司法書士法人・土地家屋調査士法人我孫子総合事務所(横浜)測量・相続・遺言

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債権法の改正・補足説明(その五十七の二)

(補足説明)

1 催告解除の要件の明確化(本文(1))

催告解除制度については,部会において,実務上原則的な解除形態であるとの指摘があり,催告解除制度を維持することについては,異論がありませんでした。

他方,催告解除については,民法第541条の文言上は不履行の程度,態様等につき特段の限定がない一方で,付随的義務等の軽微な義務違反については解除原因とはならないとする判例法理が確立しているとされており(最判昭和36年11月21日,最判昭和42年4月6日等),この判例法理の趣旨を明文化することについても,特段の異論がありませんでした。

以上を踏まえ,本文(1)は,催告解除について規定する民法第541条を基本的に維持した上で,付随的義務違反等の軽微な義務違反が解除原因とはならないとする判例法理に基づき,一定の事由がある場合には解除をすることができない旨の阻却要件を付加するものです。

この阻却要件の主張立証責任は,解除を争う当事者が負うものとしています。

この阻却要件の条文表現については更に検討する必要がありますが,民法第566条第1項や同法第635条が契約の解除につき「契約をした目的を達することができない」という要件を設けていることや,判例上「契約をした目的」を達することができるか否かを解除の可否のメルクマールとしていると考えられるものが多いこと(前記最判昭和36年11月21日等)などを踏まえ,相当の期間が経過した時になお残る不履行が「契約をした目的の達成を妨げるものでないとき」を解除の阻却要件とする考え方を提示しています。

それに該当する具体例としては,相当の期間を経過した時において履行を遅滞している部分が数量的にごく一部である場合や,不履行に係る債務自体が付随的なものであり,契約をした目的の達成に影響を与えないものである場合などが考えられます。

2 無催告解除の要件の明確化(本文(2))

本文(2)は,債務不履行があった場合に,本文(1)の催告を要しないで契約の解除(無催告解除)をするための要件を提示するものです。

本文(2)アは,定期行為の履行遅滞による無催告解除について規定する民法第542条を維持するものです。

本文(2)イは,民法第543条のうち「履行の全部(中略)が不能となったとき」の部分を維持するものです。

この部分(全部不能)は,定型的に契約の目的を達成することができない場合に該当する代表例であり,同ウの要件を検討する必要がないと考えられることから,独立の要件として明示することとしました。

本文(2)ウは,同ア又はイに該当しない場合であっても,債務の不履行によって,本文(1)の催告をしても契約の目的を達成することができないことが明らかなときに,無催告解除をすることができるとするものです。

催告解除における催告の意義は,債務者に履行を完全なものとする(履行の追完をする)機会を与えて契約関係を維持する利益を保護する点にあるとされますが,債務者が「催告を受けても契約をした目的を達するのに足りる履行をする見込みがないこと明白である」ときは,解除に先立って催告することを要求するのが無意味であるとして,不履行当事者への催告による追完の機会の保障を不要とするものです。

同ア(定期行為の無催告解除)とのバランスという観点や,催告解除が実務上の原則とされているとの前述の指摘を踏まえ,「催告を受けても契約をした目的を達するのに足りる履行をする見込みがないこと明らかであるとき」を,解除をする当事者が主張立証すべきものとしています。

民法第543条のうち「履行の(中略)一部が不能となったとき」の部分は,ここに包摂されます。このほか,同ウは,民法第566条第1項や同法第635条による無催告解除も包摂するものとなります。

この「催告を受けても契約をした目的を達するのに足りる履行をする見込みがないことが明白である」ときには,①当該不履行それ自体により,もはや契約目的を達成することができないと評価されるため,そもそも催告要件を課すこと自体が不適切である類型と,②当該不履行をした債務者が催告に応じて履行をすれば債権者にとって契約目的を達成することができるにもかかわらず,債務者が不履行の後に確定的に履行を拒絶しているために,催告をしても無意味であり,かつ、不履行状態が存置されれば契約目的を達成することができない類型とが含まれるとの整理が示されています。

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債権法の改正・補足説明(その五十七の一)

第11 契約の解除

1 債務不履行による契約の解除の要件(民法第541条ほか関係)民法第541条から第543条までの規律を次のように改めるものとする。

(1) 当事者の一方がその債務を履行しない場合において,相手方が相当の期間を定めて履行の催告をし,その期間内に履行がないときは,相手方は,契約の解除をすることができるものとする。ただし,その期間が経過した時の不履行が契約をした目的の達成を妨げるものでないときは,この限りでないものとする。

(2) 当事者の一方がその債務を履行しない場合において,その不履行が次に掲げるいずれかの要件に該当するときは,相手方は,上記(1)の催告をすることなく,契約の解除をすることができるものとする。

ア 契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において,当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したこと。

イ その債務の全部につき,履行請求権の限界事由があること。

ウ 上記ア又はイに掲げるもののほか,当事者の一方が上記(1)の催告を受けても契約をした目的を達するのに足りる履行をする見込みがないことが明白であること。

(3) 当事者の一方が履行期の前にその債務の履行をする意思がない旨を表示したことその他の事由により,その当事者の一方が履行期に契約をした目的を達するのに足りる履行をする見込みがないことが明白であるときも,上記(2)と同様とするものとする。

(注) 解除の原因となる債務不履行が「債務者の責めに帰することができない事由」(民法第543条参照)による場合には,上記(1)から(3)までのいずれかに該当するときであっても,契約の解除をすることができないものと
するという考え方がある

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債権法の改正・補足説明(その五十六)

10 賠償額の予定(民法第420条関係)

(1) 民法第420条第1項後段を削除するものとする。

(2) 賠償額の予定をした場合において,予定した賠償額が,債権者に現に生じた損害の額,当事者が賠償額の予定をした目的その他の事情に照らして著しく過大であるときは,債権者は,相当な部分を超える部分につき,債務者にその履行を請求することができないものとする。

(注1)上記(1)については,民法第420条第1項後段を維持するという考え方がある。

(注2)上記(2)については,規定を設けないという考え方がある。


(補足説明)

1 民法第420条第1項後段の削除について(本文(1))

本文(1)は,民法第420条第1項後段を削除するとするものです。

同項後段は,賠償額の予定がされた場合に,裁判所がこれを増減することができないと明文で規定していますが,このような規定は比較法的にも異例であると言われており,その文言にもかかわらず,実際には,公序良俗(民法第90条)等による制約があることについては異論なく承認されていることを踏まえてのものです。

この点につき,民法第420条第1項後段を維持するとの考え方があり,これを(注1)で取り上げています。

この考え方は,同項後段については,賠償額の予定に対する裁判所の介入が謙抑的であるべきことを示すためにも,これを維持すべきであるとします。

これに対しては,契約内容への裁判所の介入が慎重であるべきであるという一般論は賠償額の予定にのみ妥当するものではありませんから,賠償額の予定に限ってその旨を殊更に規定上明示する合理性の説明は難しいとの批判があり得ます。

また,同項後段の文言については,賠償額の予定につき公序良俗による規制をも含む司法上の救済が一切否定されているという誤ったメッセージになっているとの指摘があります。

2 予定した賠償額が著しく過大な場合に関する規律の新設(本文(2))

本文(2)は,賠償額の予定をした場合において,予定賠償額が著しく過大であったときには,債権者は,相当な部分を越える部分につき,債務者に請求することができないとするものです。

下級審裁判例では,実際に生じた損害額あるいは予想される損害額と比して過大な賠償額が予定されていた場合に,公序良俗違反(民法第90条)とし,一部無効の手法により認容賠償額を減額したものが多いです。

このような裁判実務や,諸外国の立法の動向等をも踏まえ,賠償額の予定についても,債権者に著しく過大な利得を与えるなど不当な帰結に至るような場合には,一定の要件の下で制約が及ぶこととその効果を条文に明記して,当事者の予測可能性を確保することを意図したものです。

本文(2)が適用されるには,予定賠償額が債権者に生じた損害と比べて「著しく過大」であることを要し,単に予定賠償額が債権者に生じた損害額を上回るだけでは足りません。

「著しく過大」か否かは,実際に債権者に生じた損害額に加え,賠償額の予定をした目的等,賠償額の予定をめぐる一切の事情を考慮して評価判断されることになります。

そして,請求することができなくなるのは,あくまで「相当な額」を超える部分ですから,この規定の適用を受ける場合でも,認容される賠償額が実際に生じた損害額を上回ることがあり得ます。

また,著しく過大とされる賠償額の予定に基づき既に損害賠償金を支払っていた場合には,相当な部分を超える部分の返還を求めることができます。

本文(2)については,規定を設けないとの考え方があり,これを(注2)で取り上げています。

賠償額の予定は債務不履行による損害賠償の金額を算定する困難さを克服し,あるいは債務を履行するインセンティブを付与するなど,実務上有用な機能を果たしていることを指摘した上で,それを制約する明文規定を設けることは,有用な賠償額の予定まで効力を否定されるおそれがあるというのです。

一定の場合に賠償額の予定の全部又は一部の効力が否定されるというのは,現在の裁判実務においても行われており,その取扱いを明文化する限り,現状よりも賠償額の予定が不当に広く規制対象となることは考えにくいです。

むしろ,要件効果を明確化することにより,民法第90条の「公の秩序又は善良の風俗」という抽象的な文言の操作に委ねるよりも,判断の予測可能性を高めることができると考えられます。

また,本文(2)の規律が発動されるには,賠償額の予定が「著しく過大」であることを要するものとして,効果発動を真に必要な場面に限定しているほか,「著しく過大」の考慮要素として「賠償額の予定をした目的」を明記して,目的が合理的であることが「著しく過大」か否かの評価に消極的に働くことを明らかにし,賠償額の予定が実務上果たしている機能に配慮しています。

3 予定された賠償額が著しく過小である場合の規律について

予定された賠償額が著しく過小であった場合の取扱いも検討されましたが,そのような賠償額の予定条項は損害賠償責任の減免責条項としての性格を有すると考えられ,損害賠償責任の減免責条項と同様に,公序良俗(前記第1,2)あるいは不当条項規制(後記第30,5)の問題として規律するのが相当であると考えられます。

そこで,予定された賠償額が著しく過小である場合についての規律を設けるとの考え方は,中間試案には盛り込まれませんでした。

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債権法の改正・補足説明(その五十五の三)

続(補足説明)

2 金銭債務の不履行による損害賠償の免責の在り方の見直し(本文(2))本文(2)は,金銭債務の履行遅滞について,債務不履行の一般原則(前記1(2)(3)参照)により免責され得ることを前提に,民法第419条第3項を単純に削除するとするものです。

民法第419条第3項は,金銭債務の不履行につき,「不可抗力をもって抗弁とすることができない」とし,この解釈として,金銭債務の不履行については一切の免責が認められないものとされています。

このように金銭債務の不履行責任の免責に関し極めて厳格な立場を採用している現行民法の立場につき,起草者は,金銭は利息さえ払えば入手できるのですから,債務者にとって調達不可能ということが考えられないことを理由としています。

もっとも,このような我が国の民法の立場は比較法的にも異例であり,金銭債務だけにこのような厳格な態度をとる合理的理由に乏しいとの指摘があります。

また,大規模な自然災害等により地域の経済が甚大な被害を受けるなどして送金等が極めて困難となったのに加えて,債務者の生活基盤も破壊されて弁済に充てるべき資金を失い,弁済のために行動する余裕もないといった場合についてまで履行遅滞につき一切免責が認められないというのは,債務者に過酷であり,具体的妥当性を欠く場合があるとの指摘があります。

本文(2)(3)は,これらを踏まえたものです。

この考え方に対しては,(注2)でも取り上げたように,金銭債務は反復的かつ大量に発生しますから,それにつき逐一免責の可否を問題にすることは紛争解決のコストを不必要に高めるおそれがあると指摘して,民法第419条第3項を維持すべきであるとの考え方があります。

これについては,金銭債務の履行遅滞を免責すべき具体的な必要性が指摘されている以上,紛争解決コストの増加を履行遅滞の免責を一律に否定する理由とするのは説得力に乏しいとの反論が考えられます。

また,金銭債務の履行遅滞につき免責を認めるべき場面があるとしても,それは非金銭債務よりも限定的なものですから,一般原則よりも限定された金銭債務固有の免責事由を条文上明記するとの考え方もあります。

もっとも,非金銭債務であっても,例えば種類物の引渡債務については実際上不可抗力の場合にしか免責が認められていないと考えられていることを踏まえると,金銭債務について一般原則よりも限定的な免責事由として,例えば「不可抗力」などと明記する場合には,それは非金銭債務についてよりゆるやかに免責を認めるとのメッセージともなりかねず,適切でないとの指摘があります。

他方で,このような難点を克服するような金銭債務固有の免責事由を定式化するのも容易ではありません。

結局のところ,金銭債務の不履行の免責事由について,これを一般原則に委ねることとしても,免責の可否の判断において他から調達することが比較的容易であるという金銭債務の性質が考慮される以上(前記第8,1参照),おのずから免責の範囲は非金銭債務よりも限定的なものとなりますから,それで特段の支障はないとの指摘がされています。

このほか,仮に送金等が極めて困難となる場合には,債務者の手元に債権者への支払に充てるべき資金が残ることになりますから,その運用利益(利息等)の限度では債務者には免責を認めず,これを債権者に償還するものとすべきであるとの指摘があります。

この指摘を踏まえると,金銭債務の履行遅滞につき免責事由がある場合であっても,例えば法定利率の限度では免責を認めず,免責を認めるのは法定利率を超える部分のみとすることが考えられます。

この考え方に対しては,遅滞により債務者に運用利益等の利得が現実に生じ得るような局面であることを免責判断において消極事情として評価すれば不当な結論は避けられるとの反論が考えられます。

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債権法の改正・補足説明(その五十五の二)

(補足説明)

1 金銭債務の不履行による損害賠償の範囲に関する規律の見直し(本文(1))

