項に基づき,持分会社の主張することのできる抗弁を債権者に対して主張することができると解されています。

そこで,本文(1)では,以上の理解に基づき,会社法第581条第1項を参考として,保証人は,主たる債務者が主張することができる抗弁をもって債権者に対抗することができるものとしています。

2 主債務者が行使することのできる相殺権,取消権又は解除権(本文(2))

(1) 民法第457条第2項は,保証人は主債務者の反対債権による相殺をもって債権者に対抗することができると規定しています。

この規定については,保証人が主債務者の有する反対債権を自働債権として相殺の意思表示をすることができることを定めたものとする見解があり,下級審裁判例にも,この規定の類推適用により,物上保証人が,抵当権者に対し,被担保債権の債務者が抵当権者に対して有する反対債権を自働債権として相殺の意思表示をすることができるとしたものがあります(大阪高判昭和56年6月23日)。

しかし,通説は,他人である主債務者の有する反対債権の処分権限まで保証人に与えるのは過大であるとして,保証人は,主債務が相殺によって消滅する限度で保証債務の履行を拒絶することができるにとどまると解していす。

ところで,持分会社の社員は,一定の場合に持分会社の債務を弁済する責任を負うという点で,保証人に類似した立場に置かれていますが(会社法第580条参照),同法第581条第2項は,社員が持分会社の債務を弁済する責任を負う場合において,持分会社がその債権者に対して相殺権を有するときは,社員は債権者に対して債務の
履行を拒むことができると規定しています。

一般に,この規定は,上記の通説の立場を前提としたものであるとされています。

(2) 現行民法は,主債務者が債権者に対して相殺権を有する場合についての規定を置くのみであり,主債務者が取消権,解除権等を有する場合の処理は,解釈に委ねられていますが,一般に,主債務者が取消権又は解除権を有する場合には,保証人は,取消権又は解除権が行使されるかどうかが確定するまでの間,保証債務の履行を拒絶することができると解されています。

また,前述のとおり,会社法第581条第2項は,社員が持分会社の債務を弁済する責任を負う場合において,持分会社が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは,社員は債権者に対して債務の履行を拒むことができると規定しています。

(3) そこで,本文(2)では,以上の理解に基づき,会社法第581条第2項を参考として,主たる債務者が債権者に対して相殺権,取消権又は解除権を有するときは,これらの権利の行使によって主たる債務者が主たる債務の履行を免れる限度で,保証人は,債権者に対して債務の履行を拒むことができるものとしています。

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債権法の改正・補足説明(その百二の一)

2 主たる債務者の有する抗弁(民法第457条第2項関係)

民法第457条第2項の規律を次のように改めるものとする。

(1) 保証人は,主たる債務者が主張することができる抗弁をもって債権者に対抗することができるものとする。

(2) 主たる債務者が債権者に対して相殺権,取消権又は解除権を有するときは,これらの権利の行使によって主たる債務者が主たる債務の履行を免れる限度で,保証人は,債権者に対して債務の履行を拒むことができるものとする。

(概要)

主たる債務者が債権者に対して抗弁権を有している場合について,主たる債務者の相殺のみを定めている民法第457条第2項を改め,類似の状況を規律する会社法第581条の表現を参考にして,規律の明確化を図るものである。

本文(1)は,主たる債務者が債権者に対して抗弁権を有している場合全般を対象として,一般的な理解(最判昭和40年9月21日民集19巻6号1542頁参照)を明文化するものであり,会社法第581条第1項に相当する。

本文(2)は,主たる債務者が債権者に対して相殺権を有する場合のほか,取消権又は解除権を有する場合に関する近時の一般的な理解を明文化するものであり,会社法第581条第2項に相当する。

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債権法の改正・補足説明(その百一)

第17 保証債務

1 保証債務の付従性(民法第448条関係)

保証債務の付従性に関する民法第448条の規律を維持した上で,新たに次のような規律を付け加えるものとする。
(1) 主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に減縮された場合には,保証人の負担は,主たる債務の限度に減縮されるものとする。

(2) 主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に加重された場合には,保証人の負担は,加重されないものとする。

(概要)

本文(1)は,民法第448条の解釈として,保証契約の締結後に主債務の目的又は態様が減縮された場合には,保証人の負担もそれに応じて減縮されるとされている(大連判明治37年12月13日民録10輯1591頁参照)ことから,これを明文化するものである。

本文(2)は,保証契約の締結後に主債務の目的又は態様が加重された場合の処理について,一般的な理解を明文化するものである。

(補足説明)

1 主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に減縮された場合(本文(1))

一般に,保証債務には,付従性(主債務を担保する目的のために存するという性質),随伴性(主債務が移転するときはこれと共に移転するという性質),補充性(主債務が履行されないときに初めて履行しなければならなくなるという性質)等があるとされています。

また,付従性には,成立における付従性(主債務がなければ成立しないという性質),内容における付従性(主債務より重くなることはないという性質),消滅における付従性(主債務が消滅すれば消滅するという性質)があるとされています。

このうちの内容における付従性について,民法第448条は,主債務の内容(債務の目的又は態様)が主債務よりも重い場合には,保証債務の内容も主債務の限度に減縮されることを規定しています。

また,この規定の解釈として,保証契約の締結後に主債務の内容が減縮された場合には,保証債務の内容もそれに応じて減縮されるとされています。

例えば,主債務の弁済期が延期された場合には,その効力は保証債務にも及ぶと解されています(大連判明治37年12月13日民録10輯1591頁)。

そこで,本文(1)では,これを明文化して,主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に減縮された場合には,保証人の負担は,主たる債務の限度に減縮されるものとしています。

2 主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に加重された場合(本文(2))以上に対し,保証契約の締結後に主債務の内容が加重された場合の処理については,明文の規定が存在しませんが,付従性の趣旨に照らせば,保証契約の締結後に主債務の内容が加重された場合であっても,保証債務にその影響は及ばないと解されています。

そこで,本文(2)では,これを明文化して,主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に加重された場合であっても,保証人の負担は加重されないものとしています。

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債権法の改正・補足説明(その百)

9 不可分債権

(1) 民法第428条の規律を改め,数人が不可分債権を有するときは,その性質に反しない限り,連帯債権に関する規定を準用するものとする。

(2) 民法第431条のうち不可分債権に関する規律に付け加えて,不可分債権の内容がその性質上可分となったときは,当事者の合意によって,これを連帯債権とすることができるものとする。

(概要)

本文(1)は,連帯債権と不可分債権とは,債権の内容が性質上可分であるか不可分であるかによって区別されることを前提に(前記6),不可分債権について,その性質に反しない限り,連帯債権に関する規定を準用するとするものである。

本文(2)は,不可分債権の債務者及び各債権者は,不可分債権の目的が不可分給付から可分給付となったときに,当事者の合意によって当該債権は連帯債権となることを定めることができるとするものである。

これは,不可分債権が可分債権となったときは,各債権者は自己が権利を有する部分についてのみ履行を請求することができると規定する民法第431条について,当事者の意思に反する場合があるという問題点が指摘されていることによる。

(補足説明)

1 連帯債権の規定の準用(本文(1))

本文(1)は,連帯債権と不可分債権とは,債権の内容が性質上可分であるか不可分であるかによって区別されることを前提に(前記6),不可分債権について,その性質に反しない限り,連帯債権に関する規定を準用するとしています。

2 不可分債権の内容がその性質上可分となったとき(本文(2))

民法第431条は,不可分債権が可分債権となったときは,各債権者は自己が権利を有する部分についてのみ履行を請求することができると規定しています。

この規定の趣旨については,不可分債権とは給付を分割することができない場合に認められる特別の概念ですから,給付を分割することができるようになった場合には分割債権となるのが当然であるという説明がされています。

しかし,債権の目的が不可分給付から可分給付となった場合に必ず分割債権になるというのでは,当事者の意思に反する場合があります。

また,不可分債務について,その目的が不可分給付から可分給付となったときに当該債務は連帯債務となることを当事者の合意によって定めることができるとするのであれば(前記5(2)),不可分債権についても,同様の取扱いを認めるべきであると考えられます。

そこで,本文(2)では,不可分債権の内容がその性質上可分となったときは,当事者の合意によって,これを連帯債権とすることができるものとしています。

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債権法の改正・補足説明(その九十九の二)

(補足説明)

1 連帯債権の対外的関係(民法第428条参照)(本文(1))民法第428条は,不可分債権に関して,数人の債権者は,すべての債権者のために履行を請求することができ,その債務者は,すべての債権者のために各債権者に対して履行をすることができると規定していますが,連帯債権と不可分債権との間には内容が性質上可分か不可分かの違いしかないことになれば(前記6参照),この規律はそのまま連帯債権にも妥当することになります。

そこで,本文(1)では,不可分債権に関する民法第428条と同趣旨の規律を連帯債権について設けて,連帯債権を有する数人の債権者は,すべての債権者のために履行を請求することができ,その債務者は,すべての債権者のために各債権者に対して履行をすることができるものとしています。

2 連帯債権者の一人について生じた事由の効力等(民法第429条参照)(本文(2),(3))(1) 民法第429条第1項は,不可分債権者の一人と債務者との間に更改又は免除があった場合には,他の不可分債権者は債務者に対して債務の全部の履行を請求することはできるものの,更改又は免除により債権を失った不可分債権者に分与すべき利益を債務者に対して償還しなければならないと規定しています。

例えば,A,Bの2名の不可分債権者が債務者に対して時価100万円の自動車の引渡しを求める不可分債権を
有しており,A,Bの権利割合がそれぞれ平等である場合において,Aが債務者に対して免除の意思表示をしたときは,Bは債務者に対して当該自動車の引渡しを請求することができますが,免除の意思表示により債権を失ったAに分与すべき利益を債務者に対して償還しなければなりません。

仮に同項が存在しなかったとすると,上記の例では,Bは債務者に対して当該自動車の引渡しを請求することができるとしても,Aに対してその利益を分与することになり,また,Aは自ら免除をした債務者に対してBから分与を受けた利益を不当利得として返還することになります。

同項の存在意義は,このような求償の循環を回避することにあるとされています。

また,判例(最判昭和36年3月2日)は,不可分債権者の一人と債務者との間の混同についても,民法第429条第1項が類推適用されるとしています。

以上の不可分債権に関する規律は,そのまま連帯債権にも妥当することになるので,本文(2)では,民法第429条及び上記最判昭和36年3月2日が示したルールと同趣旨の規律を連帯債権について設けて,連帯債権者の一人と債務者との間に更改,免除又は混同があった場合においても,他の連帯債権者は,債務の全部の履行を請求する
ことができますが,更改,免除又は混同により債権を失った連帯債権者に分与すべき利益を債務者に対して償還しなければならないものとしています。

(2) 民法第429条第2項は,同条第1項で掲げた場合のほか,不可分債権者の一人の行為又は一人について生じた事由は,他の不可分債権者に対してその効力を生じないと規定しています。

この規律もまた,そのまま連帯債権に妥当することになるので,本文(3)では,本文(2)の場合のほか,連帯債権者の一人の行為又は一人について生じた事由は,他の連帯債権者に対してその効力を生じないものとしています。

3 備考

この中間試案では,連帯債務者の一人について生じた事由の効力等に関しては,抜本的に見直すものとしていますが(前記3),連帯債権者(不可分債権者)の一人について生じた事由の効力等に関しては,現行法下のルールを維持するものとしています。

これは,部会の審議において,債務者が複数の場合については現行法の問題点が多く指摘されたのに対し,債権者が複数の場合についてはそのような特段の問題点の指摘がなかったことによりますが,複数の債権者と対峙することになる一人の債務者の利益への配慮を反映した扱いと見ることができます。