本文(1)は,民法第419条第1項及び第2項の規律を維持しつつ(同条第1項に,変動制による法定利率の適用の基準時を付加することについて,前記第8,4(2)イ参照),契約による金銭債務の不履行については,同条第1項及び第2項によらずに,前記6(損害賠償の範囲についての一般原則)に基づき,不履行による損害の賠償を請求することができるとするものです。

金銭債務の不履行による損害賠償につき,民法第419条第1項及び第2項は利息(法定利率と約定利率のいずれか高い方)に関しては証明を要せずに請求できるものとしています。

他方,判例は,同条第1項所定の額を超える損害の賠償(いわゆる利息超過損害の賠償)を否定しています(最判昭和48年10月11日)。

しかし,流動性の高い目的物の引渡債務を念頭に,非金銭債務と金銭債務とで,損害賠償の範囲につきカテゴリカルに差異を設ける合理性は乏しいとの指摘があります。

そこで,本文(1)は,この判例法理とは異なり,金銭債務の債権者は,同条第1項及び第2項を援用しないで,債務不履行の損害賠償の範囲に関する一般原則(前記6)に基づき,その損害の賠償を請求することができるとするものです。

これにより,金銭債務の不履行により同条第1項が定める額を超える損害を被った債権者は,その損害及び数額を主張立証して,その賠償を請求することができます。

この本文(1)の考え方については,(注1)でも取り上げているように,利息超過損害の賠償を否定している現状を維持すべきであるとして,規定を設けないとの考え方があります。

判例のように利息超過損害の賠償を否定すべきとする見解の根拠としては,①金銭の用途は多様ですから,金銭債務の不履行による損害を判断するのは難しいし,現実の損害は予想外に高額になることがあり,その全てを債務者に賠償させるのは適当でないこと,②金銭は相当の利息を支払えば取得できますから,利息分と損害は一致すると見ることができること,③賠償を遅延損害金に限定することと不可抗力免責を認めないこと(民法第419条第3項)とでバランスがとれていることなどが挙げられており,部会においても,本文(1)のような規定を設けるべきでないとの考え方は,上記のような論拠を援用しています。

他方,利息超過損害の賠償に積極的な立場からは,次のような反論がされています。まず①の点について,金銭の用途が多様であることに起因して金銭債務の不履行と損害との対応関係の判断が容易でないとしても,それは不履行と損害との因果関係の立証が困難であって実際上請求が認容されにくいことを意味するのみであって,賠償の請求を一律に否定する論拠にはなり得ません。

また,賠償すべき損害額が予想外に高額となるおそれがあると指摘についても,そもそもこの指摘が前提とする損害賠償の範囲確定ルールの理解に問題があり,現行民法第416条第1項においても予見可能性で賠償範囲を画するとのルールを採用しているのですから(同条の改正については,前記6参照),予想外に賠償範囲が拡大することは通常あり得ないとの反論がされています。

②の指摘についても,諾成的消費貸借に基づく貸付義務の不履行の場面などを念頭に,一定のプロジェクトに資金投下する目的で融資するような局面においては,代替的な融資先を探すのに要する費用や支払利息が法定利率を上回ることが稀ではなく,利息超過損害の賠償を認めるべき実務上のニーズは存在すると指摘されています。

なお,③の指摘については,後記のように,今回の改正で同法第419条第3項を削除し,金銭債務の履行遅滞に関する免責の可否を債務不履行の一般原則に委ねるものとしています。

他方,契約以外を原因とする金銭債務については,損害賠償の範囲に関する独自のルールを設けずに解釈に委ねることとの関係で(この点につき,前記6参照),金銭債務の不履行による利息超過損害を請求することの可否も,引き続き解釈に委ねるものとしています。

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債権法の改正・補足説明(その五十五の一)

9 金銭債務の特則(民法第419条関係)

(1) 民法第419条の規律に付け加えて,債権者は,契約による金銭債務の不履行による損害につき,同条第1項及び第2項によらないで,損害賠償の範囲に関する一般原則(前記6)に基づき,その賠償を請求することができるものとする。

(2) 民法第419条第3項を削除するものとする。

(注1)上記(1)については,規定を設けないという考え方がある。

(注2)上記(2)については,民法第419条第3項を維持するという考え方がある。

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債権法の改正・補足説明(その五十四)

8 損益相殺

債務者が債務の不履行による損害賠償の責任を負うべき場合において,債権者がその不履行と同一の原因により利益を得たときは,裁判所は,これを考慮して,損害賠償の額を定めるものとする。

(補足説明)

債務不履行により債権者が損害を被る反面において利益を得た場合に,賠償されるべき額を算定するに当たって,当該利益を賠償すべき額の減額要因として考慮する取扱い(いわゆる損益相殺)は,一般的な考え方として実務に定着しており,学説にも異論がないと考えられます。

この損益相殺という概念につき,講学上は,逸失利益から生活費を控除するような場面を念頭に置いた理解が示されることが多いと思われますが,このような取扱いは損益相殺の問題ではなく,損害額の算定(債権者に生じた損害の金銭的評価)の問題であるとの理解もあり得ます。

また,債権者(被害者)が損害発生と同時に第三者から金銭等の給付を受ける権利を得た場合に,その額を賠償額から控除すべきか否かがしばしば問題となります(いわゆる損益相殺的調整。最大判平成5年3月24日)が,これが損益相殺と同一の概念か否かについても,理解が分かれているように思われます。

もっとも,損益相殺ないし損益相殺的調整をいかなる概念として理解するかにかかわらず,債権者が債務不履行と同一の原因により利益を得た場合に,債権者が利益を得たことを最終的な賠償額算定に至るまでのプロセスにおいて,賠償額の減額要因として考慮すべきことについては,異論なく承認されています。

以上を踏まえ,債務不履行と同一の原因により得た利益の取扱いにつき,異論がないところを明文化するものです。

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債権法の改正・補足説明(その五十三)

7 過失相殺の要件・効果(民法第418条関係)

民法第418条の規律を次のように改めるものとする。

債務の不履行に関して,又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して,それらを防止するために状況に応じて債権者に求めるのが相当と認められる措置を債権者が講じなかったときは,裁判所は,これを考慮して,損害賠償の額を定めることができるものとする。


(補足説明)

1 現行民法第418条は,債務不履行につき債権者に過失があった場合の過失相殺を規定していますが,この規定については,要件及び効果の両面について,以下の改正を施すものとしています。

2 要件面の見直し

民法第418条の文言では,債務の不履行に関する過失のみが取り上げられていますが,債務不履行による損害の発生又は拡大に関して債権者に過失があった場合にも過失相殺が可能であることは,異論なく承認されています。

このことを規定上も明確化するものとしています。

民法第418条の「過失」という概念については,裁判実務においては,同法第709条の「過失」と同様の意味であるとは解されておらず,損害の公平な分担という見地から,債権者が損害を軽減するために契約の趣旨や信義則に照らして期待される措置をとったか否かによって判断されている(いわゆる損害軽減義務の考え方)との指摘があります。

近時の判例にも,同法第416条第1項の「通常生ずべき損害」の解釈においてですが,賃借人が損害の回避又は減少のための措置を講ずることができたと解される時期以降の営業利益相当の損害の賠償の全てについて賠償を求めることはできないとするものがあります(最判平成21年1月19日)。

これらを踏まえ,民法第418条の「過失」という要件につき,「状況に応じて債権者に求めるのが相当と認められる措置を債権者が講じなかったとき」と改めていますが,この文言の当否については引き続き検討する必要があります。

ここで「状況に応じて」としていますのは,契約の趣旨や信義則を踏まえて,損害の軽減等のために,不履行又は損害の発生・拡大が生じた時点において債権者にいかなる措置を期待することができたかを画定すべきことを示す趣旨です。

不履行や損害が生じた時点ではおよそ知ることが期待できなかった事情が事後的に判明した場合に,そのことをいわば後知恵的に「債権者に求めるのが相当な措置」の画定に当たって考慮するものではありません。

部会においては,損害軽減義務という考え方を参照することに対し,義務が広く解釈されることで債権者に過酷な結論となることへの危惧が表明されました。

また,損害軽減義務の発想から過失相殺の規定を構成し直す考え方に対して,損害軽減義務という債権者の行為義務に基づく軽減要素というだけで現在の過失相殺が果たしている機能を吸収しきれるのか疑問があり,当事者双方のバランスを考慮することができる要件が望ましいとする指摘がされました。

これらの指摘に対しては,損害軽減のために債権者に一定の行動が求められる根拠は契約の趣旨や信義則にあり,そのことを明記すれば現在の実務運用の明文化にほかならないのですから,不当な拡大解釈のおそれはありませんし,当事者双方のバランスを考慮することも可能になるとの反論が考えられます。

なお,安全配慮義務違反等による人身損害の賠償においては,いわゆる被害者の素因の取扱い(損害の発生・拡大に被害者の肉体的・精神的要因が寄与したことを損害賠償の減額要因として考慮すること)が問題となりますが,これについて,裁判実務では民法第422条の類推適用として処理することが多いと考えられます。

同条を本文のように改めた後の被害者の素因の取扱いについても,引き続き本文の規律を手掛かりとした解釈論に委ねられます。

3 効果面の見直し

民法第418条は,債権者の過失を考慮して「損害賠償の責任及びその額を定める」としていますが,この文言からは,過失相殺が必要的であり,かつ,過失相殺により損害賠償の責任そのものを否定することが可能であると読めます。

しかし,不法行為に関する過失相殺を規定する同法第722条は,過失相殺を裁量的なものとしているとともに,責任自体の否定(全額の免除)はできないものとされていますが,債務不履行に関する過失相殺についても,同様の取扱いをすべきであるとの指摘があります。

そこで,債務不履行による損害賠償に関する過失相殺についても,民法第722条に合わせて,過失相殺をするか否かにつき裁判所の裁量の余地があることと,過失相殺の効果として損害賠償の減額のみをすることができる(全額の免除まではできない)旨を,条文上明記するものとしています。

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債権法の改正・補足説明(その五十二の二)

(補足説明)

1 損害賠償の範囲を規定する民法第416条については,ドイツにおける相当因果関係論の影響を受けて我が国における解釈論が展開してきたという経緯から(学説の展開等については,部会資料5-2第2,4(1)[34頁]も参照),条文にはない「相当性」という文言が実務上広く用いられるなど,同条の文言からは,現在の裁判実務が依拠している具体的ルールを容易に読み取ることができない状況となっています。

このような現状認識については,部会のこれまでの審議においても,おおむね異論がありませんてでした。

そこで,民法第416条については,現在の裁判実務を踏まえつつ,より明確で安定したルールを提示するものに改める必要があると考えられます。

本文(1)(2)は,以上のような問題意識に基づき,契約による債務の不履行による損害賠償の範囲に関するルールとして,同条の規定内容の具体化・明確化を図るものです。

2 本文(1)は,債務不履行による損害賠償の範囲を定める民法第416条について,同条第1項の文言を基本的に維持しつつ,同条第2項にいう予見の主体・時期を明示するなど,規定内容の具体化・明確化等を図るものです。

(1) 本文(1)ア本文(1)アは,民法第416条第1項の「通常生ずべき損害」という文言を維持するものです。これは,「通常生ずべき損害」という区分を維持すべきであるという主に実務界の意見に基づくものです。

これに対し,「通常生ずべき損害」という概念は不要であるとの考え方があります。

すなわち,通常損害とは定型的に予見可能な損害と解するのが一般的な理解ですが,そうすると,ある損害が賠償範囲に取り込まれるか否かの判断は,結局のところ,本文(1)イに該当するか否かのみを問題とすれば足りるはずです。

このような見地からは,本文(1)アという区分は必要でないことから,規定構造を簡明にする趣旨で本文(1)ア
の「通常生ずべき損害」という文言を削除すべきであるとの考え方があります。

この考え方を(注1)で取り上げています。

(2) 本文(1)イ本文(1)イでは,「特別の事情によって生じた損害」(特別損害)が賠償の対象となるための要件を定める民法第416条第2項につき,以下のような改正を加えるものとしています。

まず,「予見」の対象を「損害」に改めています。

「事情」と「損害」とはもともと截然と区別できないものであって,予見の対象を「損害」としても具体的な事案における結論に差は生じないとの指摘があることを考慮したものです。

なお,「損害」の意義につき,金銭評価を経ない事実として捉えるか,金銭評価を経た賠償されるべき数額として捉えるかについては,引き続き解釈に委ねるものとしています。

当該損害が賠償の対象となるための要件である「予見」が,当該損害につき当該不履行から生じる蓋然性についての評価を含む概念であることを明確にするために「当該不履行から生ずべき結果」という表現を用いています。

以上に対し,民法第416条第2項が予見の対象を「(特別の)事情」としているのを維持しつつ,予見の主体及び基準時につき,以下に述べるような判例法理を明記するのにとどめるべきであるとの考え方があり,これを(注2)で取り上げています。

これは,現行法との連続性を重視すべきとする考え方であると思われますが,予見の対象を「事情」とすべきとする考え方に対しては,損害自体の予見可能性と因果関係判断の基礎となる事情の予見可能性とを厳密に区別できるのか疑問があるとの指摘や,実際に多くの裁判例も,予見の対象を厳密に論じているわけではありませんから,「事情」と「損害」の厳密な区別はむしろ実務の実態に即していないとの指摘があります。

民法第416条第2項における予見の主体と基準時について,判例・通説は,予見の主体は債務者で,予見可能か否かの基準時は不履行時と解しているとされます(大判大正7年8月27日)。

これを踏まえ,この判例法理を条文に明記することにより,規定内容の明確化を図っています。

民法第416条第2項の「予見することができた」という文言を「予見すべきであった」と改めています。

ここにいう予見可能性とは,ある損害が契約をめぐる諸事情に照らして賠償されるべきか否かを判断するための規範的な概念であるとされており,そのことをより明確に法文上表現するのが適切であると考えられることによります。

このような賠償範囲の確定は,契約の趣旨に照らして評価判断されるべきであると考えられることから,本文(1)イに「当該契約の趣旨」(その意義につき,前記第8,1参照)という判断基準を明示しています。

3 本文(2)は,本文(1)記載の要件に該当する損害のうち,債務者が契約を締結した後に初めて予見し,又は予見すべきとなったものについては,当該損害を回避するために契約の趣旨に照らして相当と認められる措置を講じた場合には,債務者が当該損害の賠償を免れるものとしています。

本文(1)の規律のみを設ける場合には,契約締結時と履行期が離れている場合に,契約締結後に予見し又は予見すべきものとなった損害を全て賠償の対象とすることになり得ますが,それでは賠償範囲が広くなり過ぎて妥当でないとの指摘があることを踏まえたものです。

4 なお,契約以外(事務管理,不当利得及び不法行為)による債務の不履行による損害賠償の範囲については,特段の規定を設けず,解釈に委ねるものとしています。

これは,異論のない内容による要件設定が困難であることのほか,以下のような考慮に基づきます。

民法第416条の解釈論は,不法行為に類推適用される場面を除き,これまで専ら契約上の債務の不履行を念頭に展開されてきたように思われますが,まず,事務管理及び不当利得につき,同条の適用が問題となる場面が実際上乏しく,それを念頭に置いた解釈論が展開されていないように思われます。

そこで,事務管理及び不当利得に関して言えば,同条に代替する格別の規定を設けず,改正後の規定(専ら契約上の債務の不履行に関するもの)を手掛かりとする解釈論に委ねることとしても,実務上の支障はないとも考えられます。

不法行為(民法第709条)による損害賠償の範囲について,判例は,民法第416条が「相当因果関係論」を定めたものであるとの理解を前提に,不法行為による損害賠償の範囲を画定する際にも同条を類推適用する立場をとっています(大判大正15年5月22日)。

ここで,民法第416条につき契約による債務に適用場面を限定することにより,不法行為への類推適用が困難となるとの指摘が想定されますが,本文の規律は,予見可能性を基本的な賠償範囲確定の基準として維持し,予見の主体・時期につき判例法理を踏襲するなど,実質的な規定内容を大きく改めるのではないことから,新たに格別の規定を設けなくても,解釈論に委ねることで実務上の支障はないと考えられます。

なお,同条が相当因果関係論を定めた条文であると理解することに対しては,有力な批判があることに加え,同条を不法行為に類推適用することについても,債権債務関係に立っていない当事者間に生ずる損害賠償の範囲を画する基準として予見可能性を用いるのは適切でないとの指摘や,下級審裁判例を中心に,裁判実務において,同条の要件である予見可能性が不法行為による損害賠償の範囲を画定する基準として重視されているわけではないとの指摘があることにも留意する必要があります。

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債権法の改正・補足説明(その五十二の一)

6 契約による債務の不履行における損害賠償の範囲(民法第416条関係)

民法第416条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 契約による債務の不履行に対する損害賠償の請求は,当該不履行によって生じた損害のうち,次に掲げるものの賠償をさせることをその目的とするものとする。

ア 通常生ずべき損害
イ その他,当該不履行の時に,当該不履行から生ずべき結果として債務者が予見し,又は契約の趣旨に照らして予見すべきであった損害

(2) 上記(1)に掲げる損害が,債務者が契約を締結した後に初めて当該不履行から生ずべき結果として予見し,又は予見すべきものとなったものである場合において,債務者がその損害を回避するために当該契約の趣旨に照らして相当と認められる措置を講じたときは,債務者は,その損害を賠償する責任を負わないものとする。

(注1)上記(1)アの通常生ずべき損害という要件を削除するという考え方がある。

(注2)上記(1)イについては,民法第416条第2項を基本的に維持した上で,同項の「予見」の主体が債務者であり,「予見」の基準時が不履行の時であることのみを明記するという考え方がある。

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債権法の改正・補足説明(その五十一)

5 代償請求権

履行請求権の限界事由が生じたのと同一の原因により債務者が債務の目的物の代償と認められる権利又は利益を取得した場合において,債務不履行による損害賠償につき前記1(2)又は(3)の免責事由があるときは,債権者は,自己の受けた損害の限度で,その権利の移転又は利益の償還を請求することができるものとする。

(注)「債務不履行による損害賠償につき前記1(2)又は(3)の免責事由があるとき」という要件を設けないという考え方がある。


(補足説明)
1 判例は,「一般に履行不能を生ぜしめたと同一の原因によって,債務者が履行の目的物の代償と考えられる利益を取得した場合には,公平の観念にもとづき,債権者において債務者に対し,右履行不能により債権者が蒙りたる損害の限度において,その利益の償還を請求する権利を認めるのが相当」(最判昭和41年12月23日)として,いわゆる代償請求権を肯定しています。

明文の規定はないものの,民法第536条第2項ただし書はこの法理の表れと解されており,学説にも異論は見られません。本文は,この代償請求権を明文化するものです。

本文においては,代償請求権の対象を「代償と認められる権利又は利益」と表現しています。

何がこれに該当するかは解釈に委ねられますが,その代償請求権の対象となる利益や権利の典型例として,第三者に対して有する損害賠償請求権,保険金として受領した金銭ないし保険金請求権等が指摘されています。

また,代償請求権は,債務者が第三者に対して有する権利の移転を求めることも内容としています(具体的には,債務者に対し,当該債権の移転の意思表示とその移転の対抗要件具備を請求することになります。)。

このことを踏まえ,代償請求権の行使については,上記判例が示した要件に加え,履行に代わる損害賠償請求権につき債務者に免責事由があること要するものとして,代償請求権の行使は補充的に認められるものとしています。

これは,代償請求権と履行に代わる損害賠償請求権とを単純に競合させると,代償請求権の行使が債務者の財産管理に対する干渉となり得ることを考慮したものです。

すなわち,履行に代わる損害賠償請求権と代償請求権とを単純に競合させていずれを行使するかを債権者の選択に委ねる場合,債権者がその引き当てとなる財産を債務者の意向にかかわらず選択できる余地が生じます。

例えば,債務者には現金預金等が潤沢にあり,これにより履行に代わる損害賠償(填補賠償)を履行することを望んでいるにもかかわらず,債権者があえて代償請求権を選択して保険金請求権の移転を請求することが考えられますが,これは債務者の財産管理に関する干渉となる側面があると考えられるのです。

これに対し,代償請求権を補充的な救済手段として位置付ける必要はないとして,債務者が履行に代わる損害賠償義務を免れるとの要件は不要であるとの考え方があり,これを(注)で取り上げています。

この考え方は,履行に代わる賠償請求権と代償請求権とのいずれを行使するかを債権者の選択に委ねることがむしろ債権者の利益の観点から望ましいとの考え方に基づきます。

重複填補の回避といった両者の関係の調整は,請求権競合という一般的な問題の枠内で解決するものと考えられます(本文の規律によれば,代償請求権と填補賠償との間で請求権競合の問題は生じません。)。

また,代償請求権につき,判例(前記最判昭和41年12月23日)は「債権者が蒙りたる損害の限度において」という限定を付しています。

これを踏まえ,本文では,代償請求権を行使できる上限として「自己の受けた損害の限度」という要件を設けています。

2 代償請求権の法的な位置付けについては,議論があるが,債務不履行による損害賠償の可能性が尽きたときの補充的な救済手段であると考えられることを踏まえ,中間試案においては,債務不履行による損害賠償のパートに置いています。

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債権法の改正・補足説明(その五十)

4履行遅滞後に履行請求権の限界事由が生じた場合における損害賠償の免責事由

履行期を経過し債務者が遅滞の責任を負う債務につき履行請求権の限界事由が生じた場合には,債務者は,その限界事由が生じたことにつき前記1(2)又は(3)の免責事由があるときであっても,前記3の損害賠償の責任を負うものとする。

ただし,履行期までに債務を履行するかどうかにかかわらず履行請求権の限界事由が生ずべきであったとき(前記1(2)又は(3)の免責事由があるときに限る。)は,その責任を免れるものとする。

(概要)

債務者に帰責事由がある履行遅滞中に履行不能が生じた場合には,履行不能につき債務者の帰責事由がない場合であっても,債務者は不履行による損害賠償責任を負うとするのが判例(大判明治39年10月29日民録12輯641頁等)であり,学説にも異論を見ない。

また,この場合であっても,債務者の帰責事由がない履行不能が履行を遅滞するか否かにかかわらずに生じたと認められる場合には,債務者が債務不履行による損害賠償責任を免れることにつき,異論はない。

以上の規律を明文化するものである

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債権法の改正・補足説明(その四十九)

3 債務の履行に代わる損害賠償の要件(民法第415条後段関係)

民法第415条後段の規律を次のように改めるものとする。

(1) 次のいずれかに該当する場合には,債権者は,債務者に対し,債務の履行に代えて,その不履行による損害の賠償を請求することができるものとする。

ア その債務につき,履行請求権の限界事由があるとき。
イ 債権者が,債務不履行による契約の解除をしたとき。
ウ 上記イの解除がされていない場合であっても,債権者が相当の期間を定めて債務の履行の催告をし,その期間内に履行がないとき。

(2) 債務者がその債務の履行をする意思がない旨を表示したことその他の事由により,債務者が履行をする見込みがないことが明白であるときも,上記(1)と同様とするものとする。

(3) 上記(1)又は(2)の損害賠償を請求したときは,債権者は,債務者に対し,その債務の履行を請求することができないものとする。


(補足説明)

1 本文(1)は,民法第415条後段の履行不能による損害賠償に相当する規定として,新たに,債権者が債務者に対してその債務の履行に代えて不履行による損害の賠償(填補賠償)を請求するための要件を定めるものです。

填補賠償の具体的な要件については,現行民法には明文規定がありませんから,一般的な解釈等を踏まえてそのルールを補うものです。もとより,前記1(2)(3)の免責事由がここでも妥当することを前提としています。

本文(1)アは,ある債務が履行請求権の限界事由に該当する(履行不能である)場合に,填補賠償請求権を行使することができるという,異論のない解釈を明文化するものです。

現在の民法第415条後段の「履行をすることができなくなったとき」に相当するものですが,履行請求権の限界事由につき前記第9,2のとおり規定を設けるものとしており,アでは,それを引用して,履行に代わる損害賠償を請求するための要件として規定するものとしています。

なお,同条後段の「債務者の責めに帰すべき事由」については,債務不履行による損害賠償一般の免責事由として前記1(2)(3)において取り扱っています。

本文(1)イは,債務者の債務不履行により債権者が契約の解除をしたことを,填補賠償を請求するための要件として明記するものである。前記1(2)の免責事由がここでも妥当しますから,債務者に帰責事由がある不履行により債権者が契約の解除をした場合の帰結として従来から異論がないとされるところを明文化するものです。

なお,催告解除(後記第11,1(1))に関して言えば,本文(1)イの要件は本文(1)ウの要件に包摂される関係にありますが,無催告解除(同1(2)(3))については本文(1)ウに包摂されていませんから,この点で,本文(1)イの要件に固有の存在意義があります。

本文(1)ウは,債権者が相当の期間を定めて履行の催告をしたにもかかわらず債務者が当該期間内に履行をしなかった場合(民法第541条参照)には,契約の解除をしなくても填補賠償を請求することができる旨を定めるものです。

履行遅滞に陥った債務者に対して填補賠償請求権を行使するための要件として契約の解除が必要かについては,不要とされる場合ある旨を示唆した古い判例(大判大正4年6月12日,大判大正7年4月2日)があります。

他方,学説においては,かつては必要説と不要説が対立しているとされていましたが,近時は,債権者の実効的な救済という観点から,履行請求権と填補賠償請求権の併存を認めて,その選択的な行使を認めるべきであるとの考え方が有力であると言われています。

具体的には,次のような場面で,履行に代わる損害賠償の請求を認めるべき実益があると指摘されています。例えば,継続的供給契約の給付債務の一部に不履行があった場合に,継続的供給契約自体は解除しないで,不履行に係る債務のみについて填補賠償を請求するような場面や,交換契約のように自己の債務を履行することに利益があるような場面で,債権者が契約の解除をしないで自己の債務は履行しつつ,債務者には填補賠償を請求しようとする場面です。

本文(1)ウは,このような実益に基づく要請に応えようとするものである。債務者が履行の追完をする利益に配慮する観点から,催告解除に関する民法第541条にならい,債権者が相当の期間を定めた催告をし,債務者がその間に履行をしないことを要件としています。

2 本文(2)は,履行期の前後を問わず,債務者が履行の意思がないことを表示したことなどにより,履行をする見込みがないことが明白な場合を,填補賠償を請求するための要件として条文上明記するものです。

履行期前の履行拒絶によって履行に代わる損害賠償を請求できるか否かについて明示に判断した判例はありませんが,履行不能を柔軟に解釈して対処した判例があるとの指摘があるほか,履行期前であっても履行が得られないことが明らかとなった場合には,履行期前に履行不能になったときと同様に填補賠償請求権を行使できるようにすることが適切であるとの指摘があります。

また,履行期前の履行拒絶の場合にも,債権者が契約を解除しないで填補賠償を請求できるようにすることに実益があると考えられることは,上記(1)ウと同様です。本文(2)は,これらを踏まえたものです。

3 本文(3)は,本文(1)又は(2)により履行に代わる損害賠償の請求をした後は,履行請求権を行使することができないものとしています。本文(1)ウと本文(2)のように履行請求権と填補賠償請求権とが併存する状態を肯定する場合には,本来の履行請求と填補賠償請求のいずれを履行するかがいつまでも不確定であると,債務者が不安定な地位に置かれ得ることなどを考慮したものです。

規定の具体的な仕組み方は引き続き検討する必要がありますが,例えば,選択債権の規律にならったものとすることが考えられます(民法第407条,第408条参照)。

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債権法の改正・補足説明(その四十八)

2 履行遅滞の要件(民法第412条関係)

民法第412条の規律を維持した上で,同条第2項の規律に付け加えて,債権者が不確定期限の到来したことを債務者に通知し,それが債務者に到達したときも,債務者はその到達の時から遅滞の責任を負うものとする。

(補足説明)