この結果として,連帯債務者の一人について生じた事由の効力等に関するルールと連帯債権者の一人について生じた事由の効力等に関するルールとが,必ずしも相互に対応するものとはなっていません。

例えば,連帯債務に関する前記3(1)では,連帯債務者の一人に対する履行の請求は,当事者間に別段の合意がある場合を除き,他の連帯債務者に対してその効力を生じないものとして,請求を原則として相対的効力事由に位置づけているのに,連帯債権に関する本文(1)では,連帯債権者はすべての債権者のために履行を請求することができるものとして,請求を絶対的効力事由に位置づけています。

今後の審議においては,連帯債務者の一人について生じた事由の効力等に関するルールと連帯債権者の一人について生じた事由の効力等に関するルールとの対応関係にも留意した検討をする必要があります。

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債権法の改正・補足説明(その九十九の一)

8 連帯債権

連帯債権に関する規定を新設し,次のような規律を設けるものとする。

(1) 連帯債権を有する数人の債権者は,すべての債権者のために履行を請求することができ,その債務者は,すべての債権者のために各債権者に対して履行をすることができるものとする。

(2) 連帯債権者の一人と債務者との間に更改,免除又は混同があった場合においても,他の連帯債権者は,債務の全部の履行を請求することができるものとする。
この場合に,その一人の連帯債権者がその権利を失わなければ分与される利益を債務者に償還しなければならないものとする。

(3) 上記(2)の場合のほか,連帯債権者の一人の行為又は一人について生じた事由は,他の連帯債権者に対してその効力を生じないものとする。

(概要)

本文(1)は,不可分債権に関する民法第428条と同趣旨の規律を連帯債権について設けるものである。

本文(2)は,不可分債権者の一人と債務者との間に更改又は免除があった場合に関する民法第429条第1項と同趣旨の規律を連帯債権について設けるものである。

もっとも,同項は,不可分債権者の一人と債務者との間に混同があった場合にも類推適用されると解されている(最判昭和36年3月2日民集15巻3号337頁参照)ので,これを反映させている。

本文(3)は,民法第429条第2項と同趣旨の規律を連帯債権について設けるものである。

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債権法の改正・補足説明(その九十八)

7 分割債権(民法第427条関係)

分割債権を有する数人の債権者は,当事者間に別段の合意がないときは,それぞれ等しい割合で権利を有するものとする。

(概要)

民法第427条のうち分割債権に関する規律を維持するものである。

(補足説明)

民法第427条は,「数人の債権者又は債務者がある場合において」との文言から始まっており,分割債権に関する規律と分割債務に関する規律とが区別されずに規定されていて,分かりにくくなっています。

そこで,分割債権に関する規律と分割債務に関する規律とを書き分けることとし,本文では,分割債権に関する規律を取り上げています(分割債務に関する規律は,前記2で取り上げました。)。

内容的には,民法第427条の規律を維持しています。

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債権法の改正・補足説明(その九十七)

6 債権者が複数の場合

(1) 同一の債権について数人の債権者がある場合において,当該債権の内容がその性質上可分であるときは,各債権者は,分割債権を有するものとする。

ただし,法令又は法律行為の定めがある場合には,各債権者は,連帯債権を有するものとする。

(2) 同一の債権について数人の債権者がある場合において,当該債権の内容がその性質上不可分であるときは,各債権者は,不可分債権を有するものとする。

(概要)

同一の債権について複数の債権者がある場合に関し,分割債権(民法第427条)と不可分債権(同法第428条)に解釈によって認められている連帯債権を加えた3つの類型があることを踏まえ,同一の債務について数人の債務者がいる場合(前記1)と同様に,分類を明確化する規定を設けるものである。

本文(1)は,債権の内容が性質上可分である場合について,分割主義(民法第427条)を原則とした上で,その例外として,法令又は法律行為の定めによって連帯債権が成立するものとしている。

本文(2)は,債権の内容が性質上不可分である場合には,各債権者は,専ら不可分債権を有するものとしている。

これにより,連帯債権と不可分債権とは,内容が性質上可分か不可分かによって区別されることになる。

民法第428条は,内容が性質上可分であっても,当事者の意思表示によって不可分債権にすることができると定めているが,本文は,これを連帯債権に分類するものと改めている。

(補足説明)

1 連帯債権という概念の明文化

現行法は,同一の債権について複数の債権者がある場合として,分割債権(民法第427条)と不可分債権(同法第428条,第429条,第431条)の規定を置くのみですが,下級審裁判例(東京地判平成14年12月27日等参照)や学説には,連帯債権という概念を認めるものがあります。

そこでは,連帯債権とは,複数の債権者が債務者に対し,同一の可分給付について有する債権であって,各債権者はそれぞれ独立して全部の給付を請求する権利を有し,そのうちの一人の債権者がその給付を受領すれば全ての債権者の債権が消滅するものだとされています。

また,連帯債権の例としては,復代理人に対する本人及び代理人の権利(民法第107条第2項),転借人に対する賃貸人及び転貸人の権利(同法第613条)などが挙げられています。

そこで,本文では,同一の債権について複数の債権者がある場合として,分割債権と不可分債権に連帯債権を加えた3つの類型についての規律を設けた上で,同一の債務について複数の債務者がある場合との対応関係を考慮しながら,その分類を再編成するものとしています。

2 債務の内容が性質上可分である場合(本文(1))

具体的な再編成の在り方としては,同一の債務について複数の債務者がある場合と同様に,債権の内容が性質上可分であるか不可分であるかという基準を導入して,まず,債権の内容が性質上可分であるときには,各債権者は,原則として分割債権を有しますが(本文(1)第1文),法令又は法律行為の定めがある場合には,例外的に連帯債権を有するものとしています(本文(1)第2文)。

3 債務の内容が性質上不可分である場合(本文(2))

次に,債権の内容が性質上不可分であるときには,各債権者は,専ら不可分債権を有するものとしています(本文(2))。

現行法は,内容が性質上可分であっても当事者の意思表示によって不可分債権にすることができるとしています(同法第428条)が,本文の分類の下では,このような場合は不可分債権ではなく連帯債権として取り扱われることになります。

本文のような再編成により,連帯債権と不可分債権とは,内容が性質上可分か不可分かによって区別されることになります。

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債権法の改正・補足説明(その九十六)

5 不可分債務

(1) 民法第430条の規律を改め,数人が不可分債務を負担するときは,その性質に反しない限り,連帯債務に関する規定を準用するものとする。

(2) 民法第431条のうち不可分債務に関する規律に付け加えて,不可分債務の内容がその性質上可分となったときは,当事者の合意によって,これを連帯債務とすることができるものとする。

(概要)

本文(1)は,連帯債務者の一人について生じた事由の効力が相対的効力を原則とするものに改められる場合には(前記2参照),不可分債務と連帯債務との間の効果の面での差異が解消されることから,不可分債務について,その性質に反しない限り,連帯債務に関する規定を準用するとするものである。

本文(2)は,不可分債務の債権者及び各債務者は,不可分債務の内容が不可分給付から可分給付となったときに,当事者の合意によって当該債務が連帯債務となることを定めることができるとするものである。

これは,不可分債務が可分債務となったときは,各債務者はその負担部分についてのみ履行の責任を負うと規定する民法第431条について,不可分債務の担保的効力を重視していた債権者の意思に反する場合があるという問題点が指摘されていることによる。

(補足説明)

1 連帯債務の規定の準用(本文(1))

民法第430条は,不可分債務について,絶対的効力事由に関する規定(同法第434条から第440条まで)を除いて連帯債務の規定を準用すると規定しています。

逆に言えば,連帯債務と不可分債務とは,絶対的効力事由に関する規定の適用の有無に違い設けられているわけです。

これに対し,前記3(連帯債務者の一人について生じた事由の効力等)における検討の結果として,連帯債務における絶対的効力事由が廃止される場合には,連帯債務と不可分債務との間の効果の面での差異が解消されることになります。

そこで,本文(1)では,不可分債務について,その性質に反しない限り,連帯債務に関する規定を準用するとするものとしています。

2 不可分債務の内容がその性質上可分となったとき(本文(2))

民法第431条は,不可分債務が可分債務となったときは,各債務者はその負担部分についてのみ履行の責任を負うと規定する。この規定の趣旨については,不可分債務とは給付を分割することができない場合に認められる特別の概念ですから,給付を分割することができるようになった場合には分割債務となるのが当然だという説明がされています。

しかし,債権の目的が不可分給付から可分給付となった場合に必ず分割債務となるというのでは,当事者の意思(特に,不可分債務の担保的効力を重視していた債権者の意思)に反する場合があります。

そこで,本文(2)では,不可分債務の内容が不可分給付から可分給付となったときに,当事者の合意によってこれを連帯債務とすることができるものとしています。

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債権法の改正・補足説明(その九十五)

(4) 連帯の免除をした場合の債権者の負担(民法第445条関係)

民法第445条を削除するものとする。

(概要)

連帯債務者の一人が連帯の免除を得た場合に,他の連帯債務者の中に無資力である者がいるときは,その無資力の者が弁済をすることのできない部分のうち連帯の免除を得た者が負担すべき部分は,債権者が負担すると規定する民法第445条について,連帯の免除をした債権者の通常の意思に反するという一般的な理解に基づき,これを削除するものである。

(補足説明)

民法第445条は,連帯債務者の一人が連帯の免除を得た場合において,他の連帯債務者の中に無資力者がいるときは,その無資力者が弁済をすることのできない部分のうち,連帯の免除を得た者が負担すべき部分は,債権者がこれを負担することを規定しています。

連帯の免除とは,債権者が連帯債務者に対し,債務の額をその負担部分に限定して,それ以上は請求しないとする意思表示のことをいいます(特殊な一部免除であると説明されています。)。

債権者が連帯債務者の一人に対して連帯の免除をすると,これを受けた連帯債務者だけが自己の負担部分に応じた額の分割債務を負うことになり,その他の連帯債務者は依然として全額について連帯債務を負うことになります。

そのため,連帯債務者の一人に対する連帯の免除は,その性質上当然に相対的効力事由であると考えられます。民法第445条の趣旨を具体例に即して述べますと,次のとおりです。

A,B,Cの3名の連帯債務者が債権者に対して30万円の連帯債務を負い,その負担部分がそれぞれ平等である場合において,債権者がCに対して連帯の免除をした後に,Aが債権者に対して30万円を弁済したとします。

このとき,AがBとCに対して10万円ずつの求償をしようとしたものの,Bが無資力者であった場合には,民法第444条前段によって,AはCに対して5万円の追加分担の請求をすることができることになります。

しかし,このようなCに対する追加分担の請求を認めてしまうと,Cが連帯の免除を受けた意味がなくなります。そこで,Aは,Cに対してではなく,債権者に対して5万円の支払を求めることができます。

しかし,この民法第445条の規定に対しては,連帯の免除をした債権者としては,通常,連帯債務者の内部的な分担についてまで引き受ける意思は有していないという批判があり,同条を削除すべきであるとの見解が主張されています。

そこで,本文では,以上の理解を前提として,民法第445条を削除するものとしています。

なお,同条を削除したとしても,連帯の免除という法律行為そのものが否定されるわけではないので,上記の例では,連帯の免除を受けたCは,同法第444条前段に定められたとおり,Aからの5万円の追加分担の請求に応じなければならないことになります。

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債権法の改正・補足説明(その九十四)