民法第412条第2項は,不確定期限のある債務につき,不確定期限の到来を債務者が知った時点から履行遅滞となる旨規定していますが,通説は,同項につき,債権者による催告がなくとも債務者が不確定期限の到来を知ればその時に遅滞に陥るという意味であると解するとともに,債権者が債務者に不確定期限の到来を通知してそれが債務者に到達した場合にも,債務者はその到達を知らなくても,到達の時に遅滞に陥ると解しています。

結局,債務者が期限到来を知った時点と期限到来の通知到達の時点のいずれか早い時点から,債務者は遅滞に陥ることとなります。

本文は,学説上確立しているとされるこのような解釈を条文上明記するものです。

なお,民法第412条第1項及び第3項については,基本的にその規定内容を維持することを想定しています。

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債権法の改正・補足説明(その四十七の二)

(補足説明)

1 債務不履行による損害賠償の一般的・包括的な根拠規定(本文(1))債務不履行による損害賠償の根拠規定である民法第415条に関しては,民法第415条後段が規定する履行に代わる損害賠償(填補賠償)の要件を具体化・明確化する観点から規定の拡充をすることや,遅延賠償の要件としての民法第412条の所要の見直しなどについて検討しています(後記2及び3)。

しかし,債務不履行の態様は多種多様ですから,債務不履行による損害賠償の要件の具体化を図る場合であっても,それらを包摂するような一般的・包括的な要件を用意しておく必要があります。

そこで,本文(1)は,債務不履行による損害賠償に関する一般的・包括的な根拠規定として,民法第415条前段の規律を維持するものです。

もっとも,同条前段の「本旨」という言葉は,今日では法令上の用語として「本質」といった意味で用いられることがありますが,「本旨」という言葉は損害賠償の要件としての債務不履行の態様等を限定する趣旨であるとの解釈論は見当たりません。

「本旨不履行」という言葉が用いられることがありますが,これは単に債務の内容どおりに履行をしないことを指すと考えられます。そうすると,「本旨」という言葉を用いることは,損害賠償の原因となるべき債務不履行は単なる債務不履行では足りないとの誤読を招くおそれがあると考えられます。

そこで,このような誤読を避ける趣旨で,本文では,「本旨」その他の限定的な文言を付さないで「債務の履行をしないとき」と表現しています。この「債務の履行をしないとき」は,全く履行しない場合(無履行)のほか,一応の履行はあるもののそれが必要な水準に満たない場合(不完全履行)をも包含する趣旨です(民法第541条参照)。

2 債務不履行による損害賠償の免責事由(本文(2)(3))

(1) 免責事由とその判断基準の明文化

民法第415条後段は,履行不能の場合の損害賠償の要件につき「債務者の責めに帰すべき事由」(帰責事由)によって履行ができなくなったことを要するとしていますが,同条前段にはこれに相当する要件が定められていません。

他方,同法第419条第3項は,金銭債務の履行遅滞につき,「不可抗力をもって抗弁とすることができない」としています。

そうすると,その反対解釈から,非金銭債務の不履行による損害賠償については不可抗力のみが免責事由となると読むのが素直な解釈であるようにも思われますが,このような規定の体裁にかかわらず,ドイツの学説の影響の下に展開された伝統的な学説は,債務不履行の態様を遅滞,不能,不完全履行に三分した上で,帰責事由が明記されている履行不能だけでなく,損害賠償の要件として履行遅滞や不完全履行(以下「履行遅滞等」と言う。)の場合にも債務者の帰責事由を必要とする一方,主張立証責任の観点からは,履行遅滞等及び履行不能のいずれの場合にも,債務者が債務不履行について帰責事由の不存在を免責事由として主張立証すべきものと解しています。

近時の学説も,後記のように,伝統的学説が示す帰責事由の具体的内容の理解に対しては批判をするものの,債務不履行の原因が一定の要件を満たすこと(帰責事由の不存在又は免責事由の存在)を債務者が主張立証したときは損害賠償の責任を免れることについては,異論がありません。

そうすると,債務不履行があった場合には原則としてその不履行による損害を賠償する責任を負いますが,その原因が一定の事由に該当するときは,不履行による損害賠償につき免責される旨を条文上明記するのが相当です。

この場合には,債務不履行による損害賠償につき免責の可否の判断基準を何に求めた上で,その基準をどのように条文上明記するかが検討課題となります。

伝統的通説においては,「債務者の責めに帰すべき事由」(民法第415条後段)とは,故意,過失又は信義則上それと同視すべき事由を意味するとされてきました。

この考え方に対しては,近時の学説から,とりわけ契約による債務を念頭に,債務者の行動の自由を前提とした過失責任主義(故意過失がない限り自らの活動から生じた損害に対して責任を負わなくてよいという考え方)を契約関係に持ち込むことへの批判があるとともに,裁判例の分析等を通じて,裁判実務においても「債務者の責めに帰すべき事由」が,債務者の心理的な不注意や,契約を離れて措定される注意義務の違反といった,本来の意味での過失として理解されているわけではないことが指摘されています。

そして,部会の審議においても,契約による債務の不履行による損害賠償につき免責を認めるべきか否かは,契約の性質,契約をした目的,契約締結に至る経緯,取引通念等の契約をめぐる一切の事情から導かれる契約の趣旨に照らして,債務不履行の原因が債務者においてそのリスクを負担すべき立場にはなかったと評価できるか否
かによって決せられるとの考え方が,裁判実務における免責判断の在り方に即していることにつき,異論はありませんでした。

以上を踏まえ,本文(2)(3)では,債務不履行による損害賠償につき免責される要件を,以下のように定めるものとしています。

まず,本文(2)(3)を通じて,債務不履行の原因が「債務者の責めに帰することのできない事由」によるものであるときには,債務不履行による損害賠償の責任を負わない旨を規定するものとしています。

民法415条後段で用いられている「債務者の責めに帰すべき事由」を免責事由であることに即した表現である「債務者の責めに帰することのできない事由」とした上で,これを「債務者がそのリスクを負担すべきであっ
たと評価できないような事由」を意味する言葉として維持するものです。

「責めに帰することのできない」という現行法の文言を維持することについては,伝統的な定式である故意過失等という理解を維持するとのメッセージになりかねないとの批判が想定されますが,もともと「責めに帰することのできない」という言葉自体は一定の理論的立場を想起させるようなものではありませんし,後述するように「契約の趣旨に照らして」といった判断基準を付加することにより,当該契約の具体的事情を離れた抽象的な故意過失等を意味するなどといった解釈を封ずることができると考えられます。

そして,契約による債務にあっては,その基本的な判断基準が当該契約の趣旨に求められることを付加する考え方を提示しています(本文(2))。

「契約の趣旨」という文言の意味については,前記第8,1と同様です。

他方,契約以外による債務(事務管理,不当利得及び不法行為)にあっては,契約による債務についての規定内容とパラレルに,債務不履行の原因につき債務者においてそのリスクを負担すべきであったか否かを,債務の発生原因たる事実及びこれをめぐる一切の事情(これを「債務が生じた原因その他の事情」と表現しています。)に照らして判断されることを示すものとしています(本文(3))。

(2) 金銭債務の取扱い

本文(2)(3)の規律は,金銭債務の特則である民法第419条第3項を削除することに伴い,金銭債務にも適用される(後記9参照)。その発生原因が契約であるか否かを問いません。

この点については,不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償債務の遅延損害金につき,免責が認められる場面が実際上想定できるのかについて疑問を呈する意見もあります。

しかし,不法行為に関しても,遅滞につき免責の可能性を完全には否定しないのであれば,免責の可否は本文(3)の規律に委ねて差し支えないものと考えられます。

もとより,これによるとしても,不法行為による損害賠償債務につき履行遅滞の免責の可否を被害者保護といった不法行為の制度目的をも踏まえて判断するのであれば,免責が肯定されるのは極めて例外的な場面であると考えられますが,具体的な免責判断の在り方については,本文(3)の要件の下での解釈運用に委ねられます。

3 なお,履行不能による損害賠償の要件に関する民法第415条後段の規定内容は,履行に代わる損害賠償に関する規定として別途取り上げています(後記3)。

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債権法の改正・補足説明(その四十七の一)

第10 債務不履行による損害賠償

1 債務不履行による損害賠償とその免責事由(民法第415条前段関係)民法第415条前段の規律を次のように改めるものとする。

(1) 債務者がその債務の履行をしないときは,債権者は,債務者に対し,その不履行によって生じた損害の賠償を請求することができるものとする。

(2) 契約による債務の不履行が,当該契約の趣旨に照らして債務者の責めに帰することのできない事由によるものであるときは,債務者は,その不履行によって生じた損害を賠償する責任を負わないものとする。

(3) 契約以外による債務の不履行が,その債務が生じた原因その他の事情に照らして債務者の責めに帰することのできない事由によるものであるときは,債務者は,その不履行によって生じた損害を賠償する責任を負わないものとする。

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債権法の改正・補足説明(その四十六)

3 履行の強制(民法第414条関係)

民法第414条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 債権者が債務の履行を請求することができる場合において,債務者が任意に債務の履行をしないときは,債権者は,民事執行法の規定に従い,直接強制,代替執行,間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができるものとする。ただし,債務の性質がこれを許さないときは,この限りでないものとする。

(2) 上記(1)は,損害賠償の請求を妨げないものとする。

(3) 民法第414条第2項及び第3項を削除するものとする。

(注)上記(3)については,民法第414条第2項及び第3項の削除に伴って,その規定内容を民事執行法において定めることと併せて,引き続き検討する必要がある。

(補足説明)
1 債権の基本的効力としての履行の強制(本文(1))履行の強制について定める民法第414条(とりわけ第1項から第3項まで)については,かねてより,同条が公権としての強制執行請求権(第1項)及び強制執行の方法(第2項及び第3項)を定めたものであると理解する立場から,実体法である民法中に規定するのにふさわしくない旨の指摘があります。

他方で,国家の助力を得て強制的にその実現を図ることができること(履行の強制が可能であること)自体は債権の実体法的効力の一つであるとするのが,近時の学説の一般的な理解であると思われます。

以上を踏まえ,本文(1)は,債権の基本的効力の一つとして,国家の助力を得て強制的にその内容の実現を図ることができること(履行の強制)を定めるものです。民法第414条第1項の規定内容を基本的に維持しつつ,実体
法と手続法を架橋する趣旨で,履行の強制の方法が民事執行法により定められる旨の文言を付加しています。

その際,直接強制,間接強制,代替執行といった執行方法のメニューを例示として掲げています。

それぞれの執行方法がどのような場面で発動し得るかについては,民法では規定せず,民事執行法に委ねるものとしています。

民法第414条第1項の「強制履行」という文言については,民事執行法上の強制執行という用語との関係が分かりにくいという指摘があることなどを踏まえ,「履行の強制」に改めるものとしています。

また,この「強制履行」については,代替執行について定める同条第2項の「債務の性質が強制履行を許さない場合」という要件との関係で,直接強制を意味するとの解釈がありますが,この点については,後記のとおり同条第2項及び第3項を削除するものとしていることと,「履行の強制」が「直接強制,代替執行,間接強制その他の方法」による旨を示すことにより,「履行の強制」について同様の解釈がされる余地はないものと考えられます。

民法第414条第1項ただし書の規律内容は維持するものとしていますが,これは,直接強制が許されない場合(同条第2項参照)という意味ではなく,債務の性質上,強制的な債務内容の実現になじまない場合(例として,画家の絵を描く債務等が挙げられる。)を意味するものです。

2 本文(2)は,民法第414条第4項の規定内容を維持するものです。

3 本文(3)は,民法第414条第2項及び第3項を削除するものです。

これらの規定は,代替執行によるべき場合及び代替執行の具体的方法を規定内容に含んでいる(民事執行法第171条第1項参照)。代替執行については,起草者により損害賠償の方法の一つという理解が示されていましたが,今日においては強制執行の方法のひとつであることにつき,異論はないものと考えられ,民事執行法もそのような理解を前提としています。

そして,強制執行の具体的方法は民事執行法で一元的に規定するものとすることが,民法と民事執行法との役割分担が明確となって望ましいとの指摘があります。

また,本文(1)により,履行の強制の方法が民事執行法で定まることを明らかにし,執行方法のメニューを例示するにとどめ,その発動要件等を民法では規定しないものとしています。

以上を踏まえ,本文(3)では,民法第414条第2項及び第3項を削除するものとしています。

この場合,(注)で問題提起しているように,これらの規定内容の全部又は一部を民事執行法に移すための民事執行法の規定の整備等が必要となります。

4 なお,履行の強制に関する規定は,引き続き債権編(民法第三編)のパートに置くことが想定されています。

部会においては,権利の強制的実現は債権のみならず物権的請求権や家族法上の請求権にも関係するから,履行の強制に関する規定は,総則編に置くことも考えられるとの指摘もありました。

もっとも,物権的請求権(例えば,所有権に基づく妨害排除請求権)や家族法上の請求権(例えば,子の引渡しの請求権)の履行の強制について,債権の効力としての履行の強制を念頭に定めた規定内容をそのまま適用することが適切か否かは,慎重な検討を要します。

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債権法の改正・補足説明(その四十五)

2 契約による債権の履行請求権の限界事由

契約による債権(金銭債権を除く。)につき次に掲げるいずれかの事由(以下

「履行請求権の限界事由」という。)があるときは,債権者は,債務者に対してその履行を請求することができないものとする。

ア 履行が物理的に不可能であること。
イ 履行に要する費用が,債権者が履行により得る利益と比べて著しく過大なものであること。
ウ その他,当該契約の趣旨に照らして,債務者に債務の履行を請求することが相当でないと認められる事由


(補足説明)

履行請求権の限界については,現行法の下では,債務不履行に基づく損害賠償や危険負担の債務者主義の要件としての「履行することができなくなったとき」(民法第415条後段,第536条第1項)等の解釈によって導かれており,履行請求権の限界について正面から定めた規定はありませんが,金銭債権を除き,一定の場合に履行請求権を行使することができなくなることは,異論なく承認されています。

履行請求権が一定の事由がある場合に行使することができなくなること(履行請求権の限界事由の存在)は,債権に関する最も基本的なルールであることから,それを明文化する必要があると考えられます。

その場合には,履行請求権の限界事由を具体的にどのように法文に表現するかが課題となります。

判例は,上記の「履行することができなくなったとき」は,物理的な履行の不可能に限られないとして,これを解釈上拡張してきています(部会資料5-2第1,4[9頁,13頁])。

そして,履行請求権の限界事由に該当するか否かの判断基準につき,伝統的な学説は「取引通念(社会通念)」によって判断するとしている一方,近時の学説は,契約の趣旨に照らして債務者に債務の履行を期待するのが相当か否かという観点から履行請求権の限界事由を判断しているとされます。

もっとも,部会における議論を見ても,両者の考え方は,具体的な考慮要素等についてほとんど違いがないということができます。

すなわち,履行請求権の限界事由を「契約の趣旨」によって判断する考え方は,明示の合意のみを考慮するという考え方ではなく,契約の性質,契約をした目的,契約締結に至る経緯等,当該契約をめぐるさまざまな事情に加え,その契約に関する取引通念をも考慮要素に含むものとし,そのような考慮要素に基づく判断を「契約の趣旨に照らして」と表現しようとする考え方です(この点は,前記第8,1も参照)。

他方,「取引通念(社会通念)」を判断基準とすることを支持する考え方も,履行請求権の限界事由の有無を判断するにあたって当該契約をめぐる事情が中心的な判断基準となることは承認しており,明示の合意内容のみが過度に重視されることへの懸念から社会通念を補充的な考慮要素とすべきであるというのであって,契約をめぐる事情を一切捨象して不能か否かを評価判断すべきとする考え方は示されませんでした。

以上を踏まえると,履行請求権の限界事由を明文化するに当たっては「契約の趣旨」を基本的な判断要素として条文上明記することが適切であると考えられます。

そこで,本文では,履行請求権の限界事由の有無が契約の趣旨に照らして評価判断されることを定めるものとしています(本文ウ)。本文ウでは,「契約の趣旨に照らして」を判断基準として明記しつつ,「債務者に債務の履行を請求することが相当でないと認められる事由」という規範的評価を含む表現を用いています。

その外延をできるだけ明確にする観点から,履行請求の限界事由に該当するものの例として,履行が物理的に不可能な場合(本文ア)及び履行に要する費用が履行により債権者が得る利益と比べて著しく過大なものである場合(本文イ)を示すこととしています。

履行請求権の限界事由が認められる場合には,裁判上の履行請求が棄却されるほか,履行に代わる損害賠償請求権を行使することができます(後記第10,3(1)ア)。

また,履行請求権の全部につき限界事由があるときは,債務者に対する催告をすることなく契約の解除をすることができます(後記第11,1(2)イ)。

履行請求権の限界事由に関しては,いわゆる事情変更の法理(後記第32)との関係をどのように整理するかが問題になるとの指摘があります。

具体的には,「社会通念」あるいは「債務者にとっての期待可能性」の観点から「不能」概念ないし履行請求権の限界事由を画した場合に,(現行の)履行不能による処理(損害賠償又は解除)と事情変更の法理の適用が競合する場面が生じ得るところ,いかなる整理をすべきか,という問題です。

この点は,事情変更の法理に関する議論(とりわけ要件論)との整合性に留意する必要がありますが,履行不能による解除は履行できなくなった債務の債権者を契約から解放する制度であるのに対して事情変更の法理は債務者を契約上の義務から解放する方向で機能すること,及び事情変更の法理が問題となる場面には,履行請求権が消滅するという処理では解決できない場合も多いことにも留意が必要であると考えられます。

なお,本文では,契約による債権についての履行請求権の限界事由を取り上げていますが,契約以外による債権についても履行請求権の限界事由は問題となり得ることから(例えば,民法第703条により特定物の返還義務を負う場合には,返還義務につき目的物の滅失等による履行不能が考えられます。),契約以外による債権についての履行請求権の限界事由についても,規定を設けるか否か,検討する必要があると考えられます。

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債権法の改正・補足説明(その四十四)

第9 履行請求権等

1 債権の請求力

債権者は,債務者に対して,その債務の履行を請求することができるものとする。

(補足説明)

民法第3編第2節の「債権の効力」には,履行の強制(同法第414条)や債務不履行による損害賠償(同法第415条)など,債務が任意に履行されない場合に債権者が採り得る方策に関する規定が置かれていますが,その前提として,債権者が債務者に対し,その債務の履行を請求することができること(請求力を有すること)については,明示的な規定がありません。

しかしながら,債権の効力として,債権者が債務者に対し,その債務を任意に履行するよう請求する権能(請求力)が認められることには,異論がありません。

本文は,このことを明文化するものです。

民法上の基本的な原則は,それが専門家にとっては自明なものであったとしても,国民一般が読むことを念頭にできる限り条文上明らかにするという考え方に基づくものです。

なお,債権の基本的効力のうち履行の強制(執行力)については,後記3で取り上げています。

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債権法の改正・補足説明(その四十三)

5 選択債権(民法第406条ほか関係)

選択債権に関する民法第406条から第411条までの規律を基本的に維持した上で,次のように改めるものとする。

(1) 民法第409条の規律に付け加えて,第三者が選択をすべき場合には,その選択の意思表示は,債権者及び債務者の承諾がなければ撤回することができないものとする。

(2) 民法第410条を削除するものとする。

(3) 選択の対象である給付の中に履行請求権の限界事由(後記第9,2に掲げる事由をいう。)があるものがある場合(第三者が選択をすべき場合を除く。)において,その事由が選択権を有する当事者による選択権付与の趣旨に反する行為によって生じたときは,その選択権は,相手方に移転するものとする。


(補足説明)

1 民法第409条の改正について(本文(1))選択債権につき第三者が選択をすべき場合(民法第409条)に関して,当該選択の意思表示を撤回するには,債権者と債務者双方の承諾が必要であることは,異論のない解釈とされます。

本文(1)は,この異論のない解釈を条文上明記するものです。

2 民法第410条の削除について(本文(2))

民法第410条第1項は,選択債権の目的である給付の中に原始的不能又は後発的不能のものがある場合に,原則として不能でない給付に選択の対象が限定されるものとしています。

もっとも,現行民法においても,選択権を有しない当事者の過失で給付が不能となった場合には,選択の対象は限定されない旨の例外が定められています(同条第2項)。

そして,契約時に履行請求権の限界事由が生じていた場合(原始的不能)であっても契約を当然には無効とはしないものとするときには(後記第26,2参照),同条第1項の規律も改め,選択の対象が当然には限定されないものとするのが整合的であるとの指摘があります。

その理由として,選択債権の給付の一部に不能のものがあっても当然には選択肢が限定されないものとする場合には,不能でない方の選択肢に利益を有しなくなった選択権者が不能の給付を選択して契約を解除することが可能になり,選択権者が取ることのできる救済のメニューが広がるというメリットがあるとされます。

また,このように規律を改めても,これにより相手方に追加的な負担を強いることはありません。

以上を踏まえ,本文(2)では,民法第410条を全体として削除するものとしています。

3 選択権の移転に関するルールの新設について(本文(3))

選択権者が選択権付与の趣旨に反する行為によって選択の対象である給付を不能にした場合につき,民法第410条第1項は,不能でない給付に選択肢が限定されるとします。

しかし,この場合については,その選択権者に引き続き選択権を行使させるのは不当であるとした上で,選択肢が当然に残存するものに限定されるとするよりも,選択権が相手方に移転するとのルールの方が,相手方の救済のメニューが広がるというメリットがあるとの指摘があります。

以上を踏まえ,本文(3)では,選択の対象である給付の中に履行請求権の限界事由に該当するものがある場合(原始的不能と後発的不能の双方を含む。)であって,その事由が選択権を有する者の選択権付与の趣旨に反する行為によって生じたときは,選択権が相手方に移転するとするものです。

この規律は,債権者と債務者という二当事者の関係において,選択権を有する一方当事者が選択の対象である給付につき自ら履行請求権の限界事由を生じさせたにもかかわらずその選択権を行使することを不当視するものですから,第三者が選択をすべき場合を適用対象から除いており,括弧書きでその旨を示しています。

この規律に対しては,選択の対象である給付を不能にした選択権者に選択権を行使させるのが不当であるとの価値判断が必ずしも自明なものとは言えないとの批判も考えられます。

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債権法の改正・補足説明(その四十二)

(3) 中間利息控除

損害賠償額の算定に当たって中間利息控除を行う場合には,それに用いる割合は,年[5パーセント]とするものとする。

(注)このような規定を設けないという考え方がある。また,中間利息控除の割合についても前記(1)の変動制の法定利率を適用する旨の規定を設けるという考え方がある。


(補足説明)

1 固定制による中間利息控除の割合の法定中間利息控除は,不法行為等に基づく損害賠償額の算定に当たり,将来の逸失利益や出費を現在価値に換算するために,損害賠償額算定の基準時から将来利益を得られたであろう時までの利息相当額(中間利息)を控除するものです。

中間利息控除に用いる割合につき,判例は,法的安定性や統一的処理の必要性等を理由に,民法所定の法定利率である年5パーセントを用いるべきであるとしています(最判平成17年6月14日)。

また,損害賠償額の算定とは異なりますが,この判例が引用しているように,将来債権の現在価額への換算につき,法定利率による利息相当額を控除する旨の規律を設けているものがあります(民事執行法第88条第2項,破産法第99条第1 項第2号等)。

前記(1)のように,法定利率を変動制に改める場合には,中間利息控除に用いる割合として法定利率を利用する根拠が現状よりも希薄になると考えられます。

その場合に,中間利息控除の在り方を解釈運用に委ねるのみでは損害賠償算定の実務に混乱が生ずるおそれが否定できないとの指摘があります。

他方,中間利息控除に関して何らかの規定を設けるとする場合に,今回の改正作業の中では,損害賠償額の算定に関する現在の実務運用の当否に関する議論はまったく行っていないのですから,そのような議論をしないままに損害賠償額の結論が変更されるような改正をすることは望ましくないと考えられます。

これらを踏まえると,中間利息控除につき法定利率を統一的に用いている現在の損害賠償額算定の実務への影響を避け,現状を維持するために,中間利息控除に用いる割合を年5パーセントとする旨の規定を法定利率とは別に法律で定めることが考えられます。

本文は,このような考え方を踏まえ,損害賠償額の算定に当たって中間利息控除を要するか否かは解釈に委ねることを前提に,中間利息控除をする場合に用いる場合に用いる割合を,固定制により定めるものです。

その際の割合として,年5パーセントをブラケットで囲んで示しています。

2 (注)の考え方

(1) 規定を設けないという考え方

本文のような規定を設けることに反対し,中間利息控除のあり方を実務の運用に委ねるべきであるとする考え方は,中間利息控除に関する明文規定を設けると,中間利息控除の割合を見直すのに法律改正が必要となって,損害賠償額の算定につき柔軟な工夫をする余地を狭めることになりますが,それは相当でないとします。

そのような考え方を踏まえて規定を設けないものとする場合,中間利息控除を要するものとするか否かや,中間利息控除をする場合の具体的な在り方については,実務に委ねられます。

例えば,一定の時点(損害の発生時点等)の法定利率を中間利息控除の割合として用いる考え方や,法定利率とは異なる一定の指標(過去一定期間の国債の利回りの平均等)を中間利息控除に用いる考え方があり得ます。

(2) 変動制による中間利息控除の割合を法定するという考え方

中間利息控除の取扱いを安定的かつ公平なものとするために,中間利息控除に用いる割合を法律で定めることには賛成しつつも,年5パーセントの固定割合を法定することには反対する意見があります。

法定利率につき,年5パーセントという水準が市場金利の趨勢とのと対比で相当でないとして水準を引き下げるのであれば,中間利息控除に用いる割合として年5パーセントという水準もやはり相当でないというのです。

そして,中間利息控除に用いる割合も,市場金利と連動する変動制によるべきであるとします。

もっとも,中間利息控除の割合を変動制により法定するものとしてそれに適切な割合を理論的に突き詰めて探求しようとする場合,現時点で資金調達をすることを前提とした市場金利ではなく,将来の金利変動の予測をも的確に織り込んだ指標を参照すべきこととなります。

しかし,将来の金利変動の予測をも織り込んだ指標のうち,民法において参照するのに適した安定感のあるものは見当たりません。そうだとすると,中間利息控除の割合については,あらかじめ合理的な変動ルールを用意することは困難です。

また,そもそも損害賠償額の算定において中間利息控除を行うという実務の在り方(とりわけ逸失利益の算定の在り方)について,それにより導かれる賠償額の水準がおおむね妥当なものとして受容されていることは承認しつつも,その金額導出のプロセスが技巧的に過ぎて不自然なものであるとの批判があり,不法行為法の見直しをする機会にはこの問題を正面から議論すべきである等の指摘もあります。

以上を踏まえると,今回の改正で中間利息控除に関する規定を設ける場合であっても,その規定は将来にわたる恒常的なものとすることを想定して定めるのは,相当でないと考えられます。

本文で,固定制というシンプルな規定の在り方を提示しているのは,以上のような考慮を踏まえたものです。

部会においては,中間利息控除に用いる割合を変動制により定める場合の具体的な在り方として,例えば,一定の時点(例えば,不法行為時)における変動制による法定利率を中間利息に用いる割合として法定するという考え方も示されています。

3 このほか,前記のように,民事手続関係の法律には,将来債権の現在価額への換算につき,法定利率による利息相当額を控除する旨の規律を設けているものがあります(民事執行法第88条第2項,破産法第99条第1 項第2号等)が,法定利率を変動制に改める場合には,これらの規定を改めるかどうかを検討する必要が生じます。

その場合の改正の在り方として,本文のような規定で定まる中間利息控除の割合を上記の場面においても用いることとすることや,前記(1)で定める変動制による法定利率を,一定の基準時を定めた上で用いることなどが考えられます。

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債権法の改正・補足説明(その四十一)

(2) 法定利率の適用の基準時等

ア 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは,その利率は,利息を支払う義務が生じた最初の時点の法定利率によるものとする。