(3) 負担部分を有する連帯債務者が全て無資力者である場合の求償関係(民法第444条本文関係)

民法第444条本文の規律に付け加えて,負担部分を有する全ての連帯債務者が償還をする資力を有しない場合において,負担部分を有しない連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは,
その連帯債務者は,負担部分を有しない他の連帯債務者のうちの資力がある者に対し,平等の割合で分割してその償還を請求することができるものとする。

(概要)

負担部分を有する全ての連帯債務者が無資力である場合において,負担部分を有しない複数の連帯債務者のうちの一人が弁済等をしたときは,求償者と他の有資力者との間で平等に負担をすべきであるとする判例法理(大判大正3年10月13日民録20輯751頁)を明文化するものである。

(補足説明)

民法第444条前段は,連帯債務者の中に償還をする資力のない者があるときは,その償還をすることができない部分は,求償者と他の資力のある者との間で,各自の負担部分に応じて分割して負担すると規定していますが,負担部分を有する有資力者がいない場合に負担部分を有しない有資力者に対して求償をすることができるのかどうか,仮に,負担部分を有しない有資力者に対して求償をすることができるとして,負担部分を有する有資力者が弁済等をしたときであっても,自己以外に負担部分を有する有資力者がいないときは,負担部分を有しない有資力者に対して求償をすることができるのかどうかについては,必ずしも明確ではありません。

この点に関して,判例(大判大正3年10月13日)は,負担部分を有する連帯債務者が全て無資力者である場合において,負担部分を有しない複数の連帯債務者のうちの一人が弁済等をしたときは,求償者と他の有資力者との間で平等に負担をすべきであるとしています。

この判例の趣旨及び民法第444条前段の文理に照らせば,負担部分を有する有資力者がいない場合には,負担部分を有しない有資力者に対して求償をすることができる一方で,負担部分を有する有資力者が弁済等をした場合には,自己以外に負担部分を有する有資力者がいないときであっても,負担部分を有しない有資力者に対して求償をすることはできないと考えることができます。

これらの帰結は,負担部分を有しない有資力者に対して求償をすることができるのは,弁済者が負担部分を有しない連帯債務者であって,かつ,負担部分を有する有資力者が一人もいないという例外的な場合に限られるべきであるとの考え方によるものです。

そこで,本文では,以上の理解を前提として,負担部分を有する連帯債務者が全て無資力者である場合において,負担部分を有しない連帯債務者の一人が弁済等をしたときは,その弁済等をした連帯債務者は,負担部分を有しない他の連帯債務者のうちの有資力者に対し,平等の負担割合による求償をすることができるものとしています。

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債権法の改正・補足説明(その九十三の二)

(補足説明)

1 事前の通知制度の廃止(本文第1文)

連帯債務者間の事前の通知制度について定めた民法第443条第1項前段は,「連帯債務者の一人が債権者から履行の請求を受けたことを他の連帯債務者に通知しないで弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において,他の連帯債務者は,債権者に対抗することができる事由を有していたときは,その負担部分について,その事由をもってその免責を得た連帯債務者に対抗することができる。」と規定しています。

この規定の趣旨は,連帯債務者の一人が弁済等をしようとする場合には事前に他の連帯債務者に対して通知をしなければならないとすることによって,債権者に対抗できる事由を有している他の連帯債務者にその事由を主張する機会を与えようとすることにあるとされています。

この規定によれば,例えば,AとBが債権者に対して連帯債務を負う一方で,Aが債権者に対して反対債権を有している場合には,債権者から履行の請求を受けたBがAに対する事前の通知をせずに債権者に対して弁済をしたとしても,AはBからの求償を拒むことができます。

もっとも,このとき,Aが,債権者に対する債務を免れるとともにBからの求償を拒むことができる一方で,債権者に対する反対債権を行使することもできるのでは,公平を欠くことになります。

そのため,民法第443条第1項後段は,「この場合において,相殺をもってその免責を得た連帯債務者に対抗したときは,過失のある連帯債務者は,債権者に対し,相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。」と規定しています。

この規定は,Aの上記反対債権がBに移転することを定めたものと解されています。

しかし,民法第443条第1項に対しては,連帯債務者は,履行期が到来すれば直ちに弁済をしなければならない立場にあるから,その弁済を遅滞しつつ他の連帯債務者に対する事前の通知をせざるを得ないような義務を課すのは相当でないという批判があります。

また,連帯債務者の一人は,他の連帯債務者が債権者に対抗することのできる事由を有していたとしても,その事由を主張する機会を与える義務を負う筋合いにはないとの批判もあります。

そこで,本文第1文では,民法第443条第1項を削除し,事前の通知制度を廃止するものとしています。

2 事後の通知制度の見直し(本文第2文)

連帯債務者間の事後の通知制度について定めた民法第443条第2項は,「連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たことを他の連帯債務者に通知することを怠ったため,他の連帯債務者が善意で弁済をし,その他有償の行為をもって免責を得たときは,その免責を得た連帯債務者は,自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができる。」と規定しています。

この規定の趣旨は,連帯債務者の一人が弁済等をした場合には他の連帯債務者に対して事後の通知をしなければならないとすることによって,他の連帯債務者が二重に弁済等をすることを防ぐことにあるとされています。

そして,現行法の下では,ある連帯債務について相次いで弁済等をした者がいる場合において,先に弁済等をした連帯債務者が事後の通知をせず,かつ,後に弁済等をした連帯債務者も事前の通知をしなかったときは,後に弁済等をした連帯債務者は,同条第1項の事前の通知を怠った以上,同条第2項による保護を受けることはできず,自己の弁済等を有効とみなすことができないと解されています(最判昭和57年12月17日参照)。

この場合において,債権者は,両連帯債務者から二重の弁済等を受けたことになりますが,後に弁済等をした連帯債務者は,自己の弁済等を有効とみなすことができないため,債権者に対して不当利得返還請求をすることになります。

しかし,事前の通知制度を廃止してしまうと(本文第1文),以上の解釈,すなわち,後に弁済等をした連帯債務者が事前の通知を怠った場合には民法第443条第2項の保護を受けることができないとの解釈を採ることができなくなるため,後に弁済等をした連帯債務者による弁済等が常に有効とみなされることにもなりかねません。

このような帰結については,先に弁済等をした連帯債務者が事後の通知を怠ったことによるものであって,やむを得ないとの見方が一方ではあり得ますが,他方で,先に弁済等をした連帯債務者も後に弁済等をした連帯債務者もいずれも事後の通知を怠ったような場合にまで,後に弁済等をした連帯債務者による弁済等が常に有効とみなされるのは,遅い者勝ちともいうべき事態であって,好ましくないとの見方もあり得ます。

そこで,本文第2文では,先に弁済等をした連帯債務者の弁済等が有効とされるのが原則であることを前提にしつつ,先に弁済等をした連帯債務者が,他に連帯債務者がいることを知りながら,これを他の連帯債務者に通知することを怠っている間に,他の連帯債務者が善意で弁済その他共同の免責のための有償の行為をし,これを先に共同の免責を得た連帯債務者に通知したときは,当該他の連帯債務者は,自己の弁済その他共同の免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができるものとしています。

このように先に弁済等をした連帯債務者が他に連帯債務者がいることを知っていた場合に場面を限定しているのは,他の連帯債務者の存在を認識することができなかった場合にまで通知を要求するのは酷だからです。

3 備考

部会の審議では,民法第443条の規律を維持した上で,上記最判昭和57年12月17日が示したルールを明文化するべきであるという意見も示されました。

この考え方は,現行法を維持する考え方のヴァリエーションに過ぎないことから,(注)で取り上げることまではしていませんが,今後の検討対象にはなり得るものです。

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債権法の改正・補足説明(その九十三の一)

(2) 連帯債務者間の通知義務(民法第443条関係)

民法第443条第1項を削除し,同条第2項の規律を次のように改めるものとする。

連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において,その連帯債務者が,他に連帯債務者がいることを知りながら,これを他の連帯債務者に通知することを怠っている間に,他の連帯債務
者が善意で弁済その他共同の免責のための有償の行為をし,これを先に共同の免責を得た連帯債務者に通知したときは,当該他の連帯債務者は,自己の弁済その他共同の免責のためにした行為を有効であったものとみなすことが
できるものとする。

(概要)

まず,連帯債務者間の事前の通知義務について定めた民法第443条第1項について,履行の請求を受けた連帯債務者に対して,その履行を遅滞させてまで他の連帯債務者に事前の通知をする義務を課すのは相当でないという問題点の指摘を踏まえ,これを削除することとしている。

その上で,事後の通知義務に関する同条第2項の規律を改め,先に弁済等をした連帯債務者が他の連帯債務者に対して事後の通知をする前に,当該他の連帯債務者が弁済等をし,これを先に弁済等をした連帯債務者に対して通知した場合には,後に弁済等をした連帯債務者は,自己の弁済等を有効とみなすことができるものとしている。

これは,同条第1項を削除した上で同条第2項の規律をそのまま維持した場合には,先に弁済等をした連帯債務者と後に弁済等をした連帯債務者のいずれもが事後の通知を怠ったときに,後に弁済等をした連帯債務者の弁済等が有効とみなされるという不当な結果が生じ得ることによる。

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債権法の改正・補足説明(その九十二の二)

(補足説明)

1 一部弁済をした場合の求償関係(本文ア)

民法第442条第1項は,「連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たとき」の求償関係について規定していますが,連帯債務者の一人が一部弁済をした場合の求償関係は明らかではなく,取り分け求償権の発生のために自己の負担部分を超える出えんをする必要があるかどうかについては議論があります。

判例(大判大正6年5月3日)は,連帯債務者の一人が自己の負担部分に満たない額の弁済をした場合であっても,他の連帯債務者に対して各自の負担部分の割合に応じた求償をすることができるとしています。

これによれば,例えば,A,B,Cの3名の連帯債務者が債権者に対して30万円の連帯債務を負い,その負担部分がそれぞれ平等である場合において,Aが債権者に対して6万円の一部弁済をしたとすると,AはBとCに対して2万円ずつの求償をすることができることになります。

しかし,このような帰結に対しては,負担部分を各自の固有の義務であると解する立場から,自己の負担部分を超える出えんをして初めて他の連帯債務者に対して求償することができると解すべきであるという批判があります。

また,判例(最判昭和63年7月1日)も,不真正連帯債務に関しては,自己の負担部分を超える出えんをして初めて他の債務者に対して求償をすることができるとしています。

そこで,本文アでは,連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,自己の負担部分を超える部分に限り,他の連帯債務者に対し,各自の負担部分について求償権を有するものとしています。

これに対し,上記大判大正6年5月3日が示したルールを明文化して,他の連帯債務者に対する求償権の発生のために自己の負担部分を超える出えんを必要としないものとする考え方がありますので,これを(注)で取り上げています。

なお,この中間試案では差し当たり「出えん」という文言を用いていますが,この文言は平成16年の民法現代語化の際に他の文言に置き換えられているので,条文化の際には,適当な用語に改める必要があります。

2 代物弁済又は更改後の債務の履行をした場合の求償関係(本文イ)連帯債務者の一人が代物弁済をしたり,更改後の債務の履行をしたりした場合には,当該連帯債務者が出えんした額と共同の免責を得た額とが必ずしも一致しないことから,本文アだけでは,どの範囲で求償することができるのかが明らかにはなりません。

これについて,一般には,代物弁済をし,又は更改後の債務の履行をした連帯債務者は,その出えん額が共同免責額以上である場合には,その共同免責額を基準として他の連帯債務者に対して求償をすることができるにとどまるのに対し,その出えん額が共同免責額に満たない場合には,その出えん額を基準として他の連帯債務者に対して求償をすることができるとされています。