イ 金銭の給付を内容とする債務の不履行については,その損害賠償の額は,当該債務につき債務者が遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率によるものとする。

ウ 債権の存続中に法定利率の改定があった場合に,改定があった時以降の当該債権に適用される利率は,改定後の法定利率とするものとする。


(補足説明)

1 法定利率につき将来にわたって繰り返し変動する制度とする場合には,個々の債権につきどの時点における法定利率を適用するかや,債権の存続中に法定利率の変更があったときに当該債権に適用される法定利率も変更するものとするか否かについて,あらかじめルールを定めておくことが考えられます。

本文は,この点についての規律を取り上げるものです。

2 本文アは,民法第404条を改め,利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは,その利率は,利息を支払う義務が生じた最初の時点(利息計算の基礎となる期間の開始時点であり,利息を支払う義務の履行期とは異なる。)の法定利率によるものとしています。

民法には,一定の場合に利息の支払を要するものとする規定があり(例えば,民法第704条,第873条),また,利息付消費貸借契約において利率の合意がない場合などには,民法第404条により法定利率の適用があるとされています。

この場面については,利息を支払う義務が生じた最初の時点の法定利率を適用するものとすることは,利息の計算をする初日が利率の基準日となるため,実務的な対応が比較的容易であるというメリットがあるように思われす。

本文イは,民法第419条第1項本文を改め,金銭の給付を目的とする債務の不履行については,その損害賠償の額は,当該債務につき債務者が遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率によることとしています。

本文アで取り上げた,利息に関する法定利率の適用の在り方とパラレルに規律する考え方です。なお,同項ただし書は維持することを前提としています。

このような考え方とは異なり,契約により生じた債権についての遅延損害金には契約をした時の法定利率を適用するものとし,その他の債権については履行遅滞に陥った時の法定利率を適用するものとするとの考え方もあり得ます。

しかし,この考え方については,雇用契約における安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権のように,契約時と損害賠償請求権の発生時とが時間的に離れている場合を想定すると,契約時の法定利率に従うことが適切とはいえないとの批判が妥当するように思われます。

本文ウは,法定利率が適用される債権が存続している間に法定利率の改定があった場合に,当該債権に適用される利率も改定されるものとしています。

法定利率の変動制につき緩やかな変動を想定するものとしていますから,ある債権に適用する利率を途中で変更することのコストは大きなものではないと考えられます。

そうであれば,市場金利との関連性を保つことを優先してよいと考えられるからです。

仮に法定利率適用の基準時を前記のようにした上で,法定利率の変更に伴い適用利率も変更するものとしますと,それは時々刻々発生する利息又は遅延損害金にその時々の法定利率が適用されることを意味しますから,そもそも法定利率適用の基準時という考え方自体が不要となるとも考えられます。

また,法定利率の変更に伴い適用利率も変更するものとする場合,約定利率が法定利率を上回る場合に約定利率を遅延損害金とする民法第419条第1項ただし書によりますと,ある金銭債務の遅延損害金につき,ある時期は法定利率が適用され,ある時期は約定利率が適用されるというケースが生じ得ますが,本文ウの規律は,このような場面が生ずることを前提としています。

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債権法の改正・補足説明(その四十の二)

(補足説明)

1 法定利率の水準の見直しについて(本文(1))

本文(1)は,民法第404条により年5パーセントとされている法定利率につき,当面これを引き下げる見直しをするものです。

我が国においては,近年,市場金利が非常に低い水準で推移しており,それとの対比で,民法が規定する法定利率が年5パーセントとされているのは,市場金利の実勢との乖離が著しいことへの違和感が指摘されています。

また,このような市場金利の実勢から乖離した高い利率が,債権者に紛争の解決を引き延ばすインセンティブを与えるなどの弊害を引き起こしいるとも指摘されています。

そうすると,現在の年5パーセントの法定利率は,基本的に引き下げる方向で見直しをするのが相当です。

もっとも,部会の審議においては,現行の年5パーセントという利率が高過ぎるとの認識について,疑問を呈する意見がありました。

現時点でも,一般事業者等が金融機関から事業資金を借り入れる際の金利が5パーセントを超えることは珍しくないことなどを根拠とするものです。

この意見が説得力を持つような場面は確かに想定され得るので,適切な金利水準を検討する上で留意する必要があると考えられます。

法定利率のあるべき水準を措定するに当たっては,履行期に金銭を受領していたら確実に得られていたであろう運用利益のみを考慮して,一般の銀行預金等の金利と同等の水準にまで利率を下げるのは相当でないと思われます。

得られるはずの運用利益の水準に配慮するのは当然としても,債権者が同額の金員を他から得るために要するコスト(調達コスト)を填補するという観点や,履行のインセンティブを確保するという要請にもバランスよく配慮し,様々な場面に画一的に適用され得る利率として,できる限り広く納得の得られる水準とする必要があると考えられます。

その際に念頭に置くべき法定利率の適用場面は,当事者の合意により利率の約定をすることが想定しにくい場面であり,典型的には損害賠償請求権についての遅延損害金の利率や,不当利得に関する悪意の受益者に対する利息請求権(民法第704条)の利率ではないかと考えられます。

以上のような考慮を踏まえ,法定利率を年5パーセントから引き下げるものとする際の具体的な数値として,年3パーセントをブラケットで囲んで提示しています。

3パーセント以外の数値として,部会では,前述のように5パーセントを維持するとの意見があったほか,現在の市場金利の実勢と対比すると3パーセントでも高すぎるとの意見もありました。

2 本文イは,本文アで定まる法定利率につき,改正後の基準貸付利率(日本銀行法第15条第1項第2号,第33条第1項第2号)の変動に連動して利率を変更する,利率の変動制を採用するものです。

法定利率が適正な水準か否かは,我が国の一般的な経済情勢,とりわけ金融市場における一般的な金利の趨勢との対比で評価すべきことについては,おおむね異論がないものと考えられます。

このような評価の在り方を法定利率の具体的な算定に反映させる方策が,これらの金融市場の実勢を示す指標の変動に連動して,法定利率の数値も自動的に変更されるものとする仕組み(利率の変動制)です。

もっとも,実勢金利を示すとされる指標によっては頻繁な変動をするものもありますが,指標が変動するときに常にそれと同時に法定利率をその変動に連動させるかについては,検討の余地があります。

法定利率が小刻みに変動するものとすることは,実務の負担がいたずらに大きくなるため望ましくなく,法定利率を一定の指標に連動させるとしても,指標の変動に緩やかに連動させるような工夫を施すことが望ましいです。

この点については,法定利率の変動制への移行を支持する立場からも,おおむね異論がないものと思われます。
そこで,本文イにおいては,以下に詳しく説明するとおり,指標の変動に緩やかに連動させることを想定した変動制の在り方を提示しています。

まず,法定利率については,一般的な経済情勢の変動等に連動して適切な水準を確保するために,基準貸付利率を基礎的な指標とする変動制を採用するものとしています。

そして,具体的な改定の仕組みについては,緩やかに変動を生じさせる観点から,改定を年1回に限り,かつ,例えば0.5パーセント刻みの数値で改定されるものとしています。

変動制を採用する場合の基礎的な指標とするのに基準貸付利率がふさわしい理由として,以下の点が挙げられす。

ア 現在の日本銀行の金融政策では,無担保コールレート(オーバーナイト物)の水準の誘導目標が政策金利として位置付けられていますが,基準貸付利率はそのレートの上限を画する機能を持つものとされています。

したがって,政策金利を見直す場合には,それに伴って基準貸付利率の水準も見直しが検討されることになります。

基本的には,政策金利の引上げは基準貸付利率の引上げを伴い,政策金利の引下げは基準貸付利率の引下げを伴います。

そして,金融市場における金利の趨勢は,政策金利とされる無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導目標水準を起点として形成されることから,基準貸付利率の引上げ(引下げ)は,一般的に,金融市場における金利の上昇(低下)を伴います。

以上のような意味で,基準貸付利率は,我が国の金融市場における金利の一般的な趨勢を表していると評価することが可能です。

イ 基準貸付利率は日本銀行法によってその位置付けが明確になっており,その決定又は変更が行われた場合には、その旨が公表されることから,常に参照可能性が確保されています。

その上で,基準貸付利率の変更があった場合に,それをどのような要件の下で法定利率に反映させるかが問題となります。

基準貸付利率の見直しは政策金利の見直しに伴って不定期に行われており,過去には年2回以上の変更があったこともあります。

そうすると,基準貸付利率の変更があった時ごとに法定利率を見直すものとすることは,変更のタイミングの予測可能性が乏しいことや,変更の頻度がやや過大となり得る点において,問題があるものと考えられます。

以上のような問題に対処するため,法定利率の変更を年1回に限ることとしています。

また,法定利率として定められる数字を過度に細かいものとすると,これを用いた計算が無意味に煩瑣なものとなるおそれがあります。

この点に対処するため,法定利率として用いられる数字は,例えば0.5パーセント刻みといった,取扱いの容易な数字とすることとしています。

以上に対して,法定利率につき緩やかな変動を想定するのであれば,その都度の法改正によって対応すれば足りるという指摘があります。(注1)で取り上げた考え方です。

もっとも,この考え方によると,経済情勢等の変動に照らして法定利率の水準が適切でない状態になったとしても,利率の変更のタイミングが政治的な情勢に左右されるおそれがあり,予測可能性が必ずしも高くないことになります。

他方,本文で提示するような変動の仕組みが合理性を持つものであるとすれば,その変更の要否を常に法改正という政治的な判断に委ねる必要はないと考えられます。

むしろ,法律をもって,その後の政治情勢にかかわらずオートマティックに利率が変更される旨を定めた上で,その利率の変更ルールが不合理であるとして見直しが不可避となった場合に限って再度の法改正をするという在り方の方が,取引社会の安定に資するものと考えられます。

また,法定利率につき変動制を導入することに消極的な立場から,損害賠償額算定の際の中間利息控除に用いる割合につき法律により固定した数値を定めるのであれば(後記(3)),法定利率についても固定制とするのが整合的であるとの指摘もあります。

しかし,中間利息控除に法定利率を利用することは,法定利率制度の制度目的からは想定されていなかったものであり,法定利率制度の在り方を検討するに当たって,中間利息控除に関する規律の在り方との平仄を重視することには,疑問があり得ます。

3 法定利率の具体的な定め方の細目(本文ウ)

本文ウは,本文イで提示した変動制を採用する場合の制度の基本的枠組みを受け,法定利率につき変動制を採用する場合の利率決定のルールの細目について,一つの考え方を例示として示すものです。

これを一つのたたき台としつつ,具体的な規定の在り方等につき,引き続き検討を重ねる必要があります。

(1) 本文(ア利率の変更を年1回に限ることとの関係で,利率決定の有無が決まる基準日は,年1日に固定して定めるものとすることが考えられます。

この基準日は,利率が変更がされる場合の周知期間も考慮して,実際に変更がされる日(例えば,毎年1月1日)の1か月ほど前の日(例えば,前年12月1日)と定めることが考えられます。

(2) 本文(イ基準日における基準貸付利率と従前の法定利率決定の基礎となった基準貸付利率とを比較して,その乖離幅が一定の有意な数値以上であったときに限り,法定利率決定の基礎とする基準貸付利率の数値を変更するものとすることが考えられます。

基準貸付利率の変動がわずかなものであるときにも逐一その変動を法定利率に反映させることは,いたずらに実務の負担が過大なものになると思われるからです。

そして,変動部分が変更されるために必要な乖離幅として,差し当たり0.5パーセントを,ブラケットで囲んで提示しています。

(3) 本文(ウ
法定利率については,債権者にとっての運用利益や調達コスト等といった観点にバランスよく配慮しながら,一般の金融市場の趨勢との対比で違和感のない水準を確保する必要があると考えられます。

基準貸出利率が,信用リスクが基本的に低いと考えられる金融機関に対して日本銀行が有担保でごく短期の貸付をする際の利率であることをも踏まえると,民法に定める法定利率の在り方としては,ある時点における基準貸
付利率をそのまま法定利率とするのではなく,これに一定の数値(以下「調整値」という。)を加算したものを法定利率とすることが望ましいと考えられます。

また,本文イで示したように,法定利率の数値を取り扱いやすいものとするためには,基準貸付利率に調整値を加えて算出された数値につき,0.5パーセント刻みの数値とするための所要の修正をすることが考えられます。

そのための修正の具体的な方法として,基準貸付利率に調整値を加えた数値の小数点以下2桁が0.25未満であ
る場合にはこれを切り捨て,0.25以上0.75未満である場合には0.5とし,0.75以上である場合にはこれを切り上げるという計算式を用意しておくことが考えられます。

これによれば,法定利率決定の基礎となる基準貸付利率が0.3,調整値が2.7,法定利率が0.3+2.7=3パーセントであった場合に,例えば,5年目に基準貸付利率が上昇して1.0パーセントとなったときは,法定利率は3.5パーセントに変更されることとなります(基準貸付利率が0.3から1.0に変更されることから,基準貸付利率と調整値との和は3.7となりますが,これが3.5に丸められます)。

4 商事法定利率(商法第514条)の見直しのとの関係((注2)について)

民法に規定される法定利率を見直す場合には,年6分の固定利率制を採用している商事法定利率についても,民法の法定利率と一緒に見直しをするか否かが,別途問題となります。

(注2)は,この問題を取り上げたものです。

商事法定利率につき民法の法定利率より1パーセント加算されているのは,商人であれば非商人よりも有利に資金を運用できるはずであるなどの考えに基づくと説明されています。

もっとも,民法の法定利率を一般的な市場金利と連動するように定めるのであれば,それと異なる利率を商事法定利率として定めることを合理的に説明するのは難しいとも考えることができます。

また,商人である銀行と商人でない信用金庫では,その貸付債権について商事法定利率が適用される可能性に差異がありますが,このような取扱いの違いには合理性がないとの指摘があります。

このように,民法と区別された商事法定利率を定める合理性が乏しいと評価されるのであれば,単純に商事法定利率を廃止する(商法第514条を削除する。)ことが考えられます。