そこで,本文イでは,この一般的な理解を明文化して,連帯債務者の一人が代物弁済をし,又は更改後の債務の履行をして本文アの共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,出えんした額のうち自己の負担部分を超える部分に限り,他の連帯債務者に対し,各自の負担部分について求償権を有するものとしています。

「本文アの共同の免責を得たときは」という言い方をしているのは,その出えん額が共同免責額以上である場合の求償の基準が出えん額ではなく共同免責額となることを示すためです。

本文イによれば,例えば,A,B,Cの3名の連帯債務者が債権者に対して30万円の連帯債務を負い,その負担部分がそれぞれ平等である場合において,Aが債権者との間でAの債務全額の弁済に代えてA所有の自転車を債権者に引き渡す旨の代物弁済の合意をした後,Aが債権者に対して上記代物弁済合意に基づき当該自転車を引き渡したときは,当該自転車の価額が共同免責額(30万円)以上であれば,当該自転車の価額が例えば60万円であったとしても,AはBとCに対して10万円ずつの求償をすることができるにとどまることになります。

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債権法の改正・補足説明(その九十二の一)

4 連帯債務者間の求償関係

(1) 連帯債務者間の求償権(民法第442条第1項関係)

民法第442条第1項の規律を次のように改めるものとする。

ア 連帯債務者の一人が弁済をし,その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,自己の負担部分を超える部分に限り,他の連帯債務者に対し,各自の負担部分について求償権を有するものとする。

イ 連帯債務者の一人が代物弁済をし,又は更改後の債務の履行をして上記アの共同の免責を得たときは,その連帯債務者は,出えんした額のうち自己の負担部分を超える部分に限り,他の連帯債務者に対し,各自の負担部分について求償権を有するものとする。

(注)他の連帯債務者に対する求償権の発生のために自己の負担部分を超える出えんを必要としないものとする考え方がある。

(概要)

本文アは,連帯債務者間の求償について規定する民法第442条の文言からは,他の連帯債務者に対する求償権の発生のために自己の負担部分を超える出えんをする必要があるかどうかが明確でないことから,これについて,判例法理(大判大正6年5月3日民録23輯863頁)と異なり,自己の負担部分を超える出えんをして初めて他の連帯債務者に対して求償をすることができるとするものである。

これは,負担部分は各自の固有の義務であるという理解に基づくものであり,不真正連帯債務者間の求償に関する判例法理(最判昭和63年7月1日民集42巻6号451頁参照)と同一の規律となる。

他方,本文イは,連帯債務者の一人が代物弁済をしたり,更改後の債務の履行をしたりした場合の求償関係について,本文アの特則を定めるものである。

このような場合には,当該連帯債務者が出えんした額と共同の免責を得た額とが必ずしも一致しないことから,本文アのみでは,どの範囲で求償することが可能であるかが判然としないからである。

以上に対し,上記判例法理のとおり,他の連帯債務者に対する求償権の発生のために自己の負担部分を超える出えんを必要としないものとする考え方があり,これを(注)で取り上げている。

なお,この中間試案では差し当たり「出えん」という文言を用いているが,この文言は平成16年の民法現代語化の際に他の文言に置き換えられているので,条文化の際には,適当な用語に改める必要がある。

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債権法の改正・補足説明(その九十一)

(3) 破産手続の開始(民法第441条関係)

民法第441条を削除するものとする。

(概要)

民法第441条は,破産法第104条があることによってその存在意義を失っていることから,これを削除するものである。

(補足説明)

民法第441条は,連帯債務者の全員又はそのうちの数人が破産手続開始の決定を受けたときは,債権者はその債権の全額について各破産財団の配当に加入することができると規定しています。

これに対し,破産法第104条第1項は,数人が各自全部の履行をする義務を負う場合において,その全員又はそのうちの数人若しくは一人について破産手続開始の決定があったときは,債権者は破産手続開始の時において有する債権の全額についてそれぞれの破産手続に参加することができると規定しています。

民法第441条と破産法第104条第1項との関係については,民法第441条は債権の全額が破産債権となる旨を規定するのに対し,破産法第104条第1項は債権の全額ではなく破産手続開始時における現存額が破産債権となる旨を規定し,これによって,民法第441条を制限するものであるとされています。

このように,民法第441条は,実際には適用されることのない条文となっています。

そこで,本文では,民法第441条を削除するものとしています。

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債権法の改正・補足説明(その九十の二)

(補足説明)

1 問題の所在

(1) 現行法は,連帯債務者の一人について生じた事由の効力は他の連帯債務者には及ばないこと(相対的効力)を原則としつつも(民法第440条),他の連帯債務者にも効力が及ぶ事由(絶対的効力事由)を多く認めています(同法第434条から第439条まで)。

連帯債務は,一人の債務者の無資力の危険を分散するという人的担保の機能を有するところ,絶対的効力事由が多いことは連帯債務の担保的効力を弱める方向に作用し,債権者の通常の意思に反するのではないかという問題が指摘されています。

そこで,本文では,連帯債務の担保的効力の観点から,現行法が定める絶対的効力
事由を見直すこととしています。

(2) ところで,法律の規定により連帯債務とされるもののうち共同不法行為者が負担する損害賠償債務(民法第719条)については,判例(最判昭和57年3月4日)・学説は,絶対的効力事由に関する一部の規定の適用がない不真正連帯債務に該当するとしています。

これは,共同不法行為者間には,必ずしも主観的な共同関係があるわけではないことから,他の連帯債務者に影響が及ぶ絶対的効力事由を認める基礎を欠くという理論的な理由のほか,被害者の利益保護の観点から連帯債
務の担保的機能を弱めることが適当ではないという実際上の理由に基づくものと解されています。

連帯債務の絶対的効力事由を見直す際には,この不真正連帯債務の取扱いも視野に入れる必要があります。

2 具体的な見直しの在り方

(1) 連帯債務者の一人との更改(民法第435条関係)

民法第435条は,連帯債務者の一人と債権者との間に更改があったときは,債権は,すべての連帯債務者の利益のために消滅すると規定しています。

例えば,A,B,Cの3名の連帯債務者が債権者に対して30万円の連帯債務を負い,その負担部分がそれぞれ平等である場合において,Aが債権者との間でAの債務をA所有の自転車を債権者に引き渡すという債務に変更する旨の更改契約を締結したとすると,これによって,Aの債務のみならず,BとCの債務も消滅することになります。

しかし,このような帰結に対しては,連帯債務者の一人との間で更改契約を締結する場合の債権者の通常の意思に反するとの批判があります。

すなわち,債権者が連帯債務者の一人との間で更改契約を締結したとしても,その更改契約に基づく債務の履行を
受けるまでは,債権者は何らの満足も得られないのですから,債権者は他の連帯債務者の債務を消滅させる意思までは有していないのが通常であるというのです。

そこで,本文アでは,連帯債務者の一人との更改には相対的効力しか認められないことを原則としつつ,当事者間の別段の合意によって絶対的効力を生じさせることは妨げないものとしています。

別段の合意をする当事者の範囲に関しては,債権者と履行の請求の効力を及ぼし合う全ての連帯債務者が想定されています。

本文アの考え方によれば,上記の例では,Aが債権者との間でAの債務をA所有の自転車を債権者に引き渡すという債務に変更する旨の更改契約を締結したとしても,BとCは債権者に対して連帯して30万円を支払わなければならないままとなります。

そして,Aが債権者に対して当該自転車を引き渡すと,Aの更改契約に基づく債務が消滅するとともにBとCの債務も消滅することになり,AはBとCに対して10万円ずつの求償をすることができることになります。

(2) 連帯債務者の一人による相殺等(民法第436条関係)

ア 民法第436条第1項関係

民法第436条第1項は,連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において,その連帯債務者が相殺を援用したときは,債権は,すべての連帯債務者の利益のために消滅すると規定しています。

債務者の一人による相殺に絶対的効力を認めていることに対しては,特に異論は見られないので,本文では,民法第436条第1項の規律を維持するものとしています。

イ 民法第436条第2項関係

民法第436条第2項は,連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合に,その連帯債務者が相殺を援用しない間は,その連帯債務者の負担部分について,他の連帯債務者が相殺を援用することができると規定しています。

そして,判例(大判昭和12年12月11日)は,この規定について,連帯債務者の一人の有する債権を用いて他の連帯債務者が相殺の意思表示をすることができることを定めたものだとしています。

例えば,A,Bの2名の連帯債務者が債権者に対して100万円の連帯債務を負い,その負担部分がそれぞれ平等である場合において,Aが債権者に対して100万円の反対債権を有していたとすると,Bは,Aの負担部分(50万円)の限度でこの反対債権を自働債権とする相殺の意思表示をすることができることになります。

その結果,Bは,残りの50万円を債権者に支払えばよいことになります。

仮に,同項が存在しないとすると,上記の例では,Bが債権者に対して100万円を支払った後,BはAに対して50万円を求償し,Aは債権者に対して反対債権の請求をすることになりますから,結局,求償の循環に類似した状況が生じることになります。

また,債権者が無資力になっていた場合には,Aは反対債権の回収をすることができないことにもなりかねません。

しかし,民法第436条第2項に対しては,連帯債務者の一人の有する債権を用いて他の連帯債務者が相殺の意思表示をすることができるとすると,連帯債務者の間で相互に他人の債権を処分することができることになって不当であるとの批判があります。

そこで,同項は,反対債権を有する連帯債務者の負担部分の限度で,他の連帯債務者が自己の債務の履行を拒絶することができることを定めたものであるとの考え方が主張されています。

本文ウでは,この考え方を採用して,連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において,その連帯債務者が相殺を援用しない間は,その連帯債務者の負担部分の限度で,他の連帯債務者は,自己の債務の履行を拒絶することができるものとしています。

(3) 連帯債務者の一人に対する免除(民法第437条関係)民法第437条は,連帯債務者の一人に対する債務の免除は,その免除を受けた連帯債務者の負担部分の限度で絶対的効力を生ずると規定しています。

例えば,A,B,Cの3名の連帯債務者が債権者に対して30万円の連帯債務を負い,その負担部分がそれぞれ平等である場合において,債権者がAに対して債務の免除をすると,その免除の効力はAの負担部分である10万円の限度でBとCにも及ぶことになり,その結果,BとCは債権者に対して連帯して20万円を支払えばよいことになります。

ここで,Bが債権者に対して20万円を支払うと,BはCに対して10万円の求償をすることができますから,結局,債権者は20万円を受け取り,BとCが10万円ずつを支払ったことになります。

仮に,同条が存在しないとすると,上記の例では,債権者がAに対して債務の免除をしても,BとCには何らの影響も及ばず,BとCは債権者に対して連帯して30万円を支払わなければならないままとなります。

そして,Bが債権者に対して30万円を支払ったとすると,BはAとCに対して10万円ずつの求償をすることが
できることになります。

ここで,AがBに対して10万円の求償に応じたとすると,Aは債権者から債務の免除を受けたにもかかわらず10万円の支出を強いられたとして,債権者に対して10万円の求償(不当利得返還請求)をすることができると考えられます。

そうすると,結局,債権者は差引き20万円を受け取り,BとCは10万円ずつを支払ったことになる(ただし,この例において,債権者は,Bに対する30万円の債権に基づいてBから30万円の支払を受けたにすぎず,法律上の原因なき利益を何ら取得していませんから,Aの債権者に対する不当利得返還請求権は発生しないとも考えられます。)。

以上のとおり,同条の存否にかかわらず,結果的には,債権者が20万円を受け取り,BとCが10万円ずつを支払うという同一の結論に落ち着くと考えられますが,同条が存在する場合のほうが,求償の循環を避けられるため,手間や費用が少なくて済むし,求償の循環の間に無資力者が現れることによる不公平を回避することもできます。

同条の存在意義は,こうした求償の循環や不公平の回避にあるとされています。

しかし,民法第437条の規定に対しては,連帯債務者の一人に対する債務の免除をする場合の債権者の通常の意思に反するとの批判があります。

すなわち,債権者が連帯債務者の一人に対して債務の免除をする場合には,債権者は単にその連帯債務者に対
しては請求しないという意思を有しているにすぎず,他の連帯債務者に対してまで債務の免除をするという意思は有していないのが通常であるというのです。

連帯債務者の一人に対する債務の免除が単にその連帯債務者に対しては請求しないという意思表示にすぎないのであれば,他の連帯債務者にまでその影響を及ぼすべきではなく,債権者は他の連帯債務者に対しては全額の請求をすることができるとすべきです。

また,債務の免除を受けた連帯債務者は,他の連帯債務者からの求償に応じたとしても,債権者に対してその分についての求償(不当利得返還請求)をすることはできないとすべきです。

なぜなら,ここで債権者に対する求償を認めてしまうと,債権者の通常の意思に反するのみならず,いたずらに求償の循環を生じさせることになる上,理論的に見ても,前述のとおり,債権者は債務の免除を受けた連帯債務者でない連帯債務者に対する債権に基づいて当該債権額に相当する金銭の支払を受けたにすぎず,法律上の原因なき利益を何ら取得していませんから,債務の免除を受けた連帯債務者の債権者に対する不当利得返還請求権は発生しないと考えられるからです。

そこで,本文アでは,連帯債務者の一人に対する免除には相対的効力しか認められないことを原則としつつ,当事者間の別段の合意によって絶対的効力を生じさせることは妨げないものとしています。

また,本文イでは,債務の免除を受けた連帯債務者は,他の連帯債務者からの求償に応じたとしても,債権者に対してその償還を請求することはできないものとしています。

なお,このように連帯債務者の一人に対する免除を相対的効力事由にしたとしても,債権者としては,ある連帯債務者に対して全部免除の意思表示をするとともに,その連帯債務者の負担部分の限度で他の連帯債務者に対しても一部免除の意思表示をすれば,現行民法第437条と同様の帰結を得ることが可能です。

(4) 連帯債務者の一人との間の混同(民法第438条関係)

民法第438条は,連帯債務者の一人との間に混同があったときは,その連帯債務者は,弁済をしたものとみなすと規定して,連帯債務者の一人との間の混同を絶対的効力事由としています。例えば,A,B,Cの3名の連帯債務者が債権者に対して30万円の連帯債務を負い,その負担部分がそれぞれ平等である場合において,債権者と
Aとの間で混同が生じると,Aが弁済をしたものとみなされ,AはBとCに対して10万円ずつの求償をすることができるにとどまることとなります。

しかし,民法第438条の規定に対しては,債権者が他の連帯債務者に対して各自の負担部分について求償することしかできなくなってしまうのは,通常の債権者の意思に反して連帯債務の担保的機能を弱めるものであるという批判があります。

そこで,本文アでは,連帯債務者の一人との間の混同には相対的効力しか認められないことを原則としつつ,当事者間の別段の合意によって絶対的効力を生じさせることは妨げないものとしています。

これによれば,上記の例では,債権者とAとの間で混同が生じたとしても,BとCはAに対して連帯して30万円を支払わなければならないままとなります。

そして,BがAに対して30万円を支払うと,BはAとCに対して10万円ずつの求償をすることができることとなります。

以上に対して,求償の循環を避ける観点から,連帯債務者の一人について生じた混同については,その連帯債務者の負担部分の限度で他の連帯債務者もその債務を免れるものとするという考え方があるので,これを(注)で取り上げています。

この(注)の考え方によれば,上記の例では,債権者とAとの間で混同が生じた場合に,Aの負担部分である10万円の限度でBとCはその債務を免れることになり,BとCはAに対して連帯して20万円を支払えばよいことになります。

そして,BがAに対して20万円を支払うと,BはCに対して10万円の求償をすることができることになります。

(5) 連帯債務者の一人についての時効の完成(民法第439条関係)

民法第439条は,連帯債務者の一人について時効が完成した場合には,その時効が完成した連帯債務者の負担部分の限度で絶対的効力を生ずることを規定しています。

例えば,A,B,Cの3名の連帯債務者が債権者に対して30万円の連帯債務を負い,その負担部分がそれぞれ平等である場合において,Aについて時効が完成したとすると,その効力はAの負担部分である10万円の限度でBとCにも及ぶことになり,その結果,BとCは債権者に対して連帯して20万円を支払えばよいことになります。

ここで,Bが債権者に対して20万円を支払うと,BはCに対して10万円を求償することができますから,結局,債権者は20万円を受け取り,BとCが10万円ずつを支払ったことになります。

仮に同条が存在しないとすると,上記の例では,Aについて時効が完成したとしても,BとCには何らの影響も及ばず,BとCは債権者に対して連帯して30万円を支払わなければならないままとなります。

そして,Bが債権者に対して30万円を支払った場合において,Aに対して10万円の求償をすることができるとすると,その求償に応じたAは債権者に対して10万円の求償(不当利得返還請求)をするこ
とになり,求償の循環が生ずることになります(ただし,この例において,債権者は,Bに対する30万円の債に基づいてBから30万円の支払を受けたにすぎず,法律上の原因なき利益を何ら取得していませんから,Aの債権者に対する不当利得返還請求権は発生しないとも考えられます。)。

また,仮に時効の完成したAに対しては他の連帯債務者は求償をすることができないとすると,Bは,Cに対して10万円の求償をすることができたとしても,自らの負担部分を超える20万円の負担をしなければならないことになり,結局,債権者は30万円を受け取り,Bが20万円を,Cが10万円をそれぞれ支払うという不公平な結果となります。

同条の存在意義は,以上に述べた求償の循環や不公平な結果を回避することにあるとされています。

しかし,民法第439条の規定に対しては,連帯債務者の一人についての時効の完成を絶対的効力事由としてしまうと,債権者は,連帯債務者のうち資力のある一部の者からの弁済をあてにしている場合であっても,資力のない連帯債務者についても時効中断の措置を講じておかなければ,その者についての時効の完成によって,資力の
ある連帯債務者の債務が縮減されてしまうという思わぬ不利益を被りかねないとの批判がされています。

そこで,本文アでは,連帯債務者の一人についての時効の完成には相対的効力しか認められないことを原則としつつ,当事者間の別段の合意によって絶対的効力を生じさせることは妨げないものとしています。

ところで,本文アのように,連帯債務者の一人についての時効の完成を相対的効力事由とする場合には,連帯債務者間の求償関係について,さらに検討をする必要があります。

時効制度の目的を,自らが債務を負っていないことや既に弁済をしたことの証拠を保全する負担から債務者を解放することにあると捉えるのであれば,時効の完成した連帯債務者に対して他の連帯債務者が求償することを認めてしまうと,上記の目的を貫徹することができなくなると指摘されています。

上記の例で言えば,債権者に対して30万円を支払ったBが,時効の完成したAに対して10万円の求償をすることができるとすると,Aが時効制度によって自らが債務を負っていないことや既に弁済をしたことの証拠を保全する負担から解放されたことの趣旨が没却されるとの指摘であります。

しかし,一般に,負担部分を有する連帯債務者は,債権者との関係において連帯債務を負うのみならず,他の連帯債務者との関係において求償債務を負う可能性を常に有しているのですから,債権者との関係において上記証拠を保全する負担から解放されたからといって,他の連帯債務者との関係においても上記証拠を保全する負担から解放されることを期待するのは相当でないとも考えられます。

このように考えれば,連帯債務者の一人について時効が完成した場合であっても,その連帯債務者に対する他の連帯債務者の求償が制限されないことは,特に問題視すべきことではないことになります。

なお,本文では取り上げていませんが,今後の検討課題として,このように他の連帯債務者による求償を制限しないとの考え方を採る場合に,債権者に対して求償(不当利得返還請求)をすることを認めてよいかが問題となり得ます(本文イ参照)。

というのも,このような求償を認めると,いたずらに求償の循環を生じさせる結果となるし,理論的に見ても,債権者はBに対する30万円の債権に基づいてBから30万円の支払を受けたにすぎず,法律上の原因なき利益を何ら取得していませんから,Aの債権者に対する不当利得返還請求権は発生しないと考えられるからです。

3 不真正連帯債務

前述のように,法律の規定により連帯債務とされるもののうち共同不法行為者が負担する損害賠償債務(民法第719条)については,判例・学説は,絶対的効力事由に関する一部の規定の適用がない不真正連帯債務に該当するとしていますが,本文アは,絶対的効力事由を廃止するという点で,前記(1)とともに,判例上の不真正連帯債務に関する規律を原則的な連帯債務の規律として位置づけるものといえます。

これによれば,不真正連帯債務という条文に存在しない概念を用いる必要性は失われることになります。

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債権法の改正・補足説明(その九十の一)

(2) 更改,相殺等の事由(民法第435条から第440条まで関係)

民法第435条から第440条まで(同法第436条第1項を除く。)の規律を次のように改めるものとする。

ア 連帯債務者の一人について生じた更改,免除,混同,時効の完成その他の事由は,当事者間に別段の合意がある場合を除き,他の連帯債務者に対してその効力を生じないものとする。

イ 債務の免除を受けた連帯債務者は,他の連帯債務者からの求償に応じたとしても,債権者に対してその償還を請求することはできないものとする。

ウ 連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において,その連帯債務者が相殺を援用しない間は,その連帯債務者の負担部分の限度で,他の連帯債務者は,自己の債務の履行を拒絶することができるものとする。

(注)上記アのうち連帯債務者の一人について生じた混同については,その連帯債務者の負担部分の限度で他の連帯債務者もその債務を免れるものとするという考え方がある。

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債権法の改正・補足説明(その八十九)

3 連帯債務者の一人について生じた事由の効力等

(1) 履行の請求(民法第434条関係)

民法第434条の規律を改め,連帯債務者の一人に対する履行の請求は,当事者間に別段の合意がある場合を除き,他の連帯債務者に対してその効力を生じないものとする。

(注)連帯債務者の一人に対する履行の請求が相対的効力事由であることを原則としつつ,各債務者間に協働関係がある場合に限りこれを絶対的効力事由とするという考え方がある。

(概要)
連帯債務者の一人に対する履行の請求について,これを絶対的効力事由としている民法第434条の規律を改め,相対的効力事由であることを原則とするものである。

法令によって連帯債務関係が発生する場面などでは,連帯債務者相互間に密接な関係が存在しないことが少なくないため,履行の請求を絶対的効力事由とすることに対して,履行の請求を受けていない連帯債務者が自分の知らない間に履行遅滞に陥ったり(同法第412条第3項参照),消滅時効が中断したりする(同法第147条第1号参照)などの問題点が指摘されている。

他方,履行の請求が絶対的効力を有することについて実務上の有用性が認められ,それが不当でないと考えられる場面(例えば,いわゆるペアローン)もあり得る。

これらを踏まえ,相対的効力事由とすることを原則とした上で,当事者間(債権者と履行の請求の効力を及ぼし合う全ての連帯債務者との間)の別段の合意によって絶対的効力を生じさせることは妨げないものとしている。