商事法定利率を民法よりも高い利率で定めておくことになお合理性があると考えられるのであれば,例えば,商法第514条につき,変動制による民法の法定利率に1パーセント程度加算した割合を商事法定利率として定める旨の規律に改めることが考えられます。

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債権法の改正・補足説明(その四十の一)

4 法定利率(民法第404条関係)

(1) 変動制による法定利率

民法第404条が定める法定利率を次のように改めるものとする。

ア 法改正時の法定利率は年[3パーセント]とするものとする。

イ 上記アの利率は,下記ウで細目を定めるところに従い,年1回に限り,基準貸付利率(日本銀行法第33条第1項第2号の貸付に係る基準となるべき貸付利率をいう。以下同じ。)の変動に応じて[0.5パーセント]の刻みで,改定されるものとする。

ウ 上記アの利率の改定方法の細目は,例えば,次のとおりとするものとする。

(ア) 改定の有無が定まる日(基準日)は,1年のうち一定の日に固定して定めるものとする。

(イ) 法定利率の改定は,基準日における基準貸付利率について,従前の法定利率が定まった日(旧基準日)の基準貸付利率と比べて[0.5パーセント]以上の差が生じている場合に,行われるものとする。

(ウ) 改定後の新たな法定利率は,基準日における基準貸付利率に所要の調整値を加えた後,これに[0.5パーセント]刻みの数値とするための所要の修正を行うことによって定めるものとする。

(注1)上記イの規律を設けない(固定制を維持する)という考え方がある。

(注2)民法の法定利率につき変動制を導入する場合における商事法定利率(商法第514条)の在り方について,その廃止も含めた見直しの検討をする必要がある。

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債権法の改正・補足説明(その三十九)

3 外国通貨債権(民法第403条関係)

民法第403条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 外国の通貨で債権額を指定した場合において,別段の意思表示がないときは,債務者は,その外国の通貨で履行をしなければならないものとする。

(2) 外国の通貨で債権額を指定した場合において,別段の意思表示がないときは,債権者は,その外国の通貨でのみ履行を請求することができるものとす
る。

(補足説明)

1 本文(1)について

本文(1)は,民法第403条の規定内容を改め,外国の通貨で債権額を指定した場合には,債務者は,別段の意思表示がない限り,その外国の通貨で弁済をしなければならないものとするものです。

民法第403条は,外国の通貨で債権額が指定された場合について,債務者が履行地の為替相場により,日本の通貨で支払うことができる旨を規定しています。

この規定につき,中間的な論点整理に関するパブリック・コメントの手続に寄せられた意見には,同条の規定内容を改め,①別段の意思表示がない限り債務者は指定された外国の通貨により弁済しなければならないものとするか,②債務者が日本の通貨で弁済することができる旨の同条の文言を維持しつつ,これが任意規定であることを条文上明確にすべきであるとするものがありました。

民法第403条については,同条が国家の通貨高権を反映した公法的規定であって,強行規定ですから,当事者の合意による変更はできないとする学説があります。

同条が任意規定であることを明確にすべきであるとの意見は,同条が強行規定であるとの解釈を明文で封じようとするものですが,その実質的理由として,為替取引の自由化が進み,振込みや電子マネー等,決済手段が多様化している現代においては,外国の通貨で債権額が指定された場合について,決済方法に関する当事者のアレンジメントを一律に否定する合理性が乏しいと指摘しています。

部会においては,民法第403条が任意規定であることを明らかにすることについては異論がなく,その際の具体的な規定の在り方につき,外国の通貨で債権額を指定したときは,特約がない限りその通貨でのみ弁済をするというのが当事者の合理的意思であって,そのような当事者の合理的意思を反映した規定に改めるべきであるとの指摘がありました。

本文(1)は,この指摘を踏まえたものです。

2 本文(2)について

本文(2)は,外国の通貨で債権額を指定した場合には,債権者は,別段の意思表示がない限り,指定に係る外国の通貨でのみ履行を請求することができるとするものです。

民法第403条に関連して,判例は,外国の通貨で債権額を指定した場合について,債権者は,日本の通貨により支払をすることを債務者に請求することができるとします(最判昭和50年7月15日)。

中間的な論点整理に関するパブリック・コメントの手続に寄せられた意見には,この判例の規律について,特約により排除が可能であることを規定上明確にすべきであるとするものがありました。

そして,民法第403条の規律に向けられる前記の指摘をも踏まえると,外国の通貨で債権額を指定した場合において,別段の意思表示がないときは,債権者においても,その外国の通貨でのみ履行を請求することができるとの規律を設けることが整合的であると考えられます。

本文(2)は,以上の考え方を踏まえた規律を設けるものです。

本文(2)のような明文規定を設けることについては,前記判例法理は債務者に日本の通貨での弁済を認めている現行の民法第403条の規律を前提として,その規律を債権者にも拡張しているのですから,同条の規定内容を改めることにより前記判例法理が覆ることは明らかであって,あえて規律を設ける必要はないとの指摘もあります。

3 例外的に日本の通貨での履行ができる場合についての規律の必要性

外国通貨債権については,為替規制等により指定した通貨による弁済が極めて困難となることが考えられますが,そうすると,特約がない限り債権者が当該通貨でしか請求することができないとする本文の原則を貫くのは適切でない場合も考えられます。

このような場面に対処する観点からは,債務者が指定された通貨による弁済をすることが困難となったときに,債権者は,支払地における通貨による支払を請求することができるとする規定を設けることが考えられます。

ユニドロワ国際商事契約原則第6.1.9条(2)項が同趣旨です。

このような規定の要否についても,引き続き検討する必要があります。

4 本文の規律が執行実務に与える影響について

部会においては,民法第403条の規律を本文のように改める場合には,それが民事執行の実務に与える影響等を慎重に検討すべきであるとの指摘がありました。

この指摘の問題意識は,具体的には,以下のようなものです。

即ち,現行の民法及び民事執行法には,外国の通貨で表示された債務名義に基づく強制執行を明示的な対象とする規定が設けられていません。

現在の我が国の執行実務においては,外国の通貨で表示された債務名義についても,日本の通貨(円)で表示された債務名義と同様に,通常の金銭執行(同法第43条以下)によっているものと考えられます。

そして,外国の通貨による配当が事実上困難であることから,債務名義に表示されている外国の通貨による金額を適宜の為替レートにより日本の通貨に換算した上で,配当を実施しているものと考えられます。

しかし,日本の通貨による配当が正当化される法的根拠は必ずしも明確でなく,それを現状の民法第403条に求めるほかないのだとすると,同条を本文のように改めた場合に,上記のような執行実務を維持することが困難となるおそれがあるというのです。

このような懸念があることと民法第403条との関係に留意しつつ,引き続き検討する必要があります。

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債権法の改正・補足説明(その三十八)

2 種類債権の目的物の特定(民法第401条第2項関係)

種類債権の目的物の特定(民法第401条第2項)が生ずる事由につき,「債権者と債務者との合意により目的物を指定したとき」を付加するものとする。


(補足説明)

1 種類債権における目的物の特定(民法第401条第2項)の効果については,現行法のもとではおおむね次のように説明されています。

① 原則として,目的物の特定の時点で所有権が債務者から債権者に移転します(最判昭和35年6月24日)。

② 特定後,債務者の負う義務が,調達義務から善良な管理者の注意による保存義務(民法第400条)に切り替わります。

③ 特定後に目的物が滅失した場合,引渡債務は履行不能となり,滅失に関する債務者の帰責事由の有無に応じて,危険負担(民法第534条)又は債務不履行による損害賠償が問題となります。

なお,特定の効果については,②に関して,契約を原因とする債権の内容が特定物の引渡しであるときの保存義務に関する規律の見直しとして,前記1(1)を参照。③の特定物の危険負担における債権者主義については,目的物の引渡しの時に目的物の滅失又は損傷の危険が移転する旨の規律に改めるものとして,後記第35,14を参照。

2 民法第401条第2項が規定する特定の原因には,「債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し」たときと,債務者が「債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したとき」を挙げていますが,本文は,当事者の合意による目的物の指定を,特定を生ずる新たな原因として追加するもので,争いのない解釈を明文化するものです。

これに対しては,当事者の合意により特定が生ずるのは当然のことであって明文化するまでもないとの異論もあり得ますが,部会においては,これを明文化することに特段の異論はありませんでした。

3 種類債権の目的物が特定した後であっても,一定の場合には,債務者がその目的物を同種同量の別の物に変更することができる権利があるとされ(いわゆる変更権),部会においては,これを明文化するという考え方も検討されました。

もっとも,変更権を認めたとされる判例(大判昭和12年7 月7 日)は,株券の返還義務につき,株主名簿の名義書換前であって株券番号が異なる株券を交付しても債権者に不利益を与えないと認められる事案ですが,高度の代替性を有する株券の事案である同判例のみから変更権の一般的な要件を抽出するのは困難です。

他方,債権者に不当な不利益を与えないように変更権の一般的な要件を適切に設定する作業もまた,実際上困難で
す。

そこで,変更権については,これが問題となる場面の解決を契約解釈又は信義則の適用などに委ねることを前提に規定を設けないという趣旨で,中間試案には盛り込まれませんでした。

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債権法の改正・補足説明(その三十七)

第8 債権の目的

1 特定物の引渡しの場合の注意義務(民法第400条関係)

民法第400条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 契約によって生じた債権につき,その内容が特定物の引渡しであるときは,債務者は,引渡しまで,[契約の性質,契約をした目的,契約締結に至る経緯その他の事情に基づき,取引通念を考慮して定まる]当該契約の趣旨に適合する方法により,その物を保存しなければならないものとする。

(2) 契約以外の原因によって生じた債権につき,その内容が特定物の引渡しであるときは,債務者は,引渡しまで,善良な管理者の注意をもって,その物を保存しなければならないものとする。

(注)民法第400条の規律を維持するという考え方がある。


(補足説明)

1 債権の内容が特定物の引渡しである場合の債務者の注意義務(保存義務)について定める民法第400条については,「善良な管理者の注意」という文言からは,契約の趣旨等から離れて客観的に保存義務の内容が定まるとの誤解を招くおそれがあり,規定内容の見直しが必要であるとの指摘があります。

そして,契約を発生原因とする債権にあっては,その内容が特定物の引渡しの場合であるときに,債務者が尽くすべき注意義務(保存義務)の具体的内容が契約の趣旨を踏まえて確定されることには,異論がありません。

以上を踏まえ,本文(1)は,民法第400条を存置しつつ,契約を原因とする債権につき,「善良な管理者の注意をもって」を「当該契約の趣旨に適合する方法により」とし,保存義務の内容が契約の趣旨によって定まる旨を明示する規定に改めるものです。

ここにいう「契約の趣旨」とは,合意の内容や契約書の記載内容だけでなく,契約の性質(有償か無償かを含む。),当事者が当該契約をした目的,契約締結に至る経緯を始めとする契約をめぐる一切の事情に基づき,取引通念を考慮して評価判断されるべきことを示すものです。

裁判実務において「契約の趣旨」という言葉が使われる場合にも,おおむねこのような意味で用いられていると考えられます。

このことを明らかにするために,契約の性質,契約をした目的,契約締結に至る経緯や取引通念といった「契約の趣旨」を導く考慮要素を条文上例示することも考えられることから,本文ではブラケットを用いてそれを記載しています。

他のパートにおける「契約の趣旨」という文言も,特に断りがない限り,このパートで用いているのと同様の意味を示すものとして用いています。

2 本文(2)は,契約以外を発生原因とする債権の内容が特定物の引渡しである場合の注意義務(保存義務)の内容につき,民法第400条の規定内容を維持するものです。

契約以外の発生原因から生じた特定物の引渡債務における保存義務について,前記のような契約を発生原因とする債権に関する保存義務の規定の在り方とパラレルに,「善良な管理者の注意」から,より具体的な内容を明示するものに改めることも検討課題となり得ますが,適切な文言を見出すことが困難と考えられます。

また,寄託のパートにおいて,有償寄託の受寄者が尽くすべき注意義務の内容について,「善良な管理者の注意」という文言を維持した規定を置くものとされています(後記第43,3)。

以上を踏まえ,本文(2)では「善良な管理者の注意」という文言を維持しています。

3 本文(1)(2)のような,特定物の引渡しの場合の保存義務に関する規定を維持するとの考え方に対し,売買契約において売主が目的物の性質等に関して契約上の責任を負うものとする立場から,次のような指摘があります。

すなわち,売買契約における目的物の品質・性能に関する売主の責任の成否は,売主が契約で定められていた品質等を有する目的物を引き渡したか否かを専ら問題にすべきです。

民法第400条をそのまま存置すれば,特定物売買の目的物に滅失や損傷が生じた場合も,売主が善良な管理者の注意を尽くせばそれのみで免責されるとの理解がされるおそれがあります。

このような誤解が生ずることを防ぐという観点から,契約各則で個別の契約類型ごとに保存義務を規定するのは格別,一般的な保存義務の規定を設けるのは相当でない,というのです。

今回の改正では,売買契約の売主の義務として,売主が売買契約に基づき引き渡す目的物は当該売買契約の趣旨に適合していなければならない旨の規律を設けるものとしており(後記第35,3(2)),引き渡した目的物が契約の趣旨に適合していなかった場合であっても売主が保存義務を尽くしていれば一律に免責されるとの考え方は採用していません。

しかし,契約の趣旨に適合した目的物を引き渡さなかった債務不履行(引渡しが履行期より遅延したことも含む。)による損害賠償につき免責事由(後記第10,1(2)))が認められるか否かの判断に当たって,保存義務を尽くしていたか否かが一つの考慮要素となり得ることには,異論がないと思われます。

また,売買のパートに,目的物の滅失又は損傷に関する危険の移転時期に関するルールを設けるものとしていますが(後記第35,14),その規律においては,危険の移転時期(目的物の引渡しの時等)以後に生じた目的物の滅失又は損傷に関しては原則として売主は責任を負わないとしつつ,例外的に売主が責任を負うべき場合として,売主が本文(2)による保存義務を尽くさなかったために危険の移転時期後にその滅失又は損傷が生じたことが挙げられており(後記第35,14(1)第2文),この場面において,保存義務の規定の存在意義を肯定することができます。