この点に関しては,相対的効力事由であることを原則としつつ,各債務者間に請求を受けたことを互いに連絡し合うことが期待できるような協働関係がある場合に限り絶対的効力事由とする旨の規定に改めるという考え方があり,これを(注)で取り上げている。

(補足説明)

1 問題の所在

現行法は,連帯債務者の一人について生じた事由の効力は他の連帯債務者には及ばないこと(相対的効力)を原則としつつも(民法第440条),他の連帯債務者にも効力が及ぶ事由(絶対的効力事由)を多く認めています(同法第434条から第439条まで)。

そして,連帯債務者の一人に対する履行の請求も,絶対的効力事由とされています(同法第434条)。

しかし,連帯債務者の一人に対する履行の請求を絶対的効力事由としていることに対しては,連帯債務の担保的機能を強化する方向に作用するため債権者にとっては有利ですが,他方で,履行の請求を受けていない連帯債務者にとっては,自分の知らない間に履行遅滞に陥っていたり(民法第412条第3項参照),消滅時効が中断していたりするなど(同法第147条第1号参照),不測の損害を被るおそれがあるという批判があります。

そこで,部会の審議においては,連帯債務者の一人に対する履行の請求を相対的効力事由に改めるという考え方も検討の対象とされましたが,夫婦が連帯債務者となって住宅ローンを組む場合(いわゆるペアローン)のように,連帯債務者の一人に対する履行の請求の効力が他の連帯債務者に及ぶことについて実務上の有用性が認められ,それが不当ではない場面もあることから,連帯債務者の一人に対する履行の請求を一律に相対的効力事由に改めることは必ずしも適当とはいえません。

そうすると,連帯債務者の一人に対する履行の請求を一律に絶対的効力事由としたままにしておくことも,一律に相対的効力事由に改めることも,いずれも適当とはいえず,結局,債権者の利益と連帯債務者の利益との調整の観点から,連帯債務者の一人に対する履行の請求に絶対的効力を認める場合と相対的効力しか認めない場合とを振り分ける基準を設定する必要があるといえます。

2 具体的な基準の在り方

(1) 以上のような問題意識を踏まえ,本文では,連帯債務者の一人に対する履行の請求には相対的効力しか認められないことを原則としつつ,当事者間の別段の合意によって絶対的効力を生じさせることは妨げないものとしています。

すなわち,連帯債務者の一人に対する履行の請求に絶対的効力を認める場合と相対的効力しか認めない場合とを振り分ける基準を当事者間の別段の合意の有無に求めているのです。

別段の合意をする当事者の範囲に関しては,債権者と履行の請求の効力を及ぼし合う全ての連帯債務者が想定されています。

(2) このほか,連帯債務者間に請求を受けたことを互いに連絡し合うことが期待できるような協働関係があるか否かによって連帯債務者の一人に対する履行の請求に絶対的効力を認める場合と相対的効力しか認めない場合とを振り分けるという考え方もありますので,これを(注)で取り上げています。

もっとも,この(注)の考え方に対しては,「協働関係」の存否という基準は債権者にとって明確であるとは言えないとの批判があります。

債権者としては連帯債務者間に協働関係があると考えて連帯債務者の一人に対してのみ履行の請求をしたのに,実際には連帯債務者間には協働関係がなく,当該履行の請求に絶対的効力が認められないといった事態が生ずるようでは,債権者に不測の不利益が生じかねないというのです。

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債権法の改正・補足説明(その八十八)

2 分割債務(民法第427条関係)

分割債務を負担する数人の債務者は,当事者間に別段の合意がないときは,それぞれ等しい割合で義務を負うものとする。

(概要)

民法第427条のうち分割債務に関する規律を維持するものである。

(補足説明)

民法第427条は,「数人の債権者又は債務者がある場合において」との文言から始まっており,分割債権に関する規律と分割債務に関する規律とが区別されずに規定されていて,分かりにくいものとなっています。

そこで,分割債権に関する規律と分割債務に関する規律とを書き分けることとし,本文では,まず分割債務に関する規律を取り上げています(分割債権に関する規律は,後記7で取り上げます。)。

内容的には,民法第427条の規律を維持しています。

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債権法の改正・補足説明(その八十七)

第16 多数当事者の債権及び債務(保証債務を除く。)

1 債務者が複数の場合

(1) 同一の債務について数人の債務者がある場合において,当該債務の内容がその性質上可分であるときは,各債務者は,分割債務を負担するものとする。

ただし,法令又は法律行為の定めがある場合には,各債務者は,連帯債務を負担するものとする。

(2) 同一の債務について数人の債務者がある場合において,当該債務の内容がその性質上不可分であるときは,各債務者は,不可分債務を負担するものとする。

(概要)
同一の債務について複数の債務者がある場合に関して,分割債務(民法第427条),連帯債務(同法第432条),不可分債務(同法第430条)の分類を明確化する規定を設けるものである。

本文(1)は,債務の内容が性質上可分である場合について,分割主義(民法第427条)を原則とした上で,その例外として,法令又は法律行為の定めによって連帯債務が成立するものとしている。

これは,連帯債務の発生原因に関する一般的な理解を明文化するものである。

本文(2)は,債務の内容が性質上不可分である場合には,各債務者は,専ら不可分債務を負担するものとしてる。

これにより,連帯債務と不可分債務とは,内容が性質上可分か不可分かによって区別されることになる。

現行法の下では,内容が性質上可分であっても当事者の意思表示によって不可分債務にすることができると解されているが(不可分債権に関する民法第428条参照),本文では,これを連帯債務に分類するものとしている。

(補足説明)

1 多数当事者の債権及び債務(保証債務を除く。)に関する規定の再構成

現行法は,民法第427条が「数人の債権者又は債務者がある場合において」との文言から始まっているように,多数当事者の債権及び債務(保証債務を除く。)について,債務者が複数の場合の規律と債権者が複数の場合の規律とを必ずしも区別せずに規定していますが,このような規定の仕方は分かりやすいものとは言えません。

そこで,この中間試案では,債務者が複数の場合の規律と債権者が複数の場合の規律とを書き分けることにしています。

2 債務者が複数の場合の分類の再編成

(1) 再編成の契機

現行法は,同一の債務について複数の債務者がある場合として,分割債務(民法第427条),連帯債務(同法第432条),不可分債務(同法第430条)の3つの類型を掲げています。

不可分債務には,絶対的効力事由に関する規定(同法第434条から第440条まで)を除く連帯債務の規定が準用されます(同法第430条括弧書き)から,連帯債務と不可分債務との違いは,絶対的効力事由に関する規定の適用の有無に求められます。

ところで,この中間試案では,連帯債務における絶対的効力事由を見直すものとしており,不可分債務と連帯債務との間の効果の面での差異を解消する考え方を示しています(後記3)。

そこで,本文では,連帯債務と不可分債務との違いが絶対的効力事由に関する規定の適用の有無に求められなくなることを想定して,分割債務,連帯債務,不可分債務の分類を再編成するものとしています。

(2) 債務の内容が性質上可分である場合(本文(1))

具体的な再編成の在り方としては,債務の内容が性質上可分であるか不可分であるかという基準を導入して,まず,債務の内容が性質上可分である場合には,各債務者は,原則として分割債務を負担しますが(本文(1)第1文),法令又は法律行為の定めがある場合には,例外的に連帯債務を負担するものとしています(本文(1)第2文)。

本文(1)第1文は,いわゆる分割主義の原則(民法第427条)を維持するものです。

本文(2)は,現行民法が「数人が連帯債務を負担するときは」(同法第432条)との文言から始まる規定を置くのみで,連帯債務が成立するための要件を何ら明示していないので,連帯債務は法律の規定によるほか,当事者の意思表示によって成立するという一般的な理解に従って,これを補うものです。

(3) 債務の内容が性質上不可分である場合(本文(2))

次に,債務の内容が性質上不可分である場合には,各債務者は,専ら不可分債務を負担するものとしています(本文(2))。

現行法は,内容が性質上可分であっても当事者の意思表示によって不可分債務にすることができるとしています(民法第428条)が,本文の分類の下では,このような場合は不可分債務ではなく連帯債務として取り扱われることになります。

本文のような再編成により,連帯債務と不可分債務とは,絶対的効力事由に関する規定の適用の有無によってではなく,内容が性質上可分か不可分かによって区別されることになります。

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債権法の改正・補足説明(その八十六)

14 詐害行為取消権の行使期間

詐害行為取消しの訴えは,債務者が債権者を害することを知って詐害行為をした事実を債権者が知った時から2年を経過したときは,提起することができないものとする。

詐害行為の時から[10年]を経過したときも,同様とするものとする。

(概要)

民法第426条前段は,「取消しの原因」を債権者が知った時から2年の消滅時効を定めているが,これについて,判例(最判昭和47年4月13日判時669号63頁)は,「債務者が債権者を害することを知って法律行為をした事実」を債権者が知った時から起算されるのであって,「詐害行為の客観的事実」を債権者が知った時から起算されるのではないとする。

本文第1文は,まず,この起算点についての判例法理を明文化するものである。

また,本文第1文は,詐害行為取消権が民法第120条以下の取消権等の実体法上の形成権とは異なるという点に着目し,詐害行為取消権の2年の行使期間を除斥期間ないし出訴期間(会社法第865条第2項,民法第201条等参照)と捉えるものである。

時効の中断等の時効障害に関する規定は適用されないこととなる。

本文第2文は,民法第426条後段の20年の除斥期間を[10年]に改めるものである。

詐害行為取消権を行使するには詐害行為時から詐害行為取消権の行使時(詐害行為取消訴訟の事実審口頭弁論終結時)まで債務者の無資力状態が継続することを要するとされているから,20年もの長期間にわたって債務者の行為や財産状態を放置したまま推移させた債権者に詐害行為取消権を行使させる必要性は乏しいと考えられることを理由とする。

(補足説明)

否認権の行使期間に関する破産法第176条は,「否認権は,破産手続開始の日から二年を経過したときは,行使することができません。否認しようとする行為の日から二十年を経過したときも,同様とする。」と定めていますが,この短期及び長期の期間は,いずれも除斥期間と解されています。

また,平成16年の倒産法改正の際には,同条の20年の行使期間を短期化すべきであるとの意見がありましたが,詐害行為取消権の行使期間に関する民法第426条と異なる期間とするのは相当でないとの意見もあり,結局,20年の行使期間が維持された経緯があるとの指摘がされています。

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債権法の改正・補足説明(その八十五)

13 転得者の前者に対する反対給付等

債務者がした受益者との間の行為が転得者に対する詐害行為取消権の行使によって取り消された場合において,転得者が前者から取得した財産を返還し,又はその価額を償還したときは,転得者は,受益者が当該財産を返還し,又はその価額を償還したとすれば前記10によって回復すべき債権又は前記11によって生ずべき反対給付の返還若しくは償還に係る請求権を,転得者の前者に対する反対給付の価額又は転得者が前者に対して有していた債権の価額の限度で,行使することができるものとする。

(注)このような規定を設けない(解釈に委ねる)という考え方,詐害行為取消権を行使された転得者の前者に対する反対給付の全額の返還請求又は転得者が前者に対して有していた債権の全額の回復を無条件に認めるという
考え方がある。

(概要)

転得者が現物を返還し,又はその価額を償還した場合における転得者の前者に対する反対給付又は転得者が前者に対して有していた債権の取扱いについて定めるものである。

転得者に対して行使された詐害行為取消権の効果は転得者の前者には及ばないことを前提とすると,転得者が債務者に現物返還又は価額償還をした場合であっても,前者に対する反対給付の返還請求又は前者に対して有していた債権の回復は認められず,転得者がした現物返還又は価額償還に係る財産によって取消債権者を含む債権者らが債務者に対する債権の満足を得たときに初めて,転得者は債務者に対する不当利得返還請求権を行使することができるにすぎないとされている。

これに対して,本文は,転得者に対して行使された詐害行為取消権の効果は転得者の前者には及ばないことを前提としつつも,受益者の反対給付及び債権に関する前記10から12までの取扱いを踏まえ,転得者の反対給付及び債権についても一定の保護を図ることを意図するものである。

この場合において,転得者の前者に対する反対給付等の価額が,受益者の債務者に対する反対給付等の価額より大きいために,転得者が受益者の行使することのできる権利を行使するだけでは,転得者の前者に対する反対給付等の価額に満たないというときは,前者に詐害行為取消しの原因があるときに限り,転得者は前者に対してその不足分の支払を請求することができるとする考え方もある。

この考え方を採るかどうかについては,引き続き解釈に委ねることとしている。

以上に対し,転得者の保護については特段の規定を設けずに引き続き解釈に委ねるべきであるという考え方があり,他方,転得者の保護を本文より更に進めて,転得者の前者に対する反対給付の全額の返還請求又は転得者が前者に対して有していた債権の全額の回復を無条件に認めるべきであるという考え方がある。

これらの考え方を(注)で取り上げている。

後者の考え方は,転得者に対して行使された詐害行為取消権の効果は転得者の前者には及ばないことを前提としつつも,詐害行為取消権を行使された転得者の前者に対する反対給付の返還請求又は転得者が前者に対して有していた債権の回復の場面においてはそのことを殊更に強調すべきではないという発想に立つものと整理することも可能である。

また,本文の救済方法と併存させることも可能であることを前提としている。

(補足説明)

1 現在の判例法理(大連判明治44年3月24日)の下でも,この中間試案の下でも,転得者に対して行使された詐害行為取消権の効果は転得者の前者には及びませんから,転得者が債務者に現物返還又は価額償還をした場合であっても,転得者の前者に対する反対給付の返還請求又は前者に対して有していた債権の回復は認められません。

転得者は,債務者に返還又は償還した財産によって取消債権者を含む債権者らが債務者に対する債権の満足を得たときに初めて,債務者に対して不当利得の返還請求をすることができるにすぎません。

他方,受益者の反対給付の場合と異なり,この場合の取消債権者及び他の一般債権者は,転得者が債務者に返還又は償還した財産に加えて,転得者がその財産を取得するためにした反対給付や当該財産の取得によって消滅した債権の価額分を債務者の責任財産として把握するわけではありません(前記11の補足説明の第1パラグラフ参照)。

なぜなら,債務者の直接の相手方である受益者が債務者から当該財産を取得するためにした反対給付の価額等と,転得者が前者から当該財産を取得するためにした反対給付の価額等は,必ずしも一致するわけではないからです。

例えば,受益者が債務者から贈与を受けた目的物を,転得者が受益者から買い受けた場合には,転得者が当該目的物を債務者に返還又は償還したとしても,債務者の責任財産は当該目的物の価額分のみ増加するにすぎません。

もっとも,受益者の反対給付について取消債権者及び他の一般債権者に優先して回収することを可能にするのであれば(前記11,12参照),転得者が前者に対してした反対給付や前者に対して有していた債権についても,何らかの保護を図るべきであるとの指摘があります。

また,この転得者の反対給付及び債権に関する取扱いについては,破産法に規定がなく,破産手続における取扱いも必ずしも明確でないことから,民法の詐害行為取消権における規律を明確にしておくことの意義は大きいとの指摘もあります。

本文はこれらの指摘を踏まえたものです。

2 (概要)に記載したとおり,本文の考え方を採る場合において,転得者が受益者の行使することのできる権利を行使しただけでは転得者の前者に対する反対給付等の価額に満たないときは,前者に詐害行為取消しの原因があるときに限り,転得者は前者に対してその不足分の支払を請求することができるとする考え方があります。

この考え方に対しては,転得者から追及を受けた前者が更にその前者に対して追及をすることができるか,できるとして直接の前者ではなく前者の前者に対して追及をすることができるか,できるとして直接の前者とその前者に対して同時に追及をすることができるか,さらに,当該転得者からの転得者が存在する場合(その転得者にも詐害行為取消しの原因がある場合)にはその転得者に対しても追及をすることができるかなど,多くの問題があるため,引き続き解釈に委ねることとしています。

(注)のうち後者の考え方は,詐害行為取消しの効果が転得者の前者にも及ぶとする立場からも主張されています。

この立場に対しては,詐害行為取消訴訟の被告とされず,訴訟告知もされない前者に詐害行為取消しの効果を及ぼしてよいか疑問を示す指摘があります。

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債権法の改正・補足説明(その八十四)

12 受益者が金銭の返還又は価額の償還をすべき場合における受益者の反対給付

(1) 債務者がした財産の処分に関する行為が取り消された場合において,受益者が債務者から取得した財産である金銭を返還し,又は債務者から取得した財産の価額を償還すべきときは,受益者は,当該金銭の額又は当該財産の価額からこれを取得するためにした反対給付の価額を控除した額の返還又は償還をすることができるものとする。

ただし,債務者が,当該財産を受益者に処分した当時,その反対給付について隠匿等の処分(前記2(1)ア参照)をする意思を有しており,かつ,受益者が,その当時,債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたときは,受益者は,当該金銭の額又は当該財産の価額の全額の返還又は償還をしなければならないものとする。

(2) 上記(1)の場合において,受益者が全額の返還又は償還をしたときは,受益者は,債務者に対し,反対給付の現物の返還を請求することができるものとする。

この場合において,反対給付の現物の返還が困難であるときは,受益者は,債務者に対し,価額の償還を請求することができるものとする。

(3) 上記(1)の適用については,受益者が債務者の親族,同居者,取締役,親会社その他の債務者の内部者であったときは,受益者は,当該行為の当時,債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定するものとする。

(概要)

本文(1)第1文は,受益者が金銭をもって返還をする場合における受益者の反対給付の取扱いについて,受益者が現物返還をする場合(前記11参照)と異なり,受益者の側に全額の返還をするか反対給付との差額の返還をするかを選択させることとするものである。

この規律によると,受益者は,取消債権者による全額の返還請求に対して差額の返還を主張することができることとなり,その場合には,受益者の反対給付の返還請求権が取消債権者の費用償還請求権に優先する結果となる。

もっとも,実際上,受益者が返還した差額によって取消債権者が費用償還請求権の満足すら得られない事態はほとんど生じない(そのような事態が生じ得る場面ではそもそも詐害行為取消権の行使はされないことがほとんどである)との指摘がある。

この指摘を踏まえ,受益者の反対給付の取扱いを可能な限り簡易に処理することを優先させたものである。

本文(1)第2文は,前記11(2)第2文と同様の趣旨のものである。

本文(2)は,本文(1)により受益者が全額の返還又は償還をしたときは,前記11(1)と同様に受益者は反対給付の現物の返還又はその価額の償還を請求することができる旨を定めるものである。

本文(3)は,前記11(3)と同様の趣旨のものである。

(補足説明)

本文(2)の「受益者が全額の返還又は償還をしたとき」に該当する場合としては,①受益者が本文(1)第1文により差額の返還をすることができるのにあえて全額の返還をした場合と,②受益者が本文(1)第2文により全額の返還をしなければならない場合とがあります。

①の場合については,受益者が差額の返還をすることにより反対給付の優先的な回収を実現することができたのにあえて全額の返還をしたこと,②の場合については,受益者が債務者の隠匿等の処分をする意思について悪意であったことから,いずれの場合についても,受益者は反対給付の返還請求権が金銭債権である場合の先取特権(前記11(2)参照)を有しないことを前提としています。

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債権法の改正・補足説明(その八十三)

11 受益者が現物の返還をすべき場合における受益者の反対給付

(1) 債務者がした財産の処分に関する行為が取り消された場合において,受益者が債務者から取得した財産(金銭を除く。)を返還したときは,受益者は,債務者に対し,当該財産を取得するためにした反対給付の現物の返還を請求することができるものとする。

この場合において,反対給付の現物の返還が困難であるときは,受益者は,債務者に対し,価額の償還を請求することができるものとする。

(2) 上記(1)の場合において,受益者は,債務者に対する金銭の返還又は価額の償還の請求権について,債務者に返還した財産を目的とする特別の先取特権を有するものとする。

ただし,債務者が,当該財産を受益者に処分した当時,その反対給付について隠匿等の処分(前記2(1)ア参照)をする意思を有しており,かつ,受益者が,その当時,債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたときは,受益者は,その特別の先取特権を有しないものとする。

(3) 上記(2)の適用については,受益者が債務者の親族,同居者,取締役,親会社その他の債務者の内部者であったときは,受益者は,当該行為の当時,債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定するものとする。

(概要)
本文(1)は,判例法理(大連判明治44年3月24日民録17輯117頁)と異なり詐害行為取消しの効果が債務者にも及ぶことを前提に(前記1(3)参照),受益者が現物返還をした場合には直ちに反対給付の現物の返還又はその価額の償還を請求することができる旨を定めるものである。

現在の判例法理の下では,受益者が現物返還をした場合であっても,その財産によって取消債権者を含む債権者らが債権の満足を得たときに初めて,受益者は債務者に対する不当利得返還請求権を行使することができるにすぎないとされており,これを合理的な規律に改めるものである。

本文(2)第1文は,破産法第168条第1項第2号と同様の趣旨により,反対給付の返還請求権が金銭債権である場合にその債権について優先権を認めるものである。

本文(2)第1文により受益者が不動産を目的とする特別の先取特権を有する場合については,当該先取特権に基づき受益者が配当等を受けるべき債権者の地位を確保するためには,受益者の債務者に対する当該先取特権の登記請求権を認める必要があると考えられることから(民事執行法第87条第1項第4号参照。民事保全法第53条,第23条第3項も参照),その規定の要否について引き続き検討する必要があり,その際に先取特権の順位に関する規定を設ける必要もある。

本文(2)第2文は,破産法第168条第2項と同様の趣旨のものであるが,同項のように反対給付によって生じた債務者の現存利益の有無により取扱いを異にすると規律が不明確かつ複雑なものになってしまうとの指摘や,債務者の隠匿等の処分をする意思を知っていた受益者に優先権を与える必要はないとの指摘があることから,一律に優先権を否定することとしている。

本文(3)は,破産法第168条第3項と同様の趣旨のものである。

(補足説明)

現在の判例法理(大連判明治44年3月24日)の下では,詐害行為取消しの効果が債務者には及ばないため,受益者は,債務者から取得した財産を返還した場合であっても,債務者に対してその財産を取得するためにした反対給付の返還又はその価額の償還を請求することができないとされています。

受益者は,債務者に返還した財産によって取消債権者を含む債権者らが債権の満足を得たときに初めて,債務者に対して不当利得の返還請求をすることができるにすぎないとされています。

したがって,受益者は,債務者に対してした反対給付の返還又は償還の請求権について,取消債権者及び他の一般債権者に劣後することになります。一方,取消債権者及び他の一般債権者は,受益者が債務者に返還した財産と,受益者がその財産を取得するためにした反対給付の双方を,債務者の責任財産として把握することになります。

これに対して,破産法においては,受益者はその反対給付が破産財団中に現存する場合にはその反対給付の返還を請求することができ(同法第168条第1項第1号),反対給付が破産財団中に現存しない場合にはその反対給付の価額の償還を財団債権者として請求することができるとしています(同項第2号)。