以上のように,特定物の引渡しの場合の保存義務に関する規定にはなお存在意義があると考えられることから,必要な修正を施した上で,これを維持するものとしています。

4 (注)で取り上げたのは,本文(1)(2)の場合を通じて,一般的に保存義務の内容を定めている現状を維持すべきであるという考え方です。

この考え方は,とりわけ本文(1)の場合について,「契約の趣旨」が不明な場合にはこれによっては保存義務の内容を確定することができないとして,現行の規定の在り方が相当であるとしています。

もっとも,この考え方に対しては,契約の趣旨によって保存義務の内容を決める際には取引通念を考慮するものとされていますから,契約の趣旨によって保存義務の内容が定まらない場面は想定しにくいとの反論がされています。

また,取引通念を考慮してもなお契約の趣旨が不明であるような場合が仮に存在するとして,その場合に「善良な管理者の注意」という抽象的な文言によれば保存義務の内容が確定できるというのは,理解しにくい考え方であるとの批判が妥当し得ます。

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債権法の改正・補足説明(その三十六)

8 時効の効果

消滅時効に関して,民法第144条及び第145条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 時効期間が満了したときは,当事者又は権利の消滅について正当な利益を有する第三者は,消滅時効を援用することができるものとする。

(2) 消滅時効の援用がされた権利は,時効期間の起算日に遡って消滅するものとする。

(注)上記(2)については,権利の消滅について定めるのではなく,消滅時効の援用がされた権利の履行を請求することができない旨を定めるという考え方がある。

(補足説明)

1 消滅時効の援用権者(本文(1))

民法第145条は時効の援用権者を「当事者」と規定していますが7,判例(最判昭和48年12月14日)は,この当事者の意味を「権利の消滅により直接利益を受ける者」であるとし,具体的には,保証人(大判昭和8年10月13日)や物上保証人(最判昭和43年9月26日),抵当不動産の第三取得者(最判昭和48年12月14日),詐害行為の受益者(最判平成10年6月22日)などがこれに該当し,また,一般債権者(大判大正8年7月4日)や後順位抵当権者(最判平成11年10月21日)などはこれに該当しないとしています。

こうした判例法理を「当事者」という文言から読み込むことは困難ですので,本文(1)では,消滅時効の援用権者の範囲に関する判例法理をより的確に表現しようとしています。

具体的には,上記判例が提示した「権利の消滅により直接利益を受ける者」という表現に対しては,「直接」という基準が必ずしも適切でないという指摘がありますので,それに替わるものとして「正当な利益を有する第三者」という文言を提示しています。

時効の援用権者に関する判例法理を変更する趣旨ではありません。

以上の規律を取得時効にも及ぼすかどうかについては,引き続き検討する必要があります。

2 消滅時効の援用の性質(本文(2))

(1) 民法第145条は,時効は,当事者が援用しなければ,裁判所はこれによって裁判をすることができないとしていますが,この時効の援用の性質に関しては,古くから議論があり,時効期間の経過によって確定的に権利の消滅という効果が発生しますが,弁論主義の制約から,裁判所は職権で時効をもとに裁判をすることができず,当事者による訴訟上の主張が必要であるとし,民法第145条はそのことを定めたものであるとする見解(確定効果説),時効の完成による権利の取得や義務の消滅は確定的なものではなく,援用を停止条件として,あるいは援用をしないことを解除条件として生ずるとする見解(不確定効果説),時効は実体法上の権利得喪原因ではなく,裁判で援用することにより,他の権利得喪原因の証明を要しないで権利得喪の裁判を受けることを認める制度であるとする見解(法定証拠提出説)などが主張されてきました。

古い判例(大判大正8年7月4日)には,確定効果説を採用したと解されるものもありましたが,今日では,当事者の援用を停止条件とし,その援用があって初めて時効の効果が確定的に発生するとする不確定効果説が通説であるとされ,判例(最判昭和61年3月17日)も,これを採用していると解されています。

そこで,本文(2)では,この不確定効果説を明文化して,「消滅時効の援用がされた権利は,時効期間の起算日に遡って消滅する」ものとしています。

このような考え方は,被担保債権について時効が援用されると被担保債権は消滅するので,抵当権の実行は
担保権の付従性によって認められないとする一般的な理解とも適合するものです。

(2) 本文(2)に対しては,消滅時効の効果を,権利の消滅ではなく請求力が失われるものと解する立場から,権利の消滅については規定せず,消滅時効の援用がされた権利の履行を請求することができないということのみを規定するという考え方が示されています。

沿革的には消滅時効とは訴権の消滅の制度であり,比較法的にも,大陸法・英米法を問わず,権利の強制的実現ができなくなる制度として理解されていて,権利の消滅事由とする例はほとんどないこと(フランスでは条文上は権利の消滅と書かれていますが,実際は必ずしも実体法上の債権の消滅事由とは解されていないといわれます。),
援用後の任意弁済を有効な弁済と認めるのが便宜にかなうことなどを理由とします。

そこで,この考え方を(注)で取り上げています。

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債権法の改正・補足説明(その三十五の二)

(補足説明)

1 時効の中断事由の再構成に伴う停止事由の再編成

(1) 停止事由の再編成(本文(1),(4))

ア 前記6(時効期間の更新事由)において,時効の中断事由を時効期間の更新事由に再構成する場合には,現在は時効の中断事由とされている裁判上の請求(同法第149条),支払督促(同法第150条),和解及び調停の申立て(同法第151条),破産手続参加等(同法第152条),差押え,仮差押え又は仮処分(同法第154条)
をどのように取り扱うかが問題となります。

現行法の下では,これらの手続が途中で終了すると時効の中断の効力は生じないとされていますが,他方で,これらの手続が進行している間は催告(同法第153条)が継続してされているものとみて(いわゆる裁判上の催告),その終了時から6か月間は時効が完成しないと解されています(最判昭和45年9月10日民集24巻10
号1389頁等)。

本文(1)第1文は,こうした裁判上の催告に関する現行法下の判例法理を反映して,現在は時効の中断事由とされている裁判上の請求(本文(1)ア),支払督促の申立て(本文(1)イ),和解の申立て又は民事調停法・家事事件手続法による調停の申立て(本文(1)ウ),破産手続参加,再生手続参加又は更生手続参加(本文(1)エ),強制
執行,担保権の実行としての競売その他の民事執行の申立て(本文(1)オ),仮差押命令その他の保全命令の申立て(本文(1)カ)をいずれも時効の停止事由として再編成するものです。

具体的には,これらの手続が進行して認容判決が確定するなど所期の目的を達した場合には,前記6(1)の更新事由に該当することになりますが,その手続が所期の目的を達することなく終了した場合には,その終了の時から6か月を経過するまでの間は,時効は完成しないものとしています。

以上のように時効の停止事由を再編成する場合には,手続の申立てと取下げを繰り返すことによって時効の完成が永続的に阻止されることを防ぐ方策を設ける必要があります。

そこで,本文(1)第2文では,本文(1)第1文の時効停止の期間中に行われた再度のこれらの手続については,時効停止の効力を有しないものとしています。

これは,催告を繰り返しても時効の中断が継続するわけではないとする判例法理(大判大正8年6月30日)を踏まえて,裁判上の催告の繰り返しには時効停止の効力を認めないとする趣旨です。

もっとも,仮差押命令の申立ての取り下げ後に民事調停の申立てをした場合のように,異なる手続の申立てを繰り返した場合にもこのルールが適用されるのかどうかは,引き続き検討する必要があります。

イ 民法第153条の「催告」は,現行法の下では時効の中断事由として掲げられていますが,時効の完成間際に時効の完成を阻止する効力しか有していませんので,実質的には時効の停止事由として機能していると評価されています。

そこで,本文(4)第1文では,「催告があったときは,その時から6か月を経過するまでの間は,時効は,完成しないものとする」として,催告が時効の停止事由であることを明記するものとしています。

また,本文(4)第2文では,催告を繰り返しても時効の中断が継続するわけではないとする判例法理(上記大判大正8年6月30日)を明文化して,催告によって時効の完成が阻止されている間に行われた再度の催告は,時効停止の効力を有しないものとしています。

(2) 債権の一部について訴えの提起等がされた場合の取扱い(本文(2))判例(最判昭和34年2月20日)は,債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起された場合には,時効中断の効力もその一部についてのみ生ずるとしています。

しかし,これに対しては,一部請求を明示して債権の一部についての訴えを提起した場合に,その後に請求の拡張をしようとしても,その時までに既に当該債権の残部について時効が完成しているという事態が生じ得ることから,相応の理由があって一部請求を選択した債権者の保護に欠けるという指摘があります。

そこで,本文(2)では,上記判例とは異なり,有力な解釈論に従って債権の一部について訴えが提起された場合であっても,時効停止の効果(本文(1)ア)は,その債権の全部に及ぶものとしています。

(3) 時効の利益を受ける者に対してしない差押え等の申立て(本文(3))差押え,仮差押え又は仮処分は,時効の利益を受ける者に対してしないときは,その者に通知をした後でなければ,時効の中断の効力を生じないとする民法第155条の規律については,これらの事由を時効の中断事由から停止事由に改めた場合(本文(1)オ,カ)にも妥当すると考えられることから,本文(3)では,強制執行,担保権の実行としての競売その他の民事執行の申立て(本文(1)オ)と仮差押命令その他の保全命令の申立て(本文(1)カ)は,時効の利益を受ける者に対してしないときは,その者に通知をした後でなければ,時効の停止の効力を生じないものとしています。

2 天災等による時効の停止(本文(5))

民法第161条は,時効の期間の満了の時に当たり,天災その他避けることのできない事変のため時効を中断することができないときは,その障害が消滅した時から2週間を経過するまでの間は,時効は,完成しないと規定していますが,これに対しては,2週間という時効の停止期間は短すぎるという指摘があります。

そこで,本文(5)では,その期間を他の停止事由と同様に6か月に改め,時効期間の満了の時に当たり,天災その他避けることのできない事変のため時効の停止事由に該当する手続(本文(1)アからカまで)を行うことができないときは,その障害が消滅した時から6か月を経過するまでの間は,時効は,完成しないものとしています。

3 当事者間の協議による時効停止(本文(6))

現行法下では,当事者間の協議によって時効の完成を阻止する方法が存在しないため,時効完成の間際に当事者間で協議が継続されている場合に,時効の完成を阻止するためだけに訴えを提起せざるを得ないという事態が生じ得ます。

しかし,このような事態は債権者にとってのみならず債務者にとっても不利益です。

そこで,本文(6)では,このような事態を回避するための方策として,当事者間の協議を新たな時効停止事由に位置付けるものとしています。

もっとも,協議という概念は外延が不明確であり,その存否が判然としない場合があり得ることから,ここでは,協議そのものを時効停止事由とするのではなく,協議の合意を時効停止事由としています。

さらに,明確化を徹底する観点から,この合意に書面を要求するという考え方もあるので,これをブラケットで囲んで提示しています。

時効の完成が阻止される期間(時効障害が解消される時点)に関しては,これを明確にする観点から,協議続行を拒絶する旨の通知がされた時という基準を用意した上で,ここでも書面を要するという考え方をブラケットで囲んで提示しています(本文(6)ア)。

さらに,実際上,協議されない状態が継続する事態が生じ得ることから,これへの対応として,当事者間で権利に関する協議を行う旨の合意があった時から一定の期間という別の基準も用意することとし,差し当たりこの期間を1年として,ブラケットで囲んで示しています(本文(6)イ)。

協議が実際に行われていれば,その都度(要件に応じて書面化することにより),この合意があったと認定することが可能なので,本文(6)イの起算点もそれに応じて更新されることになります。

部会の審議では,当事者間の協議による時効停止という制度を設ける意義や必要性については,これを積極的に評価する意見が多かったのですが,他方で,債権の消滅時効における原則的な時効期間が短期化されない場合には(前記2参照),このような制度を設けるまでの必要性はないという考え方も示されたので,これを(注)で取り上げています。

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債権法の改正・補足説明(その三十五の一)

7 時効の停止事由

時効の停止事由に関して,民法第158条から第160条までの規律を維持するほか,次のように改めるものとする。

(1) 次に掲げる事由がある場合において,前記6(1)の更新事由が生ずることなくこれらの手続が終了したときは,その終了の時から6か月を経過するまでの間は,時効は,完成しないものとする。この場合において,その期間中に行われた再度のこれらの手続については,時効の停止の効力を有しないものとする。

ア 裁判上の請求
イ 支払督促の申立て
ウ 和解の申立て又は民事調停法・家事事件手続法による調停の申立て
エ 破産手続参加,再生手続参加又は更生手続参加
オ 強制執行,担保権の実行としての競売その他の民事執行の申立て
カ 仮差押命令その他の保全命令の申立て

(2) 上記(1)アによる時効の停止の効力は,債権の一部について訴えが提起された場合であっても,その債権の全部に及ぶものとする。

(3) 民法第155条の規律を改め,上記(1)オ又はカの申立ては,時効の利益を受ける者に対してしないときは,その者に通知をした後でなければ,時効の停止の効力を生じないものとする。

(4) 民法第153条の規律を改め,催告があったときは,その時から6か月を経過するまでの間は,時効は,完成しないものとする。この場合において,その期間中に行われた再度の催告は,時効の停止の効力を有しないものとする。

(5) 民法第161条の規律を改め,時効期間の満了の時に当たり,天災その他避けることのできない事変のため上記(1)アからカまでの手続を行うことができないときは,その障害が消滅した時から6か月を経過するまでの間は,時効は,完成しないものとする。

(6) 当事者間で権利に関する協議を行う旨の[書面による]合意があったときは,次に掲げる期間のいずれかを経過するまでの間は,時効は,完成しないものとする。

ア 当事者の一方が相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の[書面による]通知をした時から6か月
イ 上記合意があった時から[1年]

(注)上記(6)については,このような規定を設けないという考え方がある。

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