これは,受益者が優先的に反対給付の返還又は償還の請求をすることができるとしておかなければ,破産財団において,受益者が破産者に返還した財産と,受益者が当該財産の取得のためにした反対給付の双方を,不当に(二重に)利得することになってしまうという問題を考慮したものとされています。

このような考慮は,詐害行為取消権においても同様に妥当するものと考えられます。

また,詐害行為取消しの効果を債務者にも及ぼすのであれば(前記1の補足説明の1参照),現在の判例法理の下で採られている論理(この補足説明の第1パラグラフ参照)を採る必要はありません。

本文は以上の理解を前提とするものです。

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債権法の改正・補足説明(その八十二)

10 受益者の債権の回復

債務者がした債務の消滅に関する行為が取り消された場合において,受益者が債務者から受けた給付を返還し,又はその価額を償還したときは,受益者の債務者に対する債権は,これによって原状に復するものとする。

(概要)

受益者の債権の回復について定めるものであり,破産法第169条と同様の趣旨のものである。

判例(大判昭和16年2月10日民集20巻79頁)も,債務者の受益者に対する弁済又は代物弁済が取り消されたときは,受益者の債務者に対する債権が復活するとしている。

なお,受益者が給付の返還又はその価額の償還をする前に,その返還又は償還の債務に係る債権が差し押さえられた場合であっても,受益者は,その返還又は償還をすること(具体的には執行供託をすること)を停止条件として回復すべき債権を被保全債権として,上記差押えに係る債権(自己を債務者とする債権)に対する仮差押えをし(民事保全法第20条第2項参照),それによって上記差押えに係る執行手続において配当等を受けるべき債権者の地位を確保することができる(民事執行法第165条参照)。

また,債務者がした過大な代物弁済のうち当該代物弁済によって消滅した債務の額に相当する部分以外の部分のみが前記4により取り消された場合には,受益者がその取り消された部分についての価額を償還したとしても,当該代物弁済によって消滅した債務の額に相当する部分についての価額を償還したことにはならないから,受益者の債権は回復しない。

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債権法の改正・補足説明(その八十一)

9 詐害行為取消権の行使に必要な費用

(1) 債権者は,詐害行為取消権を行使するために必要な費用を支出したときは,債務者に対し,その費用の償還を請求することができるものとする。この場合において,債権者は,その費用の償還請求権について,共益費用に関する一般の先取特権を有するものとする。

(2) 上記(1)の一般の先取特権は,後記11(2)の特別の先取特権に優先するものとする。

(概要)

本文(1)は,詐害行為取消権の行使に必要な費用を支出した取消債権者が費用償還請求権を取得すること,その費用償還請求権について共益費用に関する一般の先取特権(民法第306条第1号)を有することをそれぞれ示すものである。

詐害行為取消権が行使された場合における費用負担についての一般的な理解に従った規定を設けることにより,ルールの明確化を図るものである。費用償還請求権の共益性については,とりわけ債権回収機能が否定される場合には,異論のないところであると考えられる。

本文(2)は,取消債権者の一般先取特権(本文(1))と受益者の特別先取特権(後記11(2))との優劣を示すものである。取消債権者が詐害行為取消権の行使のために必要な費用を支出した場合にそれを最優先で回収することができないのでは詐害行為取消権を行使するインセンティブが確保されないこと等を根拠に,取消債権者の一般先取特権が優先するものとしている。

(補足説明)
債権者代位権における代位債権者の債務者に対する費用償還請求権は代位債権者と債務者との間の法定委任又は事務管理の関係を根拠としますが(前記第14,5の補足説明参照),詐害行為取消権については,これと同様の説明をすることはできません。

もっとも,取消債権者が詐害行為取消権の行使に必要な費用を支出することは,債務者の責任財産の保全に資するものですから,一般的には,取消債権者は債務者に対してその費用の償還請求権を取得し,その費用償還請求権について共益費用に関する一般の先取特権(民法第306条第1号)を有すると解されています。

現実的に見ても,取消債権者が詐害行為取消権の行使に必要な費用を支出した場合において,それを優先的に回収できないのでは,詐害行為取消権を行使するインセンティブが確保されないとの指摘があります。

本文(1)はこの指摘を踏まえたものです。

また,同じく取消債権者のインセンティブを確保するという観点から,取消債権者の費用償還請求権についての一般の先取特権は,受益者の反対給付返還請求権についての特別の先取特権(後記11(2)参照)に優先すべきであるとの指摘があります。

破産法上,受益者は,破産管財人が受益者の反対給付を返還するのと引き換えでなければ破産者から取得した財産を返還しないという同時履行の抗弁を主張することができるため,受益者の反対給付返還請求権は,否認権の行使のために必要な費用の回収に先立ってその回収を実現することができると説明されています。

もっとも,取消債権者が支出した費用については,一般債権者の一人にすぎない取消債権者が債務者の責任財産を保全するために支出した費用ですから,破産法上の上記取扱いとは異なり,その費用の回収を最優先とすべきであるとの指摘です。

本文(2)はこの指摘を踏まえたものです。

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債権法の改正・補足説明(その八十の二)

(補足説明)

1 債権者代位権の債権回収機能に関する前記第14,3の補足説明の1に記載したところと同様に,現在の判例法理(大判昭和7年9月15日等)の下では,債務者の責任財産を保全するための制度である詐害行為取消権を利用すれば,被保全債権の存在が債務名義によって確認されていなくても,また,債務者や第三債務者(受益者又は転得者)の正当な利益を守るための手続が履践されていなくても,取消債権者は,受益者又は転得者に対して直接に権利行使をした上で相殺による債権回収を実現することができ,債務者の責任財産の保全を超えて,強制執行制度を利用した場合と同様の結果(債権の満足)を得ることができてしまいます。

このことが法制度として一貫せず,民事手続法が用意するシステムとの間で不整合を生じていることは否定し難いです。

また,詐害行為取消権の債権回収機能を認めると,他の債権者より先に弁済を受けた者が,後に弁済を受けようとした者から詐害行為取消権を行使され,その結果,後に弁済を受けようとした者のみが債権の回収を実現することになってしまいます。

そこで,詐害行為取消権の債権回収機能を見直す必要があるとの指摘がされています。

2 詐害行為取消権の債権回収機能を見直す方法としては,取消債権者による直接の引渡請求自体を否定するという(注1)の考え方があります。

この考え方に対しては,債務者が金銭を受領しない場合にまで取消債権者による金銭の受領を否定すると,責任財産の保全の目的を達成することができないとの指摘があります。

また,無資力の債務者が金銭を受領すると,簡単に費消しかねないとの指摘もあります。

これらに対しては,債務者が金銭を受領しないのであれば,取消債権者としては,詐害行為取消しの効果によって生じた債務者の受益者又は転得者に対する債権についての差押え又は仮差押えの手続を採るべきであるとの指摘や,債務者が金銭を受領した後でこれを費消することは,その費消に関する行為が詐害行為取消しの対象となる場合を除き,取消債権者が干渉すべきものではなく,債務者による費消を回避したいのであれば,取消債権者としては上記の差押え又は仮差押えの手続を採るべきであるとの指摘がされています。

詐害行為取消権の債権回収機能を見直す方法としては,取消債権者による直接の引渡請求を認めた上で相殺を禁止するという本文(2)の考え方もあります。

この考え方に対しては,相殺による被保全債権の回収を禁止するのであれば取消債権者による直接の引渡請求を認める意味はないとの指摘があります。

これに対しては,少なくとも受益者又は転得者の無資力のリスクを回避するという点においては意味があるとの指摘がされています。

3 以上の債権回収機能を見直す考え方に対しては,詐害行為取消権の債権回収機能は必ずしも債務名義の取得や債権執行手続の履践の潜脱をしようとするものではなく,詐害行為取消権の行使によって相殺適状が生ずることと,民法上相殺という簡易な決済手段が認められていることとによる帰結にすぎないとの指摘があります。

これに対しては,詐害行為取消権の行使によって生ずる相殺適状は,債務者の責任財産を保全するための制度を用いることによって初めて生じたものですから,そのような相殺適状を根拠として債権回収機能を正当化するのは相当でないとの指摘があり得ます。

また,詐害行為取消権の債権回収機能が否定されると,債権者を害する行為を取り消して債権の保全の努力をしようとする取消債権者のインセンティブが奪われるとの指摘があります。

これに対しては,相殺による債権回収が否定されたとしても,取消債権者としては,詐害行為を取り消して受益者又は転得者から金銭を受領した上で,債務者の自己に対する返還債権についての強制執行(自らを取立先とする債権執行)を行うことができるのですから,インセンティブとしては基本的にそれで十分であるとの指摘がされています。

詐害行為取消訴訟において債務者をも被告とする場合には(前記1(3),5(3)参照),通常は詐害行為取消訴訟の判決確定時までに被保全債権についての債務名義を取得していることが想定され,直ちに債権執行の手続を採ることが可能な状態になっていると考えられることから,これも上記のインセンティブを補完する事情となり得ます。

また,他の債権者との競合が生ずることに備えて,詐害行為取消権の行使範囲を被保全債権の額の範囲に限定していないことや(前記7参照),詐害行為取消権の行使のために支出した費用の債務者への償還請求権を認め,これに一般の先取特権を与えていることも(後記9参照),取消債権者のインセンティブを向上させる方向に働く事情となり得ます。

むしろ,詐害行為取消権の本来の制度趣旨を逸脱する債権回収機能を付与してまで,取消債権者のインセンティブを確保するのは相当でないとの指摘がされています。

他方,労働債権の保護を主張する立場から次のような指摘がされています。

すなわち,我が国では企業が倒産状態に陥った場合に,管財人が選任される破産手続や更生手続であれば債権者平等原則に基づく公平な分配がされるが,管財人が選任されない任意整理等であればそのような公平な分配がされていませんから,労働者としては,詐害行為取消権を行使して労働債権の回収を図る必要があります。

その意味で詐害行為取消権の債権回収機能は労働債権の回収のために重要なものですから,これが否定されると労働債権の回収に支障を生ずるとの指摘です。

4 詐害行為取消権の債権回収機能を見直す方法としては,この補足説明の2に記載した二つの考え方(取消債権者による直接の引渡請求を否定する考え方,取消債権者による直接の引渡請求を認めた上で相殺を禁止する考え方)のほかに,取消債権者が受益者又は転得者から金銭を受領した時から一定期間(例えば1か月)が経過するまでに,他の債権者(受益者又は転得者を含む。)が債務者の取消債権者に対する金銭債権(取消債権者が受益者又は転得者から受領した金銭の債務者への返還債務)について差押え又は仮差押えをしなかった場合に限り,取消債権者は相殺をすることができるとする考え方があります。

また,上記一定期間の経過に加えて取消債権者が被保全債権について債務名義を有することを要件とする考え方や,上記一定期間の経過は要件とせずに取消債権者が被保全債権について債務名義を有することのみを要件とする考え方もあります。

これらの考え方は,いずれも詐害行為取消権の債権回収機能についての問題点を認識しつつも,相殺による債権回収を全面的に否定するのは相当でないとの観点から,折衷的な考え方を模索しようとするものです。

これらの考え方に対しては,上記一定期間の経過は債務名義の取得や強制執行手続の履践をしないままに強制的な債権回収を実現することを正当化する根拠とはならないとの指摘や,取消債権者が被保全債権について債務名義を有しているのであれば直ちに債権執行手続(自らを取立先とする債権執行手続)を採ればよいとの指摘がされています。

